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勘違いしちゃったお姫様
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しおりを挟むはーい。稽古を再開するよー?
「…………」
「せ、先輩」
「何も言うな。何も見るな。何も聞くな」
頭に氷を当てながら再開させたもんだから、騎士達がひそひそ声で話している。そこ、罰として今度の勤務スケジュールは宰相の執務室前な。
決して八つ当たりなんかじゃないと言っておこう。
「とりあえず、だ。出場メンバーは五人。この中で神殿騎士を二人いれることになっている。正直な話、騎士団の団員は皆鍛錬が足りない。団長のミハエルがサボっているのが主な要因だろ、うん」
「ちょっと酷くないか? 僕はちゃんとご婦人を護衛するっていう大事な役目を」
「まごうことなき暇人だな」
ミハエルの言葉を遮ったのはジョシュアを抱えたリヒャルトと、あと一人。見覚えがあるようなないような、そんな影の薄い男がまさしく影のようにリヒャルトの背後に立っている。
リヒャルトが促すとジョシュアが降り、とことこと私の元へ駆け寄ってくる。
マジ天使。
「サーヤ」
「ん? どうした?」
「んーん」
ニコッと笑うジョシュア。もう一度言う。マジ天使。
この子の可愛さは世界一。元の世界では子を持つ親の”自分の子が一番”ってものに鼻で笑ってた感はあった。でも今では分かる。うちの子一番可愛い。まぁ本当の子じゃないけどさ。
「………違うよなぁ」
思わず騎士の一人がそう呟いてしまうくらいには私の相好は崩れていた。違っていて当たり前だろうともさ。そこは開き直りの精神でいかせてもらおう。だって大の大人と可愛い可愛い子供だもの。見た目からして態度が変わるのは仕方なかろうて。
「鍛錬のお邪魔をして申し訳ありません」
「いんや? 丁度良かった。リヒャルト、とそこの君」
「ぼ、僕ですか?」
「いや、他に誰がいる」
「え、あ、そうですよね」
影の薄い彼に声をかけるとビクッとして私と目を合わせてきた。
そうビクビクされると……いじめたくなる、と言いたいけど、ここでそんなことすれば私が虐められ倒す。主に後ろの魔王様に。
言葉を発さずともいる。ヤツはいる。存在を忘れて愚行に出るなんぞすれば、すぐさま魔王様は持てる全てを使って猛撃してくるに違いない。いや、する。
そんな見えきった未来を回避するために私は出かけた言葉を飲み込んだ。
「えーっと名前は……」
「エンリケと言います。よ、よろしくお願いします」
「そう、エンリケさんだ」
「あの、僕なんかで良かったんですか? 僕なんかより他にもいっぱい強い人が」
「のんのんのん。君以上に適任者はいないよ」
そう言いながらも背に隠した片手で火の玉準備。これくらいなら無詠唱でできちゃうから便利なんだよねー。
「だって……ほら!」
「うわっ!」
エンリケが腰に巻いている剣帯から剣を抜きつつ、次々と私が繰り出す火の玉から逃れるように後ろに飛びすさった。
「なっにしやがるっ!!」
肩をいからせながら怒り叫ぶ姿に先程までのおどおどしたエンリケの姿はない。
性格がガラリと変わったエンリケに目を見開いたのは私とリヒャルト、ユアンを除いたこの場にいる全員。あ、あとミハエルも。
「あ、ごめん。手が滑った」
「お前は手が滑ったら術を発動させれんのか!? とんだ手癖の悪さだなぁ、おい!」
「あら、褒めてくれてありがとう」
「褒めてねぇ。これっぽっちも褒めてねぇ、よっ!」
エンリケの豹変は剣を持った時に発動する。普段の彼からは想像できないような剣術の腕を見せ、他を圧倒する。神殿騎士の長であるリヒャルトには及ばないけれど、それでも二番手をはるだけある。
「……でも、私に勝とうなんて百万年早いよ」
そりゃあね? シンに魔王並みの魔力もらってますから?
火の玉だけじゃなく、重力も倍かけたらやっぱりきついらしい。膝を折る人が続出した。もちろんジョシュアとユアンはシンに守らせ済み。
「さぁ、稽古をしようじゃないの」
ひとまずはこの重圧に耐えれるようになってもらいましょう。えぇ、今日中に。
日が落ち、宿舎に帰ってこないリヒャルトとエンリケを心配した同僚の神殿騎士達が目撃したのは死屍累々の山を足蹴にして微笑む悪魔だったという。
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