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勘違いしちゃったお姫様
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「うわぁ。綺麗だねぇ」
「……動きづら」
どうして私はヒラッヒラのドレスを着てるんだろう?
黒であるのが唯一の救いだね。これでピンクとかだったら私、軽く死ねる。似合わなすぎて恥ずかしくて死ねる。
「ジョシュア、あんまり引っ張らないで。私までむしり取りたくなるから」
「はーい」
今日も素直な養い子は真新しい洋服を着せられ、いささかご機嫌である。
用意されたテーブルのお菓子を平らげ、今は自分と同じように着替えた私が興味の的になっているというわけだ。
「ねぇ、今日は何で新しいお洋服なの?」
「私達が見世物にされる日だからだよ」
「みせもの? みせものってどういう意味?」
「……辞書で調べなさい」
「あう。僕、まだ字があんまり読めない」
だからだよ。まだ知らなくていいってこと。
ま、調べられたらられたで知識として蓄えられるからそれでもいいんだけどね。
見世物なんて……客寄せパンダにでもなった気分だ。
「ジョシュア。いい? 今日は私がいいと言うまで絶対に側を離れちゃいけないよ?」
「はぁい!」
右手をピシッと上に挙げてお返事。うん、いい子でよろしい。
この原因は遡ること三日前のこと。
「………今度はなんですか?」
神殿ではなく王宮の宰相の執務室に通された時から嫌な予感はあった。
しかもこの部屋の主であるシーヴァだけでなくユアンも揃っているならなおのこと。
否、むしろこの面子で今まで良かったことがあるか? 答えは皆無。皆無だ皆無。
おい、逃げるな? 君も道連れだ。
そろそろとこの場を去ろうとした侍従の少年の肩を抱き寄せた。
もう今にも泣き出しそうな顔で見上げてくるが、私は何も見ていない。
ほぉらお菓子をあげよう。あまぁいあまぁいお菓子だよ?
「あなたはサディストですか?」
「生き生きしてるよね」
真性サディスト達に言われたくない。それに私は違う。サディストなんてロクなもんじゃない。
私はただ、自分の身が可愛くて可愛くて仕方ないんだ。誰かが私を置いてこの悪鬼達の巣穴から逃れることなんて断じて許せない。そのためなら鬼にも夜叉にもなろう。必要だったら悪魔にだって魂売れる。
「…………今度は、私に、何を、させるつもりですか?」
「いえ、ただジョシュアと共に公爵主催の舞踏会に出席して欲しいだけです」
「はい、これ二人への招待状」
「もう返事は一つ返事で出しておきましたから」
「はいっ!? ……ちなみにどの公爵ですか?」
「君の獲物だよ。今度はきちんと仕留めなね?」
ユアンが影のある笑みで口元を歪めた。ペロリと舌で唇を舐める姿はそれこそ肉食獣のソレだった。
おい、少年。気を失うな。しっかり自分を持て!
寝るな! 寝たら死ぬぞ!! 目を開けるんだ!!!
「まったく。だらしのない。………彼をどこかで寝かせておきなさい」
シーヴァが呼び出した新しい侍従に指示を出すと、その彼もすたこらさっさと気絶した彼の脇を抱えて飛び出していった。
「もう少し気骨のある若い人材はいないものですかね」
「サーヤがいるじゃない。サーヤが」
「いや、私一人に何百人分も期待されたら困りますよ。……というかジョシュアまで連れていくのは反対です。断固異議を唱えさせて頂きます!」
まだ舞踏会とかでデビューするには幼く、しかも主催があの豚公爵ともなれば色々と因縁つけてくるに決まっている。
特にジョシュアは己が囲う巫女姫の存在の脅威となりかねん。あの万年脳内お花畑娘も一応神に選ばれてはいるから立場的にはトントン。
でもま、ジョシュアが勇者だってことは言ってないし、私の庇護下にあるとしか紹介してないから標的は私だと判断してもいいか。
それでも先の一件で殺しも辞さないことが分かったから、私への精神的影響を狙って最悪殺しに来るかもしれない。
返り討ちにはするけど、分かっていてそんな危険な目に遭わすほど愚かなことはないよ。
「大丈夫。リヒャルトをつけるし。それになによりシン様だっていてくださるでしょう?」
「様づけしてくれるのは君だけだよ。僕はとっても嬉しい」
そりゃ神官長ともあろう者が神様相手にタメ口とかはおかしいでしょ。そこに持ってきてそうなった時はまさしくこの人が魔王に魂売っちゃった時だ。
そしてシン、泣き真似ウザい。
「……う、うざ……」
今度は本当に泣き出した。
いやぁ、口に出していったら不敬とかでネチネチネチネチネチネチネチネチ……自分で思って気持ち悪くなったけど、言われるに決まってるから、シンの脳内と直通の念話ができて私は凄く嬉しいよ。一方的にこっちから切ることもできるしね。
「だから問題ないから。行って。というか行け」
「後で承諾しておきながら来なかったと難癖つけられるのも面倒ですしね」
それは自分達が私に何の相談もなく判断したが故の結果だとはならない…んですよね!はい、分かりました!!
せめてジョシュアには楽しい思いをしてもらえるよう気を配ろう。
「それでね、君には公爵邸でやってもらいたいことがあるんだよ。そっちも上手くやってくれるよね?」
「…………………………イエッサー、ボス」
軍人ではないけれど思わず敬礼をしてしまった。
あぁ、恐怖政治とはこうして生まれたんだろうなぁ。
ということがあった。
「楽しみだね!」
「…………そうだなぁ」
私にはジョシュアの無邪気な笑顔がたまらなくまぶしく、苦笑いで顔を背けた。
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