異世界って色々面倒だよね

綾織 茅

文字の大きさ
上 下
65 / 65
かの肩書、王太子なり

14

しおりを挟む
 

 日が暮れ、辺りの街灯がともり出した頃。
 何かと目立つし動きづらいドレスから普段着に戻り、魔物が出るという街に再び繰り出す。


 ジョシュアの世話は近所のおばさん達に頼んであるから問題ないにしろ、私がゆっくりしたい。帰りたい。由貴のところに行く約束もしちゃったし。騎士団同士の決闘の話もお流れにはなってなさそうだし。

 ……あーぁ、由貴んとこの国にある温泉にまた入りたいなぁ。
 

 そんな願望を心の中でいくら願ったところで、実際に叶うこともなければ問題が勝手に解決してくれるわけでもなく。

 集めた情報の補完をするべく完全に日が落ちるまで街を回り、いち旅人のフリをして情報固めを行った。

 結果、由貴達が聞き込んだ情報以外にもいくつか新しい事実が分かった。

 一つ、魔物が出るといっても声や足音といった音を聞いただけで、実際に姿を見た者はいないこと。二つ、境目になっている通りには、過去、とある著名な魔術師が魔物の死体を使って魔物封じの術をかけたということ。三つ、笛吹男と魔物、現れる時は大抵笛吹き男の笛が鳴るのが先だということ。

 これらの情報に、魔物が通りのこちら側には来ないことを合わせると、何故魔物がこちら側には来なかったのかが分かった。来なかったんじゃなく、来れなかったんだ。その昔かけられた術の効果は今でも持続しているらしい。

 おそらく、本来人が住む区画は通りのこちら側で、人口が増えるにつれ、そして時が経つにつれ、その伝承ともいえる魔術師の話は人々の記憶から薄れていった。そして、とうとう通りのあちら側にも人が住むようになってしまった。そんなところだろう。

 ただ、気になるのは魔物の死体・・・・・を使って魔物封じの術をかけたってことだ。

 今回、ここまで広範囲に広がる術をかけた時に使った魔物の死体の数だけど、おそらく一匹二匹ではきかないだろう。それも、魔物達からしてみれば同胞を封じる術に使われるのだから、たまったものではないはずだ。当然、恨み辛みも募ろうというもの。

 そうなると、思い当たることが一つある。元の世界では外法とも言われた術だ。

 その術の名を――蠱毒こどくという。

 字面でもある程度想像はつくと思うが、虫を大量に集めてきて一か所に集め、互いを襲わせる。最後まで生き残った虫を使い、富を得たり、逆に人に害を与えたりするのがソレ。

 正確にいうと少し違うけれど、力を増幅させて使うという点では一緒だと思う。


「そこの君っ!」
「は?」
「魔物が出るという話を知らないのか? 早く家か宿に戻るように!」
「……あぁ、はい。分かりました」


 店の壁に身体を持たれかけさせて考え事をしていたら、どう見ても自警団ではなさげな恰好の男達が声をかけてきた。

 国の兵士か、それに準じる者達か。リュミナリアならまだしも、この国の警備体制はよく知らないからどこの所属とも知れない。けれど、国から派遣されてきたというのは間違いなさそうだ。現に、腕章にこの国の紋章がかたどられている。

 適当に返事をすると、その返事に満足したのか、男達は向こうの方へ歩いていってしまった。


「……また絡まれても面倒だし、姿を消しておくか」


 指を一鳴らしすると、薄い膜のようなものが身体の周りを覆う。これで魔術を解かれることがない限り周りから見とがめられることはない。


「さて、どうしたもんかね」


 手っ取り早い解決方法は、魔物か笛吹男が目の前に現れてくれることだ……け、ど。


「……あ。みっけ」


 道化師姿の男が私のすぐ目の前を縦笛を吹きながら歩いていく。

 いつもなら、待ってましたとばかりに術をかけて仕留め……足止めするのに、今回ばかりは少しの間スルーしてしまった。

 というのも、その男と顔を合わせるのがはばかられる状態だったのだ。

 道化師姿というだけでも十分奇天烈きてれつというか、一般人とは一線を画すのに、それに輪を加えての号泣状態・・・・。普通にしていれば女性が自分から寄っていきそうな容姿をしているのに、滝のような涙に鼻水がその美点を台無しにしてしまっている。


 分かる。事を起こす前に分かる。コレ、絶対面倒くさいヤツだ。


「ほーらぁー。戻っておいでぇー。帰るよぉー。……戻ってこいってばぁー」


 鼻水をズルズルいわせてるんだから鼻が詰まっているだろうに、きちんと笛が吹けている。どういう仕組みになっているのか分からないが、男が人間じゃないことだけは確かだ。


「……」


 ……はいっ、解決。解決ぅー。かいさーん。

 蠱毒? 恨み辛み? 全っ然そんな大層なものなんかじゃなかった。世の中もっと単純だってこと、完全に忘れてた。

 おおかた、奴が世話をしていた魔物に逃げられて、それを呼び戻している最中なんだろう。

 まぁ、そりゃそうか。そんな大仰なものが発端なら、この国の魔術師も異変に気付いているはずだわな。派遣されるのも兵士連中じゃなくて魔術師達のはず。


 余所を向いて遠い目をしながらふっと溜息を吐き、その後、男が歩いて行った先を見ようと顔をそちらに向ける。 

 すると、目に毒な原色系の衣装が目に飛び込んできた。それもかなりの至近距離で。

 その情けない姿からは全く想像できないけれど、気配を完全に絶てるくらいには実力があるようだ。さらに、隠れているモノを見つけ出すこともできるらしい。油断大敵っていう言葉を今更思い出す。


 「……なにさ」


 道化師姿の男がウルッウルの涙目で唇を噛みしめ、こちらを見下ろしている。それからガバリと両腕を広げ……。

 ――次の瞬間、私は絞られた雑巾の気分を味わわされることとなった。

しおりを挟む
感想 11

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(11件)

龍牙王
2017.08.01 龍牙王

シーヴァ達が、魔王な気がW

解除
龍牙王
2017.07.31 龍牙王

こわ~~

解除
Luxysell
2017.07.28 Luxysell

書き方も進め方も内容も面白いですねぇ

でもちょっと誰が喋ってるのか分かりにくい感はあります今更ですが笑

頑張ってください!

P.S.>いきなり上から目線ですみませんです

解除

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界転移した町民Aは普通の生活を所望します!!

コスモクイーンハート
ファンタジー
異世界転移してしまった女子高生の合田結菜はある高難度ダンジョンで一人放置されていた。そんな結菜を冒険者育成クラン《炎樹の森》の冒険者達が保護してくれる。ダンジョンの大きな狼さんをもふもふしたり、テイムしちゃったり……。 何気にチートな結菜だが、本人は普通の生活がしたかった。 本人の望み通りしばらくは普通の生活をすることができたが……。勇者に担がれて早朝に誘拐された日を境にそんな生活も終わりを告げる。 何で⁉私を誘拐してもいいことないよ⁉ 何だかんだ、半分無意識にチートっぷりを炸裂しながらも己の普通の生活の(自分が自由に行動できるようにする)ために今日も元気に異世界を爆走します‼ ※現代の知識活かしちゃいます‼料理と物作りで改革します‼←地球と比べてむっちゃ不便だから。 #更新は不定期になりそう #一話だいたい2000字をめどにして書いています(長くも短くもなるかも……) #感想お待ちしてます‼どしどしカモン‼(誹謗中傷はNGだよ?) #頑張るので、暖かく見守ってください笑 #誤字脱字があれば指摘お願いします! #いいなと思ったらお気に入り登録してくれると幸いです(〃∇〃) #チートがずっとあるわけではないです。(何気なく時たまありますが……。)普通にファンタジーです。

ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました

グミ食べたい
ファンタジー
 疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。  そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。  逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。  猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。  リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。

お願いだから俺に構わないで下さい

大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。 17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。 高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。 本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。 折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。 それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。 これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。 有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。