上 下
1 / 65
プロローグ

1

しおりを挟む



 ついさっきまで家に帰りたい、パパとママに会いたいと繰り返し泣いていた男の子がやっと泣きつかれて寝てくれた。見たところ幼稚園生くらいだろう。

 子供は嫌いじゃないけど、これはあんまりだと思う。制服のリボンが鼻水まみれになっている。肩の部分も涙か鼻水でぐしょ濡れだ。ま、どうせもう使わないだろうからいらないけどね。

 だって帰れない言われたし。神様バカに。
 大事なことだからあえてもう一度言おう。言われたんだ、バカに。


「……あれ? 気のせいかな? バカって二回目はっきり言われた気がする」
「へぇ。自分がバカじゃないってそう言いたいの? どの口が? あぁ、この無駄に美形な顔についてるこの口かぁ。ふふ。むしりとってやりたくなるね。今、この瞬間とか特にさぁ」
「しゅ、しゅみましぇんしぇした」


 私の名前は氷室朔夜ひむろさくや。男っぽい名前に影響されたか男家族しかいなかったことが問題だったのか私はなんとも中途半端な存在になってしまった。

 ぽっと顔を赤らめた一部の女の子集団に呼び出されること、月に数回。
 高校に入っていきなり成長期を迎えた私の身体は女子にしては高く、母親譲りだった長い黒髪をばっさりと切ってショートにした時から思えばソレは始まった。

 乙女ゲームとかなら色んなフラグが乱立されたんだろうけど、まぁここは現実。女子にモテる女子がいるってくらいのみんなの認識だった。


 高二になって随分と去年よりかは過ごしやすくなった時期だというのに……どうしてくれよう。二度と帰れないなんて。


ふふ。あはは。

怒りと焦りが混ざると人間どんな行動に出るか分からないとはよく言ったもんだよね。


「はにゃしふぇふだしゃい」
「離せ、と? 何を? 主語、述語、目的語、きちんと入れて話していただかないと私にはさっぱり分からないな。ほら、日本語は難しいと聞くだろう? フィーリングで、なんてものを求める奴がいるけどもそんなのは気心知れた仲間うちでしか通用しないと私は思うんだよね? どうかな?」


 ん?と微笑んでやると神様とやらは途端に顔を青ざめさせ、日本独特の謝罪をやってのけた。

 どこで日本語とその謝罪方法を学んだのか知らないし興味もないけど、土下座って素晴らしいよね? 上から眺める景色は最高。踏み心地も格別。


「グエッ。……俺、神なのに。これでも一応たくさん信者がいる神なのに」
「ふーん。奇遇だね。私も信者が結構いるある宗教の信者でさ。どこのかって? 八百万の神々を祀る神道よ」


 神様八百万もいるんだよ? なら私をこんな異世界に来させて二度と帰せないなんて宣ってくれた一人バカくらい、いいんじゃないかなぁ?


「信仰する宗教が違えばその信じる神以外はみな異教の神になる。つまり神だからといって万民に敬われ、崇められると思ったら大間違いなんだよ」
「そ、それは極論なんじゃ……」
「極論? 極論っていうのは語弊があるんじゃないかな? それもまた一部では真理でもあるんだから。それかアレだね。人間と神の見解の相違だよ。自分の意見を相手に押し付けるのはいただけないんじゃないかと思わない?」
「今まさしく押し付けられているような……」
「それは残念ながら気のせいだよ。そう、気のせい。曲がりなりにも神を自称するなら……分かるよね?」
「………………」


 とうとう黙りこくってしまった自称・神。ここに連れてこられたから神様なのは一億歩ぐらい譲って認めるとして、やっぱりこの状況はいただけない。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...