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再会は偶然か必然か
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しおりを挟む国際線ターミナルの入国ゲートは、旅行や出張など海外からの入国待ちの人達でごった返している。
検疫、入国審査を受け、手荷物を受け取って税関検査を終えると、国際線到着ロビーへと買ったばかりのハイヒールの靴音を響かせながら進んだ。
すると当然なんだけど、目にするもの、耳にするものの多くが日本語。
医師国家試験に合格して、そのまま通っていた大学付属病院に研修医として勤めて研修期間が終了した後すぐに今度は交換臨床研修医としてイギリスに渡航して丸々二年の間帰国していなかったからなんだか新鮮味を帯びている。
バッグの中からスマホを取り出し、とある連絡先を探しあて、トンと画面をタッチした。
『はい』
「西森先生ですか? 佐倉です」
『おー! 圭くん、着いたか。悪いな、今日は迎えにいけなくて。急にこの後会合が入ってしまってなぁ』
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、この間の話ですが」
『うんうん、実はな、君がこれから専属医になる家の息子さんが迎えにいってくれているそうだ』
「えっ? ちょっ、話が……ここに、ですか?」
『まぁ、君の送別会の時の写真は渡してあるから大丈夫だろう。……すぐ行く! じゃあ、また何かあったら連絡してくれ』
「ちょっと待って、先生! まだちゃんと引き受けたわけじゃ……切れた」
電話の向こうで呼ばれたらしい西森先生は私の静止を聞くことなく電話を切ってしまった。
そういえば、昔から人の話を聞かないって有名だったっけ。
仕方なしにスマホをポケットに戻し、辺りを見渡してみる。
送別会の時から変わってないから相手は分かっても、私は分からないし……弱ったなぁ。
とりあえず邪魔にならない所に避けていよう。
最小限に留めた荷物が入ったキャリーバッグを引き、比較的空いているコーナーへと足を向けた。
……よし。
後はその息子って人が見つけてくれるのを待つだけなんだけど、大丈夫かなぁ?
本音を言えばこのまま新幹線に乗って実家に帰ってしばらく羽休めしたいところなんだけど。
……あそこのコンビニでなにかお菓子でも買ってこようかな。
壁にもたれていた身体を起こし、肩からずり落ちかけていたバッグを持ち直した時、なにやら向こう側がにわかにざわめきだした。
成田おなじみの、有名人が来日したとか帰国したとか?
でも、最近の有名人は分からないしなぁ。
今、私が見つけたいのはよく知らない息子さんとやらで、有名人じゃないし。
そうは思っても、やはり自分が知っている有名人だったらちょっと嬉しい。
コンビニに入る前に、ほんの少しだけそちらの方を見てみた。
見るからに仕立てが良い和服姿の人の良さげな青年が、たくさんの外国人観光客に囲まれている。
なるほどね。
確かに日本に旅行に来た外国人としては生で初めて見るから興奮して写真とか撮りたがるかも。
実際、向こうで参加したイギリス人の友人の結婚パーティーなどは着物で出席してほしいと頼まれたこともある。
その後しばらくの間、休日のたびに和服を着てみたいと友人達がアパートメントに殺到したほど魅力的に映るものらしい。
騒ぎの原因が分かって、開いた自動ドアを通って中に入ろうとした時、今度は誰かの悲鳴が聞こえてきた。
先程と同じ方角、あの和服青年と外国人観光客達の姿があった方からだ。
〈誰か彼を助けて!〉
女性の英語での悲鳴がロビーに響き渡った。
助けてって……急病人!?
職業柄かすぐに身体が反応し、人混みへ駆け寄った。
「すいません! 私、医者です! 急病人ですか?」
「あぁ、良かった! この方です!」
ついさっきまで空港の案内カウンターに座っていた女性が指す方を見ると、蹲っていたのはあの和服を着た青年だった。
顔色は青白く、呼吸をするたびにヒューヒューと息を鳴らしている。
「すぐに救急車を」
「はい!」
「……荷物、触りますよ? 喘息患者ならどこかしらに……あった!」
青年が持っていた巾着袋の中に財布、携帯と一緒に入っていた小さな細長い容器。
正直、これがないとどうしようかと思うところだったけど、あって良かった。
「吸入薬です。いつも吸ってると思いますが、吸えますか?」
「……」
青年は目を瞑ったままコクコクと頷いた。
少しでも吸いやすいように青年の身体を寄りかからせ、吸入薬のボンベを振る。そのまま青年の口元に持っていき、ボンベの底を押した。シュッと音がして、中の薬剤が噴射されたことが分かる。それから一分後、もう一回ボンベの底を押し、青年の様子を窺った。
しばらくすると、息をする時音が鳴る喘鳴も一時よりは収まってきて、とりあえずは安定している。
青年の手をとり、脈も診てみた。
……まだ早いけど、ステロイドは必要ないかな。
後は念のため救急車で運ばれた先の病院できちんと診察してもらえれば。
「本当ならうがいをして欲しいところなんですけど……ちょっと待っててください」
近くの自販機から水を買って、青年の元に戻った。
キャップを開けて青年に渡し、後ろから様子を窺っていた空港係員に紙とペンを持ってきてもらうようお願いした。
「ゆっくりでいいので、口をゆすぐようにしてから呑み込んでください」
「……ありがとう、ございました」
「いいえ」
か細いながらも声を出せるならもう大丈夫だね。
まさか空港内で診療行為するなんて……ドラマじゃ見かけるけど、実際にするなんて思いもよらなかった。
でも大事にならなくて良かった。
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