上 下
11 / 65
勘違いしちゃったお姫様

7

しおりを挟む



□■□■


「その処刑、待ったぁ!」


 今にも振り下ろされそうだった刃をなんとか宙に押し止め、麻布を被っていた騎士達を解放した。
 パタリパタリと一人でに落ちる縄と黒のローブの裾をはためかせながら歩いてくる私にその場にいた皆が交互に目を向けた。


「国王陛下より温情賜った。よってこの処刑、行うことなきよう」


 魔法で声を拡張し、その場にいた全員に話が通るようにした。

 騎士達は粛々と頭を下げている。命の危険にさらされて喚いてもよさそうなものを、誰一人醜態をさらすようなことはなかった。
 こんなできた男達を失うのは惜しい。きっと人格者になったんだろう。あの腹黒い神官長の元にいたのだから。
 無意識に一番近くにいた騎士の頭を撫でていた。


「……あ、あの。魔術師様?」
「あ、ごめん。ついクセで」


 ジュシュアが良いことをした時は頭を撫でてやってるからつい手が。
 しかも彼が膝立ちしてるから丁度このくらいの高さだし。

 にしても君、サラサラで気持ちいいね。


「……これは一体どういうことだ?」


 豚、もといこの国の公爵である豚、訂正、男がこめかみに青筋を立てていきりたっている。
 どうどう。それ以上怒ると血管切れるぞ?パーンだパーン。憤慨死なんて聞いたことないけど。


「どういうことも何も……国王陛下からのめい。それだけだよ」
「貴様……口の聞き方に気を付けろ」
「あぁ、ごめん。それでは……前国王陛下の兄であり、長子であったにも関わらず、太子に奉じられることもなく、弟に国王の地位を奪われ、その子供である現国王陛下に取り入りながらも巫女姫を使い国民の税金を貪る公爵閣下、これは国王陛下よりのご温情。私めが先ほどお伝えした言葉、お聞きなさいませんでしたか?」
「……貴様」
「あぁ、あと知ってます?貴様という言葉は昔、目上の人に使っていたそうですよ」
「…………」


 公爵の顔はこの数秒の間に真っ赤になった。
 私は事実と豆知識しか喋ってないよ? 怒るなんておかしいよね。


「……覚えていろ。巫女姫様、参りましょう」


 出た! 三大悪役台詞!
 これが一番多いんだよねぇ。ドラマとかアニメとか漫画とか。

 踵を返し去っていく公爵の後を追いかけ、ゆりあが振り返った。


「ごめんなさい。ゆりあのために喧嘩しないで」


 そしてそのまま足早に公爵の後を追っていった。

 ……改心したのかと思ったら違ったよ。
 謝る相手も目的も違うよね? しかも喧嘩ですむようなレベルじゃないよね?


「誰か電動ドリル貸せよ。あいつの頭、お花畑から改造して使えるようにしてくっから」
「ま、魔術師様!」
「死にます! そんなことしたら改造前に死にますから!」
「あの馬鹿さは一回死なないと治らないと思うんだよね。だからちょっと慈善活動行ってくるわ」
「サーヤさぁん! 今度うちの商品サービスしますから!」
「……あ、おばさんとこの」


 確か名前は……ヨハネだったか。


「いやぁ、無事で良かったよ。で、ほら」
「はい?」
「電動ドリル」
「まだ言うんですか! ……しかも電動どりる?って何ですか!?」


 あ、知らない? まぁ、そっか。ここ電気ないもんね。魔法であらかた動くから。
 でもよく話繋がったね。

 羽交い締めにして止めてきた騎士達を見ると


「表情と言葉の内容で……」
「だいたいのことは想像つきます」
「「「慣れてますから」」」

 …………おぅ。誰で慣れてるかは聞かないでおいた方が懸命だな。
 でも分かるよ、君達、苦労してるんだね。

 抵抗するのをやめ、そっと一人一人の肩をポンっと叩いて回った。
 騎士達も何を感じたのかフッと遠い目をしている。
 何だろう。このあっちゃならないだろう連帯感。



しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...