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島流し ④
しおりを挟むなんだかんだで美少女とパートナー……! ここまで気合いの入った宜しくお願いしますを初めてした政岡。
「こちらこそ宜しくだ。こんな所でパートナーを見つけるとは嬉しい限りだ。早速だが私の実験と合わせて君が直面している危機を取り除こうと思う」
「危機?」
サキヨミは政岡の指に、否、指輪を指す。
「爆発するんだろ? 食堂で言っていたのを聞いていてね」
事情は知っている。勿論指輪の事も。突然現れた、一筋、否、全筋の光……! 実験とかいう不穏な言葉を聞いたがそれでもだ。
「私も何回か図書館で本を借りたことがあってね。いや、本というよりも指輪が目的だったんだけど、知ってるかい? 本の滞納で年に何人も死んでるらしい」
「……恐いですね」
過去のトラウマと現在身に着けているトラウマ。希望が見えていても事実という名の凶器が喉元に向けられている。
「その指輪を外せないか実験をしたんだよ。結論から言うと外せる。いや、外れると言ったほうが正しいかもしれない」
「外れる、ですか?」
「あの指輪は生体の魔力に反応して外れない魔術が掛けられているんだ。魔術は魔力で作られているから簡単な話、違う魔力が入り込んだら外れる」
「ん? 魔法を使ったり、魔法を手で受けたら外れるって事です?」
「少し違う、例えば手から水を出す魔法を使ったとしても水は水。水そのものが魔力ではない。あくまでも水を出す為に体内の魔力で水に変換してるだけだ」
確かに。その理屈で言うなら銭湯の仕事で指輪は外れている事になる。
「厳密に言うと、変換した瞬間にはまだ魔力は帯びてはいる。少量だがね。ここがポイントだ。その帯びているだけの魔力を大量に作って凄い勢いで放出すればいいのさ」
「……ふむ?」
「シンプルな話しさ。単純に凄い出力で魔法を使えば良いだけだ」
「具体的にはどれくらいです?」
「この刑務所で使われている腕輪の1000倍くらいかな」
「それ、大丈夫です?」
疑心暗鬼。今までの下りから考えるとサキヨミは多少狂っている。今言っていることをそのまま鵜呑みにしても果たして無事に終わるのだろうか。
「君の魔力ならそれでも1分以上は大丈夫だ。間違っても死なないよ」
「あ、死にはしないなら大丈夫です」
指を秤にかけている現状、死にはしないなら万事了承しなければならない。不安の種はあるが、それでもだ。
「解った。ここからが本題だ。当たり前ではあるが私達は現在刑務所に居て物資を個人で調達出来ない。だからこの石を看守に渡して物資と交換してもらう。だから余った石は全部私にくれないかい?」
「はい。いくらでも渡します。その装置っていつ完成します?」
「物資が届くのに2日かかるから、早くて2日になる。遅くとも5日だ」
「解りました。ついでに僕の指が仲違いになるのが6日後なんでそれまでにお願いします」
サキヨミは指を口に当ててクスリと笑う。
「君の話し方は面白いな。解った。何としても君の指の仲を取り持つよ。それじゃあ、今から作成するとしよう。また明日」
サキヨミは政岡に向けて手を振って離れる。話している時もそうだったが、去り際の彼女も気品があり、釘付けになる政岡。
取り敢えず首の皮は全快する予定になり心の平穏を取り戻す。何よりも美少女とお近づきどころかビジネスパートナーになった。突然降って湧いた幸運。後はこの流れを死んでも離さないだけである。
「何だアイツ、一人で目を閉じて笑ってるぞ。気色悪い」
突然の罵倒もなんのその。そよ風の様に受け流す政岡。今この刑務所内で間違いなく一番の幸せ者は自分だと胸中で笑う。
後は銭湯の仕事と同じこと、むしろ腕を伸ばす労力すら必要でなくなった。後は時間まで目を閉じ、時間になったら白湯を喰らい目を閉じよう。
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