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隣国でのオタノシミ
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しおりを挟む「せっかく……せっかく……!」
公爵令嬢が俯いて肩を震わせたかと思うと次の瞬間、こちらの方―正確にはレティシア嬢の方に突進してきた。それはもう可憐な令嬢の楚々とした動きは見受けられない。まさしく猪だった。
「あなたねぇ! もっとちゃんとしなさいよ! 生半可な覚悟で王太子妃になりたいですなんて馬鹿じゃないの? おかげで私の計画パァよ、パァ! 私の、婚約破棄されて領地で領主代行としてバンバン成功するって夢がっ! まだ乳呑み子の弟が大きくなってから姉様かっこいーって言われまくるって野望が!」
どうしてくれるのよと憤る令嬢。
なにこれ、いやだ面白い子。ぜひお友達になりたい。
実際王太子に先んじて婚約破棄されて、国王もそれを認めたらそういう未来もあったかもしれない。でも、少しの間彼女を見てそれはないと思った。国王が手放すわけないもの。こんな王妃の器に十分な素質を持った令嬢、しかも公爵家。優秀な息子が他にもいるならそりゃあすげ替えるわな。
「わ、私だってやれることはやってきました!」
「なによ、言ってみなさいよ。言えるもんならね」
御令嬢、ステラシアさんと勝手に呼ばせてもらおう。ステラシアさんは完全にぶっ飛んでいた。ここが皆が集まる公の場ってこと、覚えてるかーい? 台詞が完全に悪役だ。
「炊き出しや寄付は大切なのは分かるわよ。でもね、重要なのはそれをするための財源。あなた、無制限にお金を払い続けられる程蓄えがあるの?」
「な、ないです」
「でしょうね。今までだってあなたにそう言われて王太子殿下が出していたみたいだし。で!? そのお金は一体どこから? 無制限に続けられるものでないならそれはただの偽善でしかないわ」
「……ならばどうすればよろしかったのですか?」
「私達貴族の義務は国を富ませること。その国を富ませるためには何をすればよいか。国民の生活を豊かにすること。そのためには何をすればよいか。それぞれの領地で様々な産業を発展させ、雇用を作ること。我がサイーディル領では新たに茶畑を作り、そこに人を多勢雇ったわ。もちろん雇って賃金払ってはい終わりじゃない。納税分をきちんと民達にも還元し、そこで働く環境を良くすること。それから先はまだ極秘事項よ。当然ね」
興味なさげに顔見知りの他国の官僚と話していたシーヴァもついにステラシアさんの方に顔を向けた。政策の話になったからに違いない。どこまでも仕事人間だ。
「あなたのしたことはただ民達を堕落させるだけ。誰だって楽な方の道も一緒に提示されればそちらに流れるわ。あっという間にダメな人間の完成よ」
「彼女が公爵令嬢で王太子妃候補でなければうちの秘書官に欲しかったですね」
シーヴァがそんなことを言うなんて珍しいこともあるもんだ。リュミナリアは他国と違って実力さえあれば男女関係なく登用されるからねぇ。ステラシアさんが魔王の餌食にならなくて良かったよ本当に。
「しかも極め付けはアレよアレ! あなたのせいで私、アレと婚約させられそうになってるんじゃない! どうしてくれんのよ!」
心なしか先程よりも声に力がこもっている。余程嫌なんだね、第二王子との婚約。いや、果てに見えるのは結婚だろうけどさ。
第二王子は武闘派だからといって脳筋なわけじゃ絶対ない。でなきゃシーヴァがあんなこと言わないし。むしろ……あ、なんだろう。ステラシアさん、たぶんあなた逃げられないよ。
「そんなに嫌か?」
「当たり前じゃない!」
「なら婚約しよう」
「え?」
あ、あぁー、ほらやっぱり。第二王子とユアンは同類だ。
他人の嫌がる顔が大好物。真性ドSだ。
「私だって嫌だけど、君の嫌がる顔は昔から悪くない」
「な、な、な!」
うわーい。心の底からステラシアさんと友達になりたいなー。
それでお互いに相談しあうんだ。ドSの対処法について。……悲しいな。
「よし、決着はついたな。王命の破棄はせぬ。宰相よ、手続きを!」
「は、はっ!」
それから私達は第二王子キドラク殿下とステラシアさんと軽くお話し、会場を後にした。やったね! ステラシアさんとお友達になれたよ! 無言で理解し合えた私達。お友達通り越して心友かもしれない。
「この国に来た甲斐がありましたね」
「うん。あの宰相、自分の娘がキドラク殿下に対して暴言吐くたび卒倒しそうだったよ。しかも国王に直訴だからね」
実に面白い余興だったと魔王サマ達はお喜びです。お怒りもどうやら解け……
「さて、それはそれ、これはこれ。しっかりと今後についてご相談しに行かなきゃね」
「そうですね。ここまでにかかった色々なものの精算もしたいですし」
やっぱり魔王サマ達は魔王だった。そして元王太子とレティシア嬢は最後まで空気だった。
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