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かの肩書、王太子なり
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しおりを挟む王太子の警護に戻るというローランドと王太子とはその場で別れた。
由貴とおっさんにはもう少し例の魔物について情報を集めるもらうようお願いしてあるし。
私は私で本来の役目を……って、まぁ、火消しはもう手遅れだから、戻った時にユアン達に怒られない程度の手土産を準備しようと思うんですが。
しっかし、リュミナリアを出てきた時のユアンの様子から考えるに、ありきたりなモノじゃ代わりとしては認めてもらえないだろう。それこそ、学園の裏帳簿なんてものがあれば大歓喜ものだろうが、そんなものがホイホイ奪われるようなところに置いてあるとは思えない。
さて、どうしたものかね。
木陰を歩いていると、目線よりも少し上、木の幹のところに何か……あぁ、嫌なモノを見た。
「あっれー? どうして君がここにいるの?」
「……」
無視だ無視。私は何も見てない、聞こえてない。
死の番人なんて、どこにもいない。
あぁ、最近疲れてるからきっと幻覚でも見てるのかもしれないな。これが終わったら、ジョシュアとどこかへ旅行に行くのもいいな。心友であるステラシアのところでもいいかもしれない。彼女の自慢の領地を案内してもらえれば、実に有意義な時間を過ごせることだろう。そうだ。それがいい。
「ちょっとちょっと、無視しないでよ」
「離れろ、戦闘狂」
「あははっ」
いや、褒めてない。爪の先ほども褒めてない。おまけに身体をしならせるな、気持ち悪い。
なにが悲しくてお前のドアップを見にゃならんのか。
私はまだジョシュアに対してお前がした所業を忘れていないからな。よくもうちの大事な養い子泣かせてくれおって。おまけにそのせいでジョシュアが騎士団の訓練に参加することになってこちとら心労が絶えんのじゃ、このやろー。
「あ、そうだ。招待状の返事がまだだって聞いたんだけど、どうなってるの?」
「どうもこうもないわ。なんで私が魔族の、それも頂点にいる魔王の生誕祭の料理を作らにゃならんのか。冗談もその存在だけにしろ」
「君ってだいぶ口悪いよねぇ? ま、僕はそんなとこも気に入ってるんだけどね」
「……今すぐ帰りやがれください」
「あははっ! なにそれ、言葉へーん」
本気で頭が痛くなってきた。癇に障る奴というのはコイツのような奴のことを言うんだろう。
まぁ、なんでここにいるのか全く気にならないわけじゃないけど。
でも、今はただただお帰りいただきたい。そして、二度と現れないでいただきたい。うん、わりと真剣めに。
「君の美味しいご飯か魔力を食べたいところだけど……僕、絶賛探し物中なんだよね。ねぇ、手伝っ……」
「断る」
「まだ言い終わってないのに。そんな食い気味に言わないでよ」
さぁ、私も情報収集に励まねば。由貴とおっさんだけ働かせるのも悪いし。
「……あ、僕の契約主が来たよ」
その気はないのに、つい奴が向ける視線の先を追ってしまった。
女の子が一人、こちらへ駆け寄ってくる。肩口でふんわりと巻かれたセミロングは光に反射して茶色に輝いており、眼鏡をかけた顔は少し幼さが残って見える。その子が着ているのはここの制服に間違いない。ということは、ここの生徒だということだ。
……待てよ?
探し物を探すというのが、こいつと彼女の契約なら、その探し物を手伝う間に彼女からフェリシア嬢の情報が手に入るかも。ダメでも、なんらかのこの学園の情報が。
……悪くない。悪くはない、が。
足を止めた私の方を、ニンマリと笑う奴の思惑通りになるのは面白くない。
私の考えていることなど筒抜けだ。そう言わんばかりの笑みを浮かべる奴の脛を思いっきり蹴り上げるくらい、許されてしかるべきだと思う。
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