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エピローグ
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蒸気の鼓動が腰に響いていた。クラウスとユリカは汽車に乗って、グラーセンとの国境付近にある町まで向かっていた。
個室の中でクラウスは新聞を読み、ユリカは外を流れるアンネルの光景に目を向けていた。これで見納めとばかりに、アンネルの美しい光景をその瞳に刻み付けていた。
あの後、無事ユリカを釈放させることに成功したクラウスは大使館に報告。その報告は本国にも伝わった。
アイゼンにもクラウスはお礼を伝えた。クラウスはアイゼンに頼んで、本国政府とハルトブルク、シャルンスト両家にも連絡するよう依頼していた。もし警察署でユリカを救えなかったら、両家から正式に抗議してもらうよう連絡してもらったのだ。
実際にそうならなかったのはよかったのだが、その連絡をしていなければここまで上手くはいかなかっただろう。アイゼンには助けられてばかりだった。
アイゼンもクラウスに感謝を伝えると同時に、帰国することを勧めてきた。警察にも顔を知られた以上、このままアンネルに滞在することは危険であると考えての提案だった。
まだ留学中の身で、学びたいことはたくさんあるのだが、これ以上アンネルに留まるのは危険であることも理解していたので、提案を受け入れることにした。
それから数日後の今日、二人はグラーセンに向かって帰国の途に就いていた。
予定ならまだ数年は留学するはずだった。それが急に帰国することになり、こうしてアンネルを離れようとしている。帰国の喜びも別れの寂しさも感じる暇はなく、未だ実感が湧かないでいた。
「何を考えているのかしら?」
向かいの席からユリカが声をかけてくる。クラウスは新聞に顔を向けたまま答えた。
「とても慌ただしいと思ってな。君といると、ゆっくりするのも難しいな」
あら? とユリカが不思議そうに首を傾げて、それから窓の外を指差した。
「それなら外に目を向けなさいな。新聞は世界を伝えることはできても、旅の楽しさまでは教えてはくれないわ」
その問いかけには何も答えず、クラウスはそのままページをめくった。その様子をユリカはおかしそうに笑った。
「それにしても、上手くいってよかったわ。ローグもアンネルの計画を止めることができそうだし、結果は上々だわ」
そう。アンネルでのユリカの任務。アンネルの計画を阻止することには成功したのだ。
あれからグラーセンの働きかけにより、ローグは極東でのアンネルの計画。つまりカンミンとジンムとの間に戦争を誘発させるという計画を阻止することに同意し、実行に移した。
その方法とは、ローグがシヴァ大陸に駐留させている東洋艦隊を、キリ島に派遣させるというものだった。
ローグを最強たらしめるローグ海軍。その東洋艦隊の派遣は、それだけで一国の軍を抑止するに足る圧力があった。それはローグからの無言の圧力であり、カンミンとしてもローグ相手に開戦を強行する愚を犯すわけにはいかなかった。
こうしてアンネルの極東での陰謀は阻止されたわけである。
クラウスが読んでいる新聞には、ローグ海軍東洋艦隊が、ジンムを表敬訪問することを伝えていた。きっと今頃、アンネル政府は大慌てとなっていることだろう。
ともあれ、これでユリカの任務は達成された。
アンネルで起きたこと。引き起こしたこと。それに自分が関わっていたこと。この数日の間に体験したことを思い起こし、感慨深くなるクラウス。もしかしたら一生分の冒険を果たしたかもしれない。
そんなことを考えていると、ユリカが声をかけてきた。
「ねえ。このまま帰国したらどうするの? 何か予定はあるの?」
「さあな。いきなり帰国が決まったからな。特に予定は立てていない。とりあえず大学に報告して、それから家に帰ることになると思う」
一応家には連絡は入れている。事情はある程度説明しているので、特に騒ぎになることはないだろう。
ただ、それからどうするかまでは決めていなかった。このまま大学に復学するのが一番いいかもしれない。
そんなことを考えていると、ユリカが身を乗り出して提案してきた。
「ねえ。あなたさえよければ、私と一緒に活動してもらえないかしら?」
あまりに唐突な言葉だったので、クラウスも聞き逃しそうになった。彼が顔を上げると、ユリカが笑いかけてきた。
「それは、君と一緒に仕事をしてほしいということか?」
「そう。私の所属する諜報部に、軍属として協力してほしいの。あなたの能力を見て、十分に戦力になると確信したわ。豊富な知識や交渉術。それに洞察力も目を見張るものがあるわ」
それは過大評価ではないか? そう言いたいクラウスだが、当のユリカは大まじめだった。
「最初に言ったように私には帝国統一という目標がある。それを達成するには、まだまだやらないといけないことはたくさんある。そのためには仲間は多い方がいいの。お願いできないかしら?」
彼女が語る帝国統一。その道のりは遠く険しく、気が遠くなるほどの時間を要するだろう。クラウスは問いかけた。
「その道は険しく、長い旅路だ。自分が一緒では歩きにくいのではないか?」
正直な話、帝国統一という神話に関わるというのは大いに魅力があった。それでも彼はただの学生であり、ユリカのように諜報活動などできるとは思えなかった。
しかしそんなことは関係ないとばかりに彼女は笑い飛ばした。
「もし歩きにくかったとしても、旅は長ければ長いほど寂しいわ。それにね」
ユリカの微笑みがクラウスに向けられる。それをクラウスも見つめ返した。
「一人より二人で歩く方が、旅は心強いものよ」
ユリカはそう言って、そっと手を差し伸べた。
「もし私が倒れたら、抱き起してくれる?」
その手を握るかどうかで、クラウスの運命は変わる。その手を握れば、英雄になれるかもしれないのだ。
クラウスはドラゴンを退治した騎士でもなければ、戦場を駆け巡った軍神でもない。帝国統一に自分がどこまで貢献できるのか。いや、できないかもしれない。
しかし、一人の少女が自分を頼って、その小さな手を差し出している。
自分には国を繁栄させる力はないかもしれない。それならせめて、この少女のために汗を流そう。そう思うことにした。
クラウスは差し出されたその手を、優しく握り返した。
愛想のない不器用な握手。ユリカはそれを笑いながら、その手を強く握り返すのだった。
すると、ユリカの纏う空気が変わるのをクラウスは感じ取った。彼女は笑顔のままだというのに、そこに込められた意味が変わったような、そんな雰囲気だった。
「ところで、あなたには我がハルトブルク家に来ていただかないといけないわ。家族に紹介しないと」
ユリカの笑みも紡ぎ出される言葉も寒気を感じさせた。クラウスは嫌な予感を抱きつつ、彼女に質問した。
「何故ハルトブルク家に? 自分が行く理由などないと思うが」
クラウスがそう言うと、ユリカはその場で立ち上がった。すると狭い個室の中で彼女は両手を広げて、ワルツのようにその場を舞った。
「ここは太陽の都・マール。恋人たちは愛を育み、夫婦は共に未来を見つめる場所。アンネルは他国の恋人たちの幸せを邪魔するというのか?」
ユリカのセリフを聞いて、クラウスは自分の顔が青ざめていくのを自覚した。
それはクラウスが警察署で叫んだ言葉。ユリカを助けるために言い放ったセリフだった。
あの時、クラウスはどうやってユリカを助けたのか、彼女に説明していない。
当然ユリカが今言ったセリフも教えてはいない。彼女が知るはずはないのだ。
だが、現に彼女はその言葉を暗唱して見せた。
つまりあの時、彼女はどこかでクラウスの言葉を聞いていたということになる。
青ざめたクラウスを見て、したり顔で笑うユリカ。
「まるで舞台を見ているみたいで格好良かったわ。座席は堅かったけど」
ユリカは椅子に座り直して、意味ありげにクラウスを見つめた。悪戯を考える子供そのものだ。
「さて、家族にはどう紹介しようかしら? 恋人を連れて帰るなんて、きっと喜んでくれるわ。ねえ? あなた」
じわじわと少しずつ、クラウスを責めてくる。もう恋人という設定は決まっているらしく、ユリカの中ではどんな話をしようか、思案を巡らせているようだった。
「勘弁してくれ……」
そう言ってクラウスはユリカの視線から逃れようと、もう一度新聞で顔を隠した。
その様子を見てユリカは笑った。クラウスはその様子を、まるで悪魔みたいだと思った。
悪魔を恋人にした男の話をどこかで聞いたことがあった。その男は最後にはどうなっただろうかと、記憶を探るクラウス。
汽車はグラーセンに向かって走っている。蒸気による振動はまるで、国に帰るのを子供がはしゃいでいるように思えた。
個室の中でクラウスは新聞を読み、ユリカは外を流れるアンネルの光景に目を向けていた。これで見納めとばかりに、アンネルの美しい光景をその瞳に刻み付けていた。
あの後、無事ユリカを釈放させることに成功したクラウスは大使館に報告。その報告は本国にも伝わった。
アイゼンにもクラウスはお礼を伝えた。クラウスはアイゼンに頼んで、本国政府とハルトブルク、シャルンスト両家にも連絡するよう依頼していた。もし警察署でユリカを救えなかったら、両家から正式に抗議してもらうよう連絡してもらったのだ。
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まだ留学中の身で、学びたいことはたくさんあるのだが、これ以上アンネルに留まるのは危険であることも理解していたので、提案を受け入れることにした。
それから数日後の今日、二人はグラーセンに向かって帰国の途に就いていた。
予定ならまだ数年は留学するはずだった。それが急に帰国することになり、こうしてアンネルを離れようとしている。帰国の喜びも別れの寂しさも感じる暇はなく、未だ実感が湧かないでいた。
「何を考えているのかしら?」
向かいの席からユリカが声をかけてくる。クラウスは新聞に顔を向けたまま答えた。
「とても慌ただしいと思ってな。君といると、ゆっくりするのも難しいな」
あら? とユリカが不思議そうに首を傾げて、それから窓の外を指差した。
「それなら外に目を向けなさいな。新聞は世界を伝えることはできても、旅の楽しさまでは教えてはくれないわ」
その問いかけには何も答えず、クラウスはそのままページをめくった。その様子をユリカはおかしそうに笑った。
「それにしても、上手くいってよかったわ。ローグもアンネルの計画を止めることができそうだし、結果は上々だわ」
そう。アンネルでのユリカの任務。アンネルの計画を阻止することには成功したのだ。
あれからグラーセンの働きかけにより、ローグは極東でのアンネルの計画。つまりカンミンとジンムとの間に戦争を誘発させるという計画を阻止することに同意し、実行に移した。
その方法とは、ローグがシヴァ大陸に駐留させている東洋艦隊を、キリ島に派遣させるというものだった。
ローグを最強たらしめるローグ海軍。その東洋艦隊の派遣は、それだけで一国の軍を抑止するに足る圧力があった。それはローグからの無言の圧力であり、カンミンとしてもローグ相手に開戦を強行する愚を犯すわけにはいかなかった。
こうしてアンネルの極東での陰謀は阻止されたわけである。
クラウスが読んでいる新聞には、ローグ海軍東洋艦隊が、ジンムを表敬訪問することを伝えていた。きっと今頃、アンネル政府は大慌てとなっていることだろう。
ともあれ、これでユリカの任務は達成された。
アンネルで起きたこと。引き起こしたこと。それに自分が関わっていたこと。この数日の間に体験したことを思い起こし、感慨深くなるクラウス。もしかしたら一生分の冒険を果たしたかもしれない。
そんなことを考えていると、ユリカが声をかけてきた。
「ねえ。このまま帰国したらどうするの? 何か予定はあるの?」
「さあな。いきなり帰国が決まったからな。特に予定は立てていない。とりあえず大学に報告して、それから家に帰ることになると思う」
一応家には連絡は入れている。事情はある程度説明しているので、特に騒ぎになることはないだろう。
ただ、それからどうするかまでは決めていなかった。このまま大学に復学するのが一番いいかもしれない。
そんなことを考えていると、ユリカが身を乗り出して提案してきた。
「ねえ。あなたさえよければ、私と一緒に活動してもらえないかしら?」
あまりに唐突な言葉だったので、クラウスも聞き逃しそうになった。彼が顔を上げると、ユリカが笑いかけてきた。
「それは、君と一緒に仕事をしてほしいということか?」
「そう。私の所属する諜報部に、軍属として協力してほしいの。あなたの能力を見て、十分に戦力になると確信したわ。豊富な知識や交渉術。それに洞察力も目を見張るものがあるわ」
それは過大評価ではないか? そう言いたいクラウスだが、当のユリカは大まじめだった。
「最初に言ったように私には帝国統一という目標がある。それを達成するには、まだまだやらないといけないことはたくさんある。そのためには仲間は多い方がいいの。お願いできないかしら?」
彼女が語る帝国統一。その道のりは遠く険しく、気が遠くなるほどの時間を要するだろう。クラウスは問いかけた。
「その道は険しく、長い旅路だ。自分が一緒では歩きにくいのではないか?」
正直な話、帝国統一という神話に関わるというのは大いに魅力があった。それでも彼はただの学生であり、ユリカのように諜報活動などできるとは思えなかった。
しかしそんなことは関係ないとばかりに彼女は笑い飛ばした。
「もし歩きにくかったとしても、旅は長ければ長いほど寂しいわ。それにね」
ユリカの微笑みがクラウスに向けられる。それをクラウスも見つめ返した。
「一人より二人で歩く方が、旅は心強いものよ」
ユリカはそう言って、そっと手を差し伸べた。
「もし私が倒れたら、抱き起してくれる?」
その手を握るかどうかで、クラウスの運命は変わる。その手を握れば、英雄になれるかもしれないのだ。
クラウスはドラゴンを退治した騎士でもなければ、戦場を駆け巡った軍神でもない。帝国統一に自分がどこまで貢献できるのか。いや、できないかもしれない。
しかし、一人の少女が自分を頼って、その小さな手を差し出している。
自分には国を繁栄させる力はないかもしれない。それならせめて、この少女のために汗を流そう。そう思うことにした。
クラウスは差し出されたその手を、優しく握り返した。
愛想のない不器用な握手。ユリカはそれを笑いながら、その手を強く握り返すのだった。
すると、ユリカの纏う空気が変わるのをクラウスは感じ取った。彼女は笑顔のままだというのに、そこに込められた意味が変わったような、そんな雰囲気だった。
「ところで、あなたには我がハルトブルク家に来ていただかないといけないわ。家族に紹介しないと」
ユリカの笑みも紡ぎ出される言葉も寒気を感じさせた。クラウスは嫌な予感を抱きつつ、彼女に質問した。
「何故ハルトブルク家に? 自分が行く理由などないと思うが」
クラウスがそう言うと、ユリカはその場で立ち上がった。すると狭い個室の中で彼女は両手を広げて、ワルツのようにその場を舞った。
「ここは太陽の都・マール。恋人たちは愛を育み、夫婦は共に未来を見つめる場所。アンネルは他国の恋人たちの幸せを邪魔するというのか?」
ユリカのセリフを聞いて、クラウスは自分の顔が青ざめていくのを自覚した。
それはクラウスが警察署で叫んだ言葉。ユリカを助けるために言い放ったセリフだった。
あの時、クラウスはどうやってユリカを助けたのか、彼女に説明していない。
当然ユリカが今言ったセリフも教えてはいない。彼女が知るはずはないのだ。
だが、現に彼女はその言葉を暗唱して見せた。
つまりあの時、彼女はどこかでクラウスの言葉を聞いていたということになる。
青ざめたクラウスを見て、したり顔で笑うユリカ。
「まるで舞台を見ているみたいで格好良かったわ。座席は堅かったけど」
ユリカは椅子に座り直して、意味ありげにクラウスを見つめた。悪戯を考える子供そのものだ。
「さて、家族にはどう紹介しようかしら? 恋人を連れて帰るなんて、きっと喜んでくれるわ。ねえ? あなた」
じわじわと少しずつ、クラウスを責めてくる。もう恋人という設定は決まっているらしく、ユリカの中ではどんな話をしようか、思案を巡らせているようだった。
「勘弁してくれ……」
そう言ってクラウスはユリカの視線から逃れようと、もう一度新聞で顔を隠した。
その様子を見てユリカは笑った。クラウスはその様子を、まるで悪魔みたいだと思った。
悪魔を恋人にした男の話をどこかで聞いたことがあった。その男は最後にはどうなっただろうかと、記憶を探るクラウス。
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