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プロローグ
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しおりを挟むついさっきまで家に帰りたい、パパとママに会いたいと繰り返し泣いていた男の子がやっと泣きつかれて寝てくれた。見たところ幼稚園生くらいだろう。
子供は嫌いじゃないけど、これはあんまりだと思う。制服のリボンが鼻水まみれになっている。肩の部分も涙か鼻水でぐしょ濡れだ。ま、どうせもう使わないだろうからいらないけどね。
だって帰れない言われたし。神様に。
大事なことだからあえてもう一度言おう。言われたんだ、バカに。
「……あれ? 気のせいかな? バカって二回目はっきり言われた気がする」
「へぇ。自分がバカじゃないってそう言いたいの? どの口が? あぁ、この無駄に美形な顔についてるこの口かぁ。ふふ。むしりとってやりたくなるね。今、この瞬間とか特にさぁ」
「しゅ、しゅみましぇんしぇした」
私の名前は氷室朔夜。男っぽい名前に影響されたか男家族しかいなかったことが問題だったのか私はなんとも中途半端な存在になってしまった。
ぽっと顔を赤らめた一部の女の子集団に呼び出されること、月に数回。
高校に入っていきなり成長期を迎えた私の身体は女子にしては高く、母親譲りだった長い黒髪をばっさりと切ってショートにした時から思えばソレは始まった。
乙女ゲームとかなら色んなフラグが乱立されたんだろうけど、まぁここは現実。女子にモテる女子がいるってくらいのみんなの認識だった。
高二になって随分と去年よりかは過ごしやすくなった時期だというのに……どうしてくれよう。二度と帰れないなんて。
ふふ。あはは。
怒りと焦りが混ざると人間どんな行動に出るか分からないとはよく言ったもんだよね。
「はにゃしふぇふだしゃい」
「離せ、と? 何を? 主語、述語、目的語、きちんと入れて話していただかないと私にはさっぱり分からないな。ほら、日本語は難しいと聞くだろう? フィーリングで、なんてものを求める奴がいるけどもそんなのは気心知れた仲間うちでしか通用しないと私は思うんだよね? どうかな?」
ん?と微笑んでやると神様とやらは途端に顔を青ざめさせ、日本独特の謝罪をやってのけた。
どこで日本語とその謝罪方法を学んだのか知らないし興味もないけど、土下座って素晴らしいよね? 上から眺める景色は最高。踏み心地も格別。
「グエッ。……俺、神なのに。これでも一応たくさん信者がいる神なのに」
「ふーん。奇遇だね。私も信者が結構いるある宗教の信者でさ。どこのかって? 八百万の神々を祀る神道よ」
神様八百万もいるんだよ? なら私をこんな異世界に来させて二度と帰せないなんて宣ってくれた一人くらい、いいんじゃないかなぁ?
「信仰する宗教が違えばその信じる神以外はみな異教の神になる。つまり神だからといって万民に敬われ、崇められると思ったら大間違いなんだよ」
「そ、それは極論なんじゃ……」
「極論? 極論っていうのは語弊があるんじゃないかな? それもまた一部では真理でもあるんだから。それかアレだね。人間と神の見解の相違だよ。自分の意見を相手に押し付けるのはいただけないんじゃないかと思わない?」
「今まさしく押し付けられているような……」
「それは残念ながら気のせいだよ。そう、気のせい。曲がりなりにも神を自称するなら……分かるよね?」
「………………」
とうとう黙りこくってしまった自称・神。ここに連れてこられたから神様なのは一億歩ぐらい譲って認めるとして、やっぱりこの状況はいただけない。
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