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ザクロジュースを出されたことにナターシャは内心驚愕していた。
パッと見ただけでは半透明の赤い水であったために毒物を疑った。
「うわぁ!おねぇちゃんこれ美味しいね!!」
と言うロアナの声を聞いて一口試しに飲んで見ると王侯貴族でも滅多に飲むことができないザクロジュースであったのだ。
『世界融合』以前であればまだ流通も多かったために金持ちの商人までなら飲むことができていた代物であるが、現在は戦争はないがほぼ冷戦状態となっているために貿易で手に入れられる量が極端に減ってしまったのだ。
ましてや生産地も地形が変わって一度に収穫できる量が減ってしまったために絶対数が少なくなっている。
(こんな高級品を惜しげも無く提供するこのものは一体??)
いくら失踪者が『世界融合』の間の世情を知らないと報告を受けていてもそれ以前を含めて高級品のジュースを提供するレインの正体が読めないでいた。
冒険者の中には国に所属するものも多く、ある程度把握している。
どこの国にも所属せず放浪するものはなかなか調査しきれないものの有名な高ランク冒険者(俗に言う攻略組)ならナターシャも名前ぐらいは知っている。だがこのレインのことは知らなかった。
スキルなしの純粋なステータスは職業の蒐集をしたためにレベルアップ時の成長率が低下し、攻略組と比べると半分ほどのステータスしかない。
それゆえかギルドの中では特に目立った功績は残していないことになっている。ゲームであれば同じクエストを何度も受注できるが現実となった今はゲーム内で初クリアの人物が依頼を受けたことになっているのだ。
レインはコレクション優先の仕事をしていたがために攻略組とは違い初クリアの討伐系クエストはほとんどない。初クリアは納品系か研究系のクエストばかりとなっている。
ナターシャはレインのことがよくわからないでいた。今もご飯を食べ終えてすぐよくわからない荷車を組み立てている。悪意はなく平和ボケしてのほほんと居心地がいいのかパトラを含め安心しきっている自分がいる。
「はぁ…まぁ悪い人ではないのよね。」
ナターシャはそう呟くと楽しそうに作業するレインを眺めるのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベロタクシーが出来上がった頃にはもうあたりはもう薄暗かった。森の中であるため暗くなるのが早いのだ。
モンスターを倒す時に大きな音を出したはずだが誰一人駆けつけないことが不思議であったがそれはそれで面倒ごとがなくて助かる。
完成したベロタクシーを眺めつつ名前を考える。
レインの感覚ではどうにもベロタクシーでは締まらないと思ったためだ。
かなり細部にまで凝った作りで車輪もサーバルキャットの皮で衝撃吸収ができるよう加工してあるし、スプリングとまではいかないが緩衝材をふんだんに使ってある。ベロタクシーなんて名前はちょっと嫌だ。
それに大きさにしても小型の馬車と大差ないほど大きいので知識の中のベロタクシーとは似ても似つかない。
(なんにしようかな?人力車!はダメだし、三輪車も締まらない。どうしよう。なんかカッコいい名前ないかな?)
「できましたの??」
名前を考えるレインにパトラが話しかける。
「できることはできたんだけど……」
「何か問題が?」
「名前が思いつかないんだよ」
レインの言葉にナターシャはあきれ顔だ。
「まぁ!それは大変ですね!!」
パトラは柏手を打って目を見開く。
「でしょ?」
「私も考えていいですか?」
「いいですよ。」
二人は真剣にベロタクシーの周りを回りながら考える。
ナターシャはパトラの行動に苦笑しつつも暗くなる森で一夜過ごすことになりそうだとため息をひとつ。
「プルシアーナさん…でしたわね。」
「は、はい!!」
「もう暗いのでここで野宿になりそうです。テントを建てたいのですが手伝ってくださいます?」
「もももももちろんです!」
「あぁ私にはそんなにかしこまらなくていいんですよ。侍女ですから。」
「そそっそそそそんな!」
「おねぇちゃん?」
「し!」
「まぁパトラ様にだけ敬意を払ってくだされば楽にしてください。ではお願いします。」
ナターシャは小さな魔法袋から簡易のテントを取り出すとプルシアーナとテントを設営し始める。
「そうです!!エルトゥールル公国の名を短くしてエルルなんてどうでしょう!!」
妙案を思いついたとばかりに大声を出すパトラ。
「え?あ~……可愛い名前ですが流石に恐れ多いと言うか……」
「いえいえ!そんなことはありませんわよ!エルル。いい名前ですわよ?」
「え~っと…ナターシャさんどうしましょう?」
流石のレインも一国の名前を人を運ぶ乗り物につけるのは気がひける。
どうしよかと考えた挙句侍女のナターシャならと水を向ける。
「え?私ですか!?あ~…そうですね……まぁ名前の由来を言わなければいいんじゃないですか?」
ナターシャは心底どうでもいいと投げやりな態度で返答する。
「ほら!ナターシャもいいって言ってますわよ!!」
「え!あぁはい。じゃぁエルルにしましょうか。」
もうどうにでもなれと言った風に返事をするとなんとなく鑑定をしてみる。
=============
エルル レア度?
耐久 3200
品質 B
軽量化の魔法が込められた杉の木を使った車。
新技術がふんだんに使われた革新的な発明品である。
人力で馬を使用しないために操作も非常に簡単!
=============
「おわ!」
(え?何から突っ込んでいいの??)
「どうなさいました??」
レインは鑑定結果に思わず声を上げるとパトラが心配そうに顔を覗き込む。
「え?あ、いやちょっと鑑定してみたら名前がエルルになってて…」
「え!!『命名』スキルをお持ちなんですか!?」
「へ?あ、あぁそうか。そう言うことか…」
命名スキルはほとんどの生産系の職業でレベル5になった時に習得するスキルで、通称でつけられているアイテムの名前を自作のものに限り自分の考えた『銘』に上書きすることができるスキルである。命名したアイテムの品質に応じて強化されるためにある程度の品質のものにはとりあえず名前をつけている職人も多い。その結果『アイテム1』『妖刀こてっちゃん』『ぽち』『フレイムハリケーンファイヤー』『オナ○くん4号』などふざけた名前のアイテムが存在する。
「意図せず『命名』しちゃってたみたい。やっぱりなんだっけ?その~あぁそうそう『世界融合?』の影響かもしれないな。」
「そういえば魔法も制御ができていないとか?」
「そうそう。ちょっと危ないかなぁ?」
「ナターシャどうなの?」
「そうですねぇ。確かなことは言えませんが勝手に攻撃魔法が発動したなんてのは聞いたことはありませんね。防御スキルや魔法が誤射したのは4件ほどあったそうですが自己防衛ですから被害者はいません。なので少しづつ慣らすしかないと思います。」
「だそうですわよ!」
ナターシャの考察をあたかも自分の意見かのように胸を張っているパトラ。
レインはなんとも言えない表情をしてから鑑定結果を思い出す。
命名の結果何かが向上したのだろうが耐久以外の数値がわからない。未知のものを鑑定した時にはよくあることなのだが、同様のものをいくつも鑑定しないと他の数値がわからないことはよくあるのだ。見極めようにも数多く鑑定しないとわからないのだ。
馬車の系譜であることから今回は耐久が見えるようになってるのだが、3200というのが高いかどうかはイマイチ分かりにくい。一般的な馬車は2000前後であるため比較的高いとは思うが正直わからん。
それよりもフレーバーテキストの方が問題だろう。
木に魔力付与がしてあるのは明らかに異常事態である。レインは付与した覚えのない軽量化を訝しげに思い余った木材を鑑定するとその木材に軽量化の付与といくつかの木材には魔法妨害の結界に使う魔法陣が書かれていた。
どう考えても盗賊の馬車とは思えないほど高性能馬車である。プレイヤーならまだしもNPCの闇職だとすればおかしい。
「ナターシャさんちょっといいですか?」
こればっかりは黙っているのはよくないと思いナターシャを小声で呼ぶ。
「どうかなさいました?」
空気を読んだナターシャはそっとレインに近づき小声で返事をする。
「今更気づいたんですが、この木材を鑑定したら軽量化の付与魔法がかかっています。あと何枚かの木材に魔法妨害の魔法陣が刻んであるんですがこれって盗賊の割に金かかってますよね??」
「!!」
レインの話を聞いたナターシャは目を大きく見開く。
「本当ですか?」
「えぇ、鑑定結果が間違ってなければですが。」
「そうですか…まずいですね。」
しばらく沈黙が続くとナターシャさんは意を決したように口を開く。
「パトラ様、みなさんちょっと手を止めて聞いてください。レイン様が先ほどの馬車に使われていた木材を鑑定した結果、高級な素材を使った馬車であるとわかりました。馬車にそんなに高級な材料を使ったものがそう簡単に諦めるとも思えません。戻ってくる可能性を考えて野営をやめてすぐにアトーリアに向かいましょう。暗いですが松明があればなんとかこの道を進むことはできます。」
ナターシャの言葉を聞きしんと静まりかえる。
ロアナがプルシアーナの服を掴みわずかに震えているようだ。
今の今まで盗賊のことを考えないようにしていたのを思い出してしまったようだ。
違う何かでショックを上書きするのは人間の防衛本能ではあるが、思い出すこともよくある。
「助かるのでしょうか?」
不安に駆られたプルシアーナがポツリと呟く。
「俺がみんなを守るよ。」
沈んだ空気の中レインはみんなを守ると宣言すると伏し目がちだったプルシアーナとロアナが顔を上げぎゅっと服を握りしめる。
「わかりました。すぐに出発しましょう。」
せっかく準備したテントを魔法袋にしまうとレインはパトラ命名のエルルに乗るように誘導する。
先ほどの馬車を元に作ったベロタクシーはレインの知る本来のベロタクシーよりもひと回り以上大きくここにいる全員を乗せても余裕がある。大人が二人ゆったりと懸けられる椅子が二列に後部には荷物を置けるようになっている。余った木材と馬車に乗っていたものも乗せられる範囲で乗せるとレインはペダルを漕ぐ。
みんなを乗せる時ナターシャとプルシアーナが一緒に引っ張ると言い出しちょっと手間取ったが概ねスムーズに準備ができた。
レインが一人で引っ張るとでも思っていたのかレインがエルルのサドルに座った時にはポカンとした表情をしていた。
(あぁそういえば乗り方説明してなかったっけ??)
レインは何も説明をしてなかったことに今更気づくがまぁどうでもいいかとペダルを漕ぎだす。初動はかなり力がいるようでちょっと重かったがさすが軽量化の付与が効いてるだけはある少し動き出すと急に軽くなりぐんぐんと勢いよく走り出す。
「なんです?」
「これは?」
「え!」
「わぁ~!おねぇちゃんすっごいね!」
暗くなる前にできるだけ距離を稼ごうと立ち漕ぎ状態のレインはみんなの驚く声にちょっと嬉しそうに口を歪める。
「飛ばすぞ~~~」
前世引きこもり気味であったレインもこの世界ではかなりの身体能力である。ぐんぐんとスピードの上がるエルルが小さな石ころを跳ね飛ばしガタンと揺れる。
「速いですわ!!」
「ひゃ!」
「きゃ~~~!」
「すごいすごい!!」
思い思いの感想を聞きつつなんとなく作った手すりにしがみつくナターシャとプルシアーナをチラリと見やる。
(おぉ!ノリで作った手すりが役に立ってる!)
思った以上にスピードが乗ってちょっと焦ったがノリで作った手すりのおかげでエルルから放り出されることはないようだ。
パッと見ただけでは半透明の赤い水であったために毒物を疑った。
「うわぁ!おねぇちゃんこれ美味しいね!!」
と言うロアナの声を聞いて一口試しに飲んで見ると王侯貴族でも滅多に飲むことができないザクロジュースであったのだ。
『世界融合』以前であればまだ流通も多かったために金持ちの商人までなら飲むことができていた代物であるが、現在は戦争はないがほぼ冷戦状態となっているために貿易で手に入れられる量が極端に減ってしまったのだ。
ましてや生産地も地形が変わって一度に収穫できる量が減ってしまったために絶対数が少なくなっている。
(こんな高級品を惜しげも無く提供するこのものは一体??)
いくら失踪者が『世界融合』の間の世情を知らないと報告を受けていてもそれ以前を含めて高級品のジュースを提供するレインの正体が読めないでいた。
冒険者の中には国に所属するものも多く、ある程度把握している。
どこの国にも所属せず放浪するものはなかなか調査しきれないものの有名な高ランク冒険者(俗に言う攻略組)ならナターシャも名前ぐらいは知っている。だがこのレインのことは知らなかった。
スキルなしの純粋なステータスは職業の蒐集をしたためにレベルアップ時の成長率が低下し、攻略組と比べると半分ほどのステータスしかない。
それゆえかギルドの中では特に目立った功績は残していないことになっている。ゲームであれば同じクエストを何度も受注できるが現実となった今はゲーム内で初クリアの人物が依頼を受けたことになっているのだ。
レインはコレクション優先の仕事をしていたがために攻略組とは違い初クリアの討伐系クエストはほとんどない。初クリアは納品系か研究系のクエストばかりとなっている。
ナターシャはレインのことがよくわからないでいた。今もご飯を食べ終えてすぐよくわからない荷車を組み立てている。悪意はなく平和ボケしてのほほんと居心地がいいのかパトラを含め安心しきっている自分がいる。
「はぁ…まぁ悪い人ではないのよね。」
ナターシャはそう呟くと楽しそうに作業するレインを眺めるのであった。
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ベロタクシーが出来上がった頃にはもうあたりはもう薄暗かった。森の中であるため暗くなるのが早いのだ。
モンスターを倒す時に大きな音を出したはずだが誰一人駆けつけないことが不思議であったがそれはそれで面倒ごとがなくて助かる。
完成したベロタクシーを眺めつつ名前を考える。
レインの感覚ではどうにもベロタクシーでは締まらないと思ったためだ。
かなり細部にまで凝った作りで車輪もサーバルキャットの皮で衝撃吸収ができるよう加工してあるし、スプリングとまではいかないが緩衝材をふんだんに使ってある。ベロタクシーなんて名前はちょっと嫌だ。
それに大きさにしても小型の馬車と大差ないほど大きいので知識の中のベロタクシーとは似ても似つかない。
(なんにしようかな?人力車!はダメだし、三輪車も締まらない。どうしよう。なんかカッコいい名前ないかな?)
「できましたの??」
名前を考えるレインにパトラが話しかける。
「できることはできたんだけど……」
「何か問題が?」
「名前が思いつかないんだよ」
レインの言葉にナターシャはあきれ顔だ。
「まぁ!それは大変ですね!!」
パトラは柏手を打って目を見開く。
「でしょ?」
「私も考えていいですか?」
「いいですよ。」
二人は真剣にベロタクシーの周りを回りながら考える。
ナターシャはパトラの行動に苦笑しつつも暗くなる森で一夜過ごすことになりそうだとため息をひとつ。
「プルシアーナさん…でしたわね。」
「は、はい!!」
「もう暗いのでここで野宿になりそうです。テントを建てたいのですが手伝ってくださいます?」
「もももももちろんです!」
「あぁ私にはそんなにかしこまらなくていいんですよ。侍女ですから。」
「そそっそそそそんな!」
「おねぇちゃん?」
「し!」
「まぁパトラ様にだけ敬意を払ってくだされば楽にしてください。ではお願いします。」
ナターシャは小さな魔法袋から簡易のテントを取り出すとプルシアーナとテントを設営し始める。
「そうです!!エルトゥールル公国の名を短くしてエルルなんてどうでしょう!!」
妙案を思いついたとばかりに大声を出すパトラ。
「え?あ~……可愛い名前ですが流石に恐れ多いと言うか……」
「いえいえ!そんなことはありませんわよ!エルル。いい名前ですわよ?」
「え~っと…ナターシャさんどうしましょう?」
流石のレインも一国の名前を人を運ぶ乗り物につけるのは気がひける。
どうしよかと考えた挙句侍女のナターシャならと水を向ける。
「え?私ですか!?あ~…そうですね……まぁ名前の由来を言わなければいいんじゃないですか?」
ナターシャは心底どうでもいいと投げやりな態度で返答する。
「ほら!ナターシャもいいって言ってますわよ!!」
「え!あぁはい。じゃぁエルルにしましょうか。」
もうどうにでもなれと言った風に返事をするとなんとなく鑑定をしてみる。
=============
エルル レア度?
耐久 3200
品質 B
軽量化の魔法が込められた杉の木を使った車。
新技術がふんだんに使われた革新的な発明品である。
人力で馬を使用しないために操作も非常に簡単!
=============
「おわ!」
(え?何から突っ込んでいいの??)
「どうなさいました??」
レインは鑑定結果に思わず声を上げるとパトラが心配そうに顔を覗き込む。
「え?あ、いやちょっと鑑定してみたら名前がエルルになってて…」
「え!!『命名』スキルをお持ちなんですか!?」
「へ?あ、あぁそうか。そう言うことか…」
命名スキルはほとんどの生産系の職業でレベル5になった時に習得するスキルで、通称でつけられているアイテムの名前を自作のものに限り自分の考えた『銘』に上書きすることができるスキルである。命名したアイテムの品質に応じて強化されるためにある程度の品質のものにはとりあえず名前をつけている職人も多い。その結果『アイテム1』『妖刀こてっちゃん』『ぽち』『フレイムハリケーンファイヤー』『オナ○くん4号』などふざけた名前のアイテムが存在する。
「意図せず『命名』しちゃってたみたい。やっぱりなんだっけ?その~あぁそうそう『世界融合?』の影響かもしれないな。」
「そういえば魔法も制御ができていないとか?」
「そうそう。ちょっと危ないかなぁ?」
「ナターシャどうなの?」
「そうですねぇ。確かなことは言えませんが勝手に攻撃魔法が発動したなんてのは聞いたことはありませんね。防御スキルや魔法が誤射したのは4件ほどあったそうですが自己防衛ですから被害者はいません。なので少しづつ慣らすしかないと思います。」
「だそうですわよ!」
ナターシャの考察をあたかも自分の意見かのように胸を張っているパトラ。
レインはなんとも言えない表情をしてから鑑定結果を思い出す。
命名の結果何かが向上したのだろうが耐久以外の数値がわからない。未知のものを鑑定した時にはよくあることなのだが、同様のものをいくつも鑑定しないと他の数値がわからないことはよくあるのだ。見極めようにも数多く鑑定しないとわからないのだ。
馬車の系譜であることから今回は耐久が見えるようになってるのだが、3200というのが高いかどうかはイマイチ分かりにくい。一般的な馬車は2000前後であるため比較的高いとは思うが正直わからん。
それよりもフレーバーテキストの方が問題だろう。
木に魔力付与がしてあるのは明らかに異常事態である。レインは付与した覚えのない軽量化を訝しげに思い余った木材を鑑定するとその木材に軽量化の付与といくつかの木材には魔法妨害の結界に使う魔法陣が書かれていた。
どう考えても盗賊の馬車とは思えないほど高性能馬車である。プレイヤーならまだしもNPCの闇職だとすればおかしい。
「ナターシャさんちょっといいですか?」
こればっかりは黙っているのはよくないと思いナターシャを小声で呼ぶ。
「どうかなさいました?」
空気を読んだナターシャはそっとレインに近づき小声で返事をする。
「今更気づいたんですが、この木材を鑑定したら軽量化の付与魔法がかかっています。あと何枚かの木材に魔法妨害の魔法陣が刻んであるんですがこれって盗賊の割に金かかってますよね??」
「!!」
レインの話を聞いたナターシャは目を大きく見開く。
「本当ですか?」
「えぇ、鑑定結果が間違ってなければですが。」
「そうですか…まずいですね。」
しばらく沈黙が続くとナターシャさんは意を決したように口を開く。
「パトラ様、みなさんちょっと手を止めて聞いてください。レイン様が先ほどの馬車に使われていた木材を鑑定した結果、高級な素材を使った馬車であるとわかりました。馬車にそんなに高級な材料を使ったものがそう簡単に諦めるとも思えません。戻ってくる可能性を考えて野営をやめてすぐにアトーリアに向かいましょう。暗いですが松明があればなんとかこの道を進むことはできます。」
ナターシャの言葉を聞きしんと静まりかえる。
ロアナがプルシアーナの服を掴みわずかに震えているようだ。
今の今まで盗賊のことを考えないようにしていたのを思い出してしまったようだ。
違う何かでショックを上書きするのは人間の防衛本能ではあるが、思い出すこともよくある。
「助かるのでしょうか?」
不安に駆られたプルシアーナがポツリと呟く。
「俺がみんなを守るよ。」
沈んだ空気の中レインはみんなを守ると宣言すると伏し目がちだったプルシアーナとロアナが顔を上げぎゅっと服を握りしめる。
「わかりました。すぐに出発しましょう。」
せっかく準備したテントを魔法袋にしまうとレインはパトラ命名のエルルに乗るように誘導する。
先ほどの馬車を元に作ったベロタクシーはレインの知る本来のベロタクシーよりもひと回り以上大きくここにいる全員を乗せても余裕がある。大人が二人ゆったりと懸けられる椅子が二列に後部には荷物を置けるようになっている。余った木材と馬車に乗っていたものも乗せられる範囲で乗せるとレインはペダルを漕ぐ。
みんなを乗せる時ナターシャとプルシアーナが一緒に引っ張ると言い出しちょっと手間取ったが概ねスムーズに準備ができた。
レインが一人で引っ張るとでも思っていたのかレインがエルルのサドルに座った時にはポカンとした表情をしていた。
(あぁそういえば乗り方説明してなかったっけ??)
レインは何も説明をしてなかったことに今更気づくがまぁどうでもいいかとペダルを漕ぎだす。初動はかなり力がいるようでちょっと重かったがさすが軽量化の付与が効いてるだけはある少し動き出すと急に軽くなりぐんぐんと勢いよく走り出す。
「なんです?」
「これは?」
「え!」
「わぁ~!おねぇちゃんすっごいね!」
暗くなる前にできるだけ距離を稼ごうと立ち漕ぎ状態のレインはみんなの驚く声にちょっと嬉しそうに口を歪める。
「飛ばすぞ~~~」
前世引きこもり気味であったレインもこの世界ではかなりの身体能力である。ぐんぐんとスピードの上がるエルルが小さな石ころを跳ね飛ばしガタンと揺れる。
「速いですわ!!」
「ひゃ!」
「きゃ~~~!」
「すごいすごい!!」
思い思いの感想を聞きつつなんとなく作った手すりにしがみつくナターシャとプルシアーナをチラリと見やる。
(おぉ!ノリで作った手すりが役に立ってる!)
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