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勘違いしちゃったお姫様
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ちらちら
「…………サーヤ、聞いておるかの?」
ちらちら
「サーヤ」
ちらちら
「………………サーヤ!」
「うえぃっ!」
ど、どうしたんだ? 魔術師長様。
いきなり耳元で叫ばないでもらえまいか。鼓膜が破れる。
「心配なのはわかるが……」
「そうだろう!? 分かってくれるだろう!? あぁ……怪我しませんように怪我しませんように」
「怪我をしてもそなたの回復術があるではないか? 何をそんなに…」
「確かに治せる。一瞬だ。だがそれでも、痛い、だろう?」
私がそう言うと、魔術師長様だけでなく近くにいた魔術師達の目が丸くなった。
なんだ、その目は。そんなところで立ち止まらずにキリキリ働け。そもそもお前達が不甲斐ないから私が定期的に来るはめになってジョシュアにあんな悪魔の言うことを本当のことかもと思わせる一因になったんだ。さぁ働け! 馬車馬のように!
「そなたは報告では鬼だ悪魔だ魔王だとか言われておったがなんの。優しいの」
「その報告を魔術師長様にした奴。ちょっと一緒にお話合いでもしましょうか」
おい、待て。蜘蛛の子散らしたように全員逃げるな。
お前らが普段私をどう思っているかがよーくわかった。そんなに悪役やらせたいんなら徹底的にやんぞ、こら。
「まぁまぁ。あんまりいじめてやらんでくれ」
魔術師長様は御歳不明。……いや、本当不明なんだよ。白くて長いお髭を触るお姿はまさに某魔法学校の校長先生だ。
情報通のユアンでさえ
「あのお方は僕達が子供の頃からあのお姿だよ」
と言っていた。
決して知らないと言わないところがユアンらしいと言えばユアンらしい。
ということは少なくとも十数年はこの姿ということになる。
不老か。不老なのか。禁呪の一つだけどな。
ふぉっふぉっふぉと好好爺然としている気のいいお爺様だけど、ユアン同様底知れない。
魔術師長様にそう言われればそれ以上の追求もナンセンスだ。
気分を入れ変え、さっきまでと同じように今いる魔術棟から下の庭を見下ろした。
ここは魔術師達が仕事をしたり、一部は生活したりしている魔術棟。その横は神殿となっており、その間には神殿騎士達がよく稽古に使っている中庭がある。
目下ジョシュアもそこで色々教わっているわけで……あぁ心配。
「……あぁ、危ない! ……ふぅ。あいつは確かミハエルとか言ったな」
「さ、サーヤ様、紅茶をどうぞ」
「あぁ。ありがとう」
紅茶を持ってきてくれた少年がビクビクしながら差し出してくれたティーカップを受けとると脱兎のごとくその場から立ち去っていった。
……なんだ、あれ。別に取って食いやしないのに。
「せ、先輩。僕、殺害予告を聞いてしまったかもしれません…」
「やっぱりお前にもアレが聞こえていたか」
「安心しろ。俺たちも聞こえていた」
「……じゃ、じゃあ。サーヤ様に言って止めさせ……」
「「だが断る!」」
給湯室の隅でこんな会話が行われていたのには目を瞑るならぬ耳を塞いでやった。
なんでこんなに優しいのに分かってくれないんだろう。
パチン
……あ。
「「ぎゃあぁっ!!」」
無意識に火炎魔法を使ってしまった。
給湯室から悲鳴が聞こえてきたけど、気のせいか。だって耳塞いでるから聞こえるはずないし?
「ひ、火を消せぇっ!」
「み、水だ!」
「ばっか! 出しすぎだ!」
「す、すみません! ……あぁ火がまた!」
騒がしい。うるさくてゆっくりジョシュアの様子を見れないじゃないか。
あぁ、心配だ。
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