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かの肩書、王太子なり
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フェリシア嬢の部屋は個室になっていて、淡い色――パステルカラーを基調とした内装になっている。出会って少ししか経っていないけど、彼女らしい部屋だよなぁって感じ。まかり間違っても、某国の女王陛下のように拷問器具を自室にまで持ち込んでいたりしない。
いや、由貴が例外中の例外だなんてことは分かってる。それに、元は男の子だったんだし。拷問器具……憧れるものなのかねぇ。うちの兄もそうだったし。……いやいや、まさか。うちの兄に影響されただなんてそんなこと。……いやいやいや。
「えっと、どうぞ椅子にかけてお待ちください。すぐにお茶を淹れますから」
「……あぁ、お構いなく」
「いえっ。……えっと、そうだ。実家から良い紅茶の茶葉を送ってもらったんです。でも、一人だと勿体なくてあけられなくって」
明らかにとってつけたような言い分に、つい笑ってしまった。でもまぁ、それに乗っかってみるのもいいかもしれない。持ち帰える情報は少しでも多い方がいい。
「そうですか。それならご馳走になります」
「ふふっ。良かった」
部屋の中央に置かれたテーブルと、椅子が二脚。そのうちの一つに腰かけ、フェリシア嬢の準備が整うのを待った。
その間、手持ち無沙汰になってしまったものだから、お茶のお礼に部屋を飾る花でもと思って、季節の花をポンポンっと魔術で出していく。もちろん花瓶もだ。
フェリシア嬢がお茶を淹れて戻ってくる頃には、テーブルの上に置かれた花瓶は花で一杯になっていた。
フェリシア嬢は突然現れた花瓶と花に、目をパチパチと瞬かせて驚いている。
「これ、どうなさったんですか?」
「お茶のお礼にと、魔術を使って出しました」
「そんな……嬉しい。ありがとうございます!」
どうやら出した花のうちに彼女の好きな花があったらしい。しばらくの間、本当に嬉しそうに花瓶を見つめていた。
そこまで喜んでくれると、やった甲斐があるというもの。貴族の娘としては感情を表にすることはご法度だろうが、今は私と二人っきり。こうした顔を見れるのもこういう場だからこそだろう。
軽く会釈して、淹れてきてくれた紅茶のカップに口をつけた。
……あぁ、確かに、これは美味しい。普段は飲まない甘めの味に、鼻腔を紅茶独特の仄かな香りがふんわりと占めていく。彼女が勧めるのも頷ける。
「えっと……サーヤ様、でしたよね?」
フェリシア嬢も向かいの椅子に座りながら、そう尋ねてきた。
「サーヤで構いません。このように身綺麗にしておりますが、貴族ではございませんので」
「えっ? いえ……では、サーヤさんとお呼びしますね。私、学園内で貴女をお見掛けしたことがないのですが、今日はどんな……って、あっ!」
「どうしました?」
「私とお会いした時、どなたかを待っているっておっしゃってませんでした!?」
「あぁ、気にしないでください。向こうもそうそう簡単に片付く用事ではないので。お茶をする時間くらいはまだ十分ありますから」
「そうですか。良かった。私が引き留めたせいで、お相手の方をお待たせしてしまってるんじゃないかと」
椅子から僅かに腰を浮かしていたフェリシア嬢は、気が抜けたのか、再びストンと腰を落とした。
「今日はどんな……でしたね。用事でということであれば、私の上司的位置にいる方々から、この学園に通っている方の様子を見てきてほしいと頼まれまして。友人と一緒に来させていただいたんです」
「そうだったんですか。もしかしたら、その方の元までご案内できるかもしれません。お名前はなんとおっしゃるのですか?」
「……名前?」
「はいっ」
……名前、名前ね、名前。……あれ? 王太子の名前ってなんだったっけ?
ローランドは殿下呼びだし、魔王ズに至ってはアレとかヘタレ呼ばわりだし、それで分かったから改めて気にしたことなんてなかった。
「……お忍びでとのことですので、お気になさらず」
「でも」
その時、廊下をバタバタとこの部屋の方へ駆けてくる音が聞こえてきた。あのおっさん――ローランドが何か喚いている声も一緒に。
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