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再会は偶然か必然か
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しおりを挟む「誰かお連れの方は?」
「運転手が外に。黒のベンツです」
「ベンツ……」
高級車だってことは分かるけど、実際どれがベンツかと言われると全く当てる自信はない。案内カウンターの女性から連絡を受けたのか制服を着た男性係員が走ってこちらにやって来たので、そっちは任せることにした。
紙とペンを受け取り、これから病院で診察を受ける時に必要な情報を書き込んでいく。
発作が起きた大体の時間、吸入薬の回数、処置後の処理、後は搬送先の医師が他にも確認したいことがあった時用に私の名前と連絡先を書いておいた。
救急車が到着したという知らせを受け、私はようやく肩の荷が降りるのを感じた。
医師であろうとなかろうと、急な出来事は緊張感が増す。それが人の命を預かるならなおさらだ。
「それでは、私はここで。お大事に」
軽くお辞儀してその場を去ろうとした私の腕を、青年がスッと両手で絡めとった。
海外で暮らしていたとはいえ私は日本人、さすがにいきなりの接触に驚きを隠せなかった。
「待って。佐倉圭さん」
青年に渡したメモに名前を書いたから、別に私の名前を知っていても不思議じゃない。
けれどお礼なら先程聞いたし、他に何もないはず。
それになにより、私もこれからどこぞの息子さんとやらを探さなければいけないという何とも難しい問題が残っている。
「あの、何か?」
「貴女を迎えに来たんです。一緒に来て」
「……えっ!?」
青年は驚く私を見て僅かに口元を綻ばせ、いつの間にか後ろに控えていたスーツ姿の男の人の方を向いた。
「彼女と病院に行ってくるから、荷物は任せるよ」
「承知いたしました。佐倉様、お荷物をこちらへ」
「あ、でも……」
「西森先生からの紹介なのに、断ってしまうのですか?」
西森先生のことを知っているなら、この人で間違いないんだ。
「……あー……分かりました。すみません。荷物、お願いします」
「お預かりいたします」
丁寧に一礼した男の人は、私の荷物を持って出口の自動ドアの向こうへ消えていった。
探し人と出会えたのはいいけど、まさかこんな出会い方とは。
事実は小説より奇なりっていうけど、これもそうなのかなぁ。
空港の中に入ってきた救急隊員にストレッチャーはいらないことを告げ、救急車へ彼と一緒に乗り込み、近くの病院へ搬送してもらった。
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