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かの肩書、王太子なり
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しおりを挟む「やぁ、見つかった?」
「いいえ。……あの」
いつの間にか隣に来ていた奴と一緒にいる私に、女の子はちらちらと窺うような視線を送ってくる。
悪魔と契約を交わすなんて、なんとも肝の据わった子のようだ。
願いを叶える対価に魂を奪うモノもいるそうだが、こいつもその類だとは思わなかったんだろうか。通称からして、その対価を望む筆頭格だと思うんだが。
「初めまして。私、サーヤと申します。……あぁ、ご心配なく。ちゃんと人間ですよ?」
「貴女、彼が何者なのかご存知ないのですか?」
「あぁ、悪魔、でしょう? 名前のことならお気になさらず」
「そ、そうですか」
悪魔に本当の名前を教えてはいけない。契約終了後、今度は人間の方が名前で縛られてしまうから。そういう話が伝わっているのは確かだし、それも事実。
心配はありがたいけど、それに関してはもう手遅れだ。もうだいぶ前に知られてしまっている。
それに、そういう力が働くのも、悪魔側の魔力量の方が勝っていた場合。魔族も存外縦社会で、魔力量が劣る者から勝る者へは何事も勝ちが望めないことになっている。
話に誤りがなければ、こいつは魔王の側近中の側近。当然、魔力量も推して知るべし。とはいえ、この世界に連れて来られた時、シンにオネガイして付与された私の魔力量は魔王に匹敵するもの。純粋に魔力量だけを比べるのであれば、こいつより私の方が上だ。
だからこそ、こいつは私に対して“頼む”あるいは“お願いする”という形でしか話をつけられない。他の人間同様、誘惑して“命令する”ということができないのだ。
今となっては、あの時シンからそれだけの力をもらっといて本当に良かった。でなければ、今頃魔界に問答無用で連れていかれ、こいつの料理人なんぞをさせられていたかもしれない。ぞっとする。
「……そうだっ。すみません、この辺りでこれくらいの箱を見ませんでしたか?」
その女の子の手の動きによると、そこそこ大きめの箱のようだ。そして、残念ながらここに来るまでにそんな箱は見ていない。
そう告げると、女の子は表情を曇らせた。
悪魔と契約してまで見つけようってんだから、相当大事なものには違いないんだろうけど。そんな大事なものをこんな所に隠すなんて些か不用心すぎやしないか? この道を通る人もそんなに多くないとはいえ、全くいないというわけでもないのに。
「あれがあの方に知られてしまったら……私、どうしたら」
「あの、私も丁度人を待っていて手が空いていますから、お手伝いしますよ」
「えっ!? いいんですか?」
「えぇ。悪魔なんかと契約して見つけさせて対価を支払わされるより、だいぶ良いかと」
「随分な物言いだなぁ。僕はきちんと仕事をしているだけだっていうのにさぁ」
いや、ちょっと待て。
こっちは人間側から見たら真っ当なこと言ってるつもりなのに、なんで私が悪いみたいな言い方されなきゃいかんのか。不満を言われた私の方が不満を言いたい。
一方、口をとがらせる奴とは違い、この申し出に女の子の方は俄然乗り気のようだ。頬がほんのりと上気して赤みがさしている。
それもそうだろう。悪魔崇拝者でもなければ、誰が好き好んで自分の命を対価にしかねないことを続行しようとするものか。
「よろしくお願いします! ……あの、私は」
私が名乗ったのに自分は名乗っていないことを気にしたのか、こっそりと耳打ちしてきた。
小声だからって、この悪魔に聞こえていないはずはないと思う。けれど、今はそれよりも、告げられた名の方が私にとっては大事だった。
――フェリシア・クローディヌス・デュアメル、と申します。
ふふっ、ふふふふふっ。
天は私に味方してくれた。きっとリュミナリアで待つ魔王サマ達への手土産として私に遣わしてくれたんだろう。違ってもそう思うことにする。だって、悪魔であるこいつのおかげかと思うとなんか癪だ。
耳元から顔を離す女の子――目下、王太子と恋仲だというフェリシア嬢に、ニッコリと微笑んで見せた。
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