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かの肩書、王太子なり
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しおりを挟むここで一つ、確認しておくべきことがある。ここは学園の女子寮の中。また、王侯貴族の子弟子女が大半のこの学園において、風紀が乱れることはよろしくないと、男子寮女子寮に部屋を持つ生徒の行き来はエントランスを除きご法度である。
大事なことなのでもう一度言おう。行き来はご法度である。
「殿下! なりません! 殿下っ!」
「フェリシア嬢に何をする気だ!」
バンッと大きな音を立てて開かれたドアは可哀そうに、ドアノブの部分が壁に当たって傷ついている。
勢いづいて入ってきたはいいものの、王太子のその強気さは瞬く間にシュルシュルと縮んでいった。
『ご機嫌麗しゅう。我らが王太子殿下』
『随分とお元気のようで何より』
丁度と言っていいかは分からないが、遠くにいる相手とも話ができる水鏡のようなものに魔王サマ方から連絡がきたのだ。それに二人が映し出され、私はそれを部屋に入ってくるだろう王太子殿下にも見えるよう、両手で恭しく持って構えていた。
決して、報告材料を一つでも減らそうと思っての行動ではない。あくまでも、実況中継的なアレだ、アレ。とにかく、それは大層効果的であった。
今ではもう、王太子殿下は身を縮こまらせてさえいる。
『サーヤから女子寮にいると聞きましたが? まさかとは思いますが、規則を破り、感情のままに行動してその場にいらっしゃる。そうではないですよね?』
『いやいや、宰相閣下ったら、まさか! リュミナリアの代表にして王太子殿下である御方が、そんな国の恥になるようなことするわけないじゃない』
『それもそうですよね』
この場から脱兎のごとく逃げ出さなかったのは正解だろう。そうなれば、後でまたこれよりも数倍うすら寒い言葉で責められることが、王太子にも重々分かっているとみえる。さすが、彼らの餌食になっていた年数が違う。
顔を青褪めさせる王太子殿下。それをにこやかに見る魔王サマ方。王太子殿下を心配そうに見つつ、どうしていいか分からず、殿下と魔王サマ方を交互に見るフェリシア嬢。そして、三者三様なさまを無になりながら黙って遠くを見つめ、やりすごそうとする私。ローランドは魔王サマ方の言葉の裏が分かるから、王太子殿下に対して不敬な言葉を裏に含む二人をじっと睨みつけていた。
……うん、なかなかなカオス具合。由貴や由貴の近衛騎士であるおっさん――ダグラスが一緒にいなくて良かったよ。これ以上カオスな現場になるのは私も本意ではない。というより、仕掛けた本人だけど、収拾が面倒くさい。
『あぁ、サーヤ。報告、後でしっかりと頼みますよ』
「はーい」
その言葉を最後に、通信はぷつりと途絶えた。
この状況が一人呑み込めない様子のフェリシア嬢に、改めて挨拶をしなけりゃならんよなぁ。
椅子から立ちあがって片手を胸に当て、フェリシア嬢に向け、略式の礼であるお辞儀をする。
「改めまして。リュミナリアの庇護を受けている魔術師が一人、サーヤでございます。今回は先程の宰相閣下と神官長猊下の命でお二人のことを調べに参りました」
「えっ!」
「あぁ、ご心配なさらず。その件に関しては、私は王太子殿下にご協力することをお約束しております」
「その件、というと? 他の件が?」
二人との通信が途絶えたことで活力を取り戻した王太子殿下が、その場に立ったまま、不思議そうな顔して尋ねてくる。
私も魔王サマ方に負けず劣らずニコリと微笑むと、彼も私が言いたいことを理解したらしい。フェリシア嬢への詫びの挨拶もそこそこに、くるりと方向転換し、来た時同様慌ただしく廊下を走って出て行った。
さて、そろそろ私もお暇するべきだろう。報告をと言われたし。面倒なこと極まりないが、これも仕事。仕方がない。
……転職、いや、この場合、他国に引っ越しか。できないもんかなぁ。
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