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勘違いしちゃったお姫様
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騎士団の鍛錬のための時間しか割けないというのにあの子はよくもまぁ狙ったかのようにしでかしてくれる。
魔術師の証とも言われる黒のローブの裾が邪魔くさい。こんなので戦闘に出ることになれば自分が魔術使えますって広めるようなもんでしょうに。それともなにか? 自分達は後方支援してますってか?
いい度胸だ、最前線に立たせてやる。
「ひ、ひぃ」
「あ?」
「ぼ、僕達も戦闘時にはローブ着用はしないです」
「あ、そうなの?」
どうやら心の声が実際に口から漏れ出ていたらしい。青ざめていた表情をさらに青ざめさせ、正直血の気が全く無くなった表情は若干同情を禁じ得ない。
恐らく先輩魔術師に私を迎えに行くように命じられたのであろう少年は確か……まだ魔術師の卵だ。
この国にはローウェン学院という学校がただ一つだけあり、ありとあらゆる学問が学べる。もちろん、騎士科も魔術科もある。そこの卒業生の中でも優秀な者が王宮や王都の神殿に配属されるのだ。
つまり、元の世界でいう選ばれた新卒。将来有望株ともいう。
なのだけど、ここでは一新卒。こうやって嫌な雑用なんかを押し付けるには格好の相手で……。
…………つまりなにか? 他の魔術師共は私を呼びに行くのを嫌がったと?
…………ほぉ?
かわいい奴らじゃないか。自分からオシオキを受けたいだなんて。
「お、お、おしおき……」
「おっと。また口に出ていたか。皆には言うなよ?」
「え、と」
「言うなよ?」
「……はい」
パワハラだと騒がれそうだがここは異世界。そんな言葉は知らないだろう。
それにパワハラなら私も受けてる。主にとある国の宰相と神官長に。パワハラしまくるおっさんもびっくりの所行をなんのためらいもなくふっかけてくる。これで大丈夫なら俺まだいけんじゃね? とか思わせてしまいそうな危なさがある。そんな会社、絶対ヤダ。心底二人がこの世界の住人で良かったと思う。
「で? あの脳内お花畑女はどこだって?」
「王都の外れの森です。す、すみません」
「謝罪はいらないよ」
王都の外れの森? って、確か魔物が出やすいところじゃないのよ。何を血迷ったか知らないけど、そんなに死にたいのかねぇ?
「私は転移陣で行くよ。ついでだから君も一緒に連れて行こう。術式の実地訓練だ」
「え? あ、は、はい!」
本来なら無詠唱で術式展開させて行けるけど、私の本来のお仕事は巫女姫の監視と魔術師達の鍛え上げ。上ばっかり育っても意味がないからできるところで底上げしていこうと思うんだけどどうだろうか。
「いいか? 本来はこの術式が転移陣に組み込まれているだろう? それを移動先の転移陣に組み込むことでその間の転移が可能となる。ここまでは分かるな?」
「はい」
「そこでここの部分を書き換えると」
「あっ! 移動先が……なるほど」
「ま、書き換え自体はすぐ出来ても移動先が自分の思い通りになるにはある程度の魔力と感覚がいる。結構使うから一日に一度使ってしまえば今の君なら後はぶっ倒れるだろうね。でもま、この王宮勤めができてるくらいだから他に使う魔力の量を最大限節約していけばおのずと回数は増えるんじゃないかな?」
「が、頑張りますっ!」
よろしい。転移術は空間を渡る術式だから卵には難しいだろうけど、こんな素直な子ならちょっと目をかけてやってもバチは当たるまい。その調子で弛んでる先輩魔術師達を焦らせてやれ。
「んじゃあ、行きますよ?」
「はいっ!」
簡単な講義をしたせいで多少時間をロスしたけど、場所が分かってるってことは誰かついてるんでしょう。急いで行かなきゃいけないわけでも……
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