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予算会議は大荒れ模様
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しおりを挟む息つく間もないとはこのこと。
次、次、と、手元の狂いも許されぬ緊迫感の中、治療を進めていく。
最後の患者を診終えたのは院を出てきてから二時間以上経っていた。
今後の指示を飛ばしながら、ようやく溜息を一つついた。
「星鈴様」
治療班の中で一番若い者がそっと近寄ってきた。
「お疲れ様でした。……大丈夫ですか?」
「えぇ。第六課で数日から数週間大人しくさせておけば問題ないでしょ」
「いえ、患者の心配ももちろんなのですが。血分け、なさってたでしょう?」
「あら、見てたの」
「す、すみません!」
そう問うと、非難されると思ったのか、彼はすぐに謝罪の言葉を口にしてきた。
その上で、でも、と言葉を続ける。
「我々は患者に治療を施す技術者であり、また研究者でもあります。見て学び、聞いて学び、やって学び、でしょう? こんな機会はそうそうないと少しの間、手を止めてしまいました」
若い。若いなぁ。
技術を磨こうとするのは良いことだけど。
「その心意気や良し。……ただね、勘違いしないこと」
彼が言った、見て学び云々は、技術者からすると当たり前とも言われるくらいよく散見される後継への技術伝承の手法だ。実際、第六課もその方針だし、他の課も言うに及ばず。
ただ、他の課はどうあれ、第六課は切り替えが必要となるのも当然のこと。研究への飽くなき探究心が、目前の患者への治療よりも優先されていいわけがない。
「第六課はあくまでも患者の治療優先。今回は何もなかったみたいだけれど、目を離した隙に何かあったらどうするの? 遅効性の反応もあるし、アドレナリン出まくりで患者本人も気づいていない痛みが伴う部位もあるかもしれない。研究者の面は自分が相対した患者に対して隠し見せなさい。似た病態の患者はいても、同じ病態はいないんだから、全てが自分の今後の糧になる。本気で研究者の面を見せていいのは」
「薬の実験台として第四課の獄舎から連れてきた罪人に対してのみ、でしょう?」
この硝煙や血で鉄臭い場にそぐわぬ軽やかな鈴のような声音で、背後から話を続けられる。
……あぁ、そういえば、鷹も“外に出てて呼び出しもない”と言っていたっけ。
カミーユ様もいないのに、この捕り物の規模はおかしいと思ってたけど……そういうことか。
声に応えるべく、振り返る。
あくまでも声に応えるのであって、その問いに答えるためではない。
本来、慈善事業ではないのだから、元老院に反抗してきた敵への治療は必要ない。先の元老院への襲撃事件のように一部を除き殲滅されても仕方ないとすら言える。
それなのに、元老院への直接的な攻撃以外の捕り物での敵側の負傷者を何としても生かそうとするのは、我らが第六課のトップであるフェルナンド様のどんな者でも助けたいという意思と……そういうことだ。
隣に立つ彼がごくりと喉を鳴らすのが分かった。その反応からして、第六課の彼もその答えの正否を正しく理解したようだ。あとの折り合いをつけるのは彼自身。
人間の世では知らないが、医療とはそうした犠牲の上で発展し、改善されてきた。
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