異世界って色々面倒だよね

綾織 茅

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隣国でのオタノシミ

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 僕はとんでもないものを召喚してしまったかもしれない。

 白かったはずの寝間着は所々かほぼ赤く染まっている。唯一良かったのは彼女が一度斬り伏せた相手には興味を失くすところだろう。これで嬉々として止めを刺して回るようならどこの戦闘狂だと止めに入った、かもしれない。止められる自信はゼロに近いけど。

 …………はぁ。こことは反対側の隣国の女王は狂っているとの噂だけど、君達の世界の住人はみんなそうなのかい? 確か幼馴染なんだよね?

 あ、加減できないって言ってるけど、これ一応急所外してる。外交問題にならないようにってちゃんと理解してるんだね、偉い偉い。

 ………ってちょっと何でこっち睨むの? え、僕声に出てた?


「誰が外交問題気にしてるって?」
「え? 違うの?」
「んふ。私の睡眠妨害は万死に値する。そう言っただろう?」
「え? う、うん。そう、だね」


 え? なんか嫌な予感がするんだけど……。


「ねぇ、なんでシャンデリアは大きいと思う?」


 …………え。

 ニコォではなくニカァだ。今の彼女の笑みは。

 サーヤは刃についた血を側に転がっていた男の服で拭くとその刀を鞘に戻した。うめいてサーヤを睨みつけた男はそのままクルクルと逆さ宙吊り第二号にされた。

 シャンデリアってこんな頑丈なの? よく保つ……あぁ、補強かけてるのね。納得です、はい。

 総勢八名。正直怖いし気持ち悪い。何で夜中に野郎の逆さ吊りなんて見なきゃならないんだよと言いたい。


「あーあ。目が覚めちゃった。シン、喉乾いたね」
「……紅茶淹れといたよ」
「ありがと」
「椅子に座る前に服着替えて! 椅子汚れるでしょ! あぁもう!」


 どうして自分の格好にそんなに無頓着なんだか。ジョシュアの洋服とか身だしなみには始終口を出すのに。手がかかる。


「シンおかーさん、うるさい」
「うるさくさせてんの! 君が!」


 そして誰がおかーさんだ!


「さて、と」


 喉をうるおしたサーヤは椅子から立ち上がり、男達の前に立った。


「ねぇ、誰の差し金?」
「…………」
「そう。黙秘ね。それもいいけど……勘違いしないでよ?」


 最近はユアンやシーヴァに気圧けおされてなりを潜めていたけど、彼女だって大概だと思うのはきっと僕だけじゃない。彼女だって……


「あんたらの生殺与奪はこっちが握ってるんで。そして私は殺さないよ? ほら、治癒魔術使えるって便利なことでさ? 指の一本、手足の一本、臓器の一つや二つ、斬り捨ててもまた元通り。ずーっと無限ループ。舌を噛み切って死のうなんて思わないことだね。舌がないと喋れないんだから保護させてもらうよ?」
「ちょっとちょっとちょっと! シーヴァから魔術は使うなって!」
「言葉はきちんと正しく聞き取ろうよ。必要最小限にって言ったんだ。しかも、他の誰にも迷惑はかけない」


 あーもう! 目が覚めちゃったとか言ってるけどまだこの子眠いんじゃないの!?

 なに! それとも日頃の鬱憤ここで晴らそうとしてるの!?


「さぁ、いつまでもつか実験といこうじゃないか」


 当初の目的忘れてないよねー!? 襲った黒幕の正体聞き出すだけだよ? 実験ってなに、実験て!


「シン、なんで頭抱えてんの?」
「……いや、人間のあり方について考えてみた」
「ふーん。大丈夫だよ。私は別に斬り取ったやつ食べさせてとかそんなんしないから」
「…………どこの知識なの、それ」
「ん? 二番目の兄貴が大好きだった海外のR指定の映画」
「ちなみに君いくつよ」
「まだ十代」


 お兄さぁーーん! 妹さんになんてもの見せてんですかぁぁぁ!


「……人間怖い」


 そう言うと彼女はきょとんとして笑った。


「今更だなぁ」


 サーヤはユアンやシーヴァを怖いと言うけれど。サーヤ、君も同類だよ。

 神である僕が言うと洒落にならないかもしれないけど、この際だから言ってしまえ。


「この世には神も仏もいないね」


 サーヤは何がおかしいのかケラケラと笑い、男達への攻めを始めた。断末魔のごとき叫び声は魔術で消され、それは朝方ユアンとシーヴァが部屋に来るまで続けられた。
 途中で飽きてきたのかかなりおざなりになったけれど、最後の最後で聞き出した名は、三人の口元を綻ばせるには申し分ない相手だった。

 あぁ、主神よ。どうかどうかお願いです。
 召喚した僕に罰を与えないでください。罰ならあそこにいる三人に。

 天上でこの光景を見ているだろうトップに僕は必死にお願いした。


「どうして最初から魔術で攻めなかったの?」
「え? あぁ、だってほら」


 ユアンの疑問にサーヤは気絶したくてもできない、させてもらえない男達の方を見て


「相手が最も得意とする物でお相手し、グゥの音も出ない程に圧倒的な敗北を味あわせて精神的なダメージを。そして後は武力にせよ魔力にせよ新開発した技の実験台として肉体的なダメージを」
「うん。君の性格って本当に素晴らしいよ」
「いやですねー。褒めても何も出ませんって」
「誰も褒めてはいませんがね? ……生温いんじゃないですか?」


 誰か、担当変わってください、切実に。
 そして魔王よ、ごめん。お前のハードル上げてんの、僕です。
 ついこの間まで恐ろしくはないけれど、面倒な相手の一番がお前だった。うん、変更で。

 あの三人程敵に回して恐ろしい奴らはいない。
 それを再確認させられた出来事であった。

 ああ、天界での平凡な日々が懐かしや……。


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