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第12話 ロザリアとの対決

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パーティの喧騒を避けながら、いろいろな部屋を通り抜け、指示通りに彼女の自室に入った。

扉を開けると、いきなり彼女が抱きついてきた。

「ああ、会いたかったわアンジェロ」

「ちょっと待って、ロザリア」

私は危うくキスまでされそうになり、慌てて彼女の体を引き離した。

「どうしてですの。人払いは済ませています」

「ちょっと話がしたいんだ」

そう言って、仕切り直すと私は一人がけのソファーに座った。彼女は少し当惑しているようだったが、近くの椅子に座った。

「どうしてティナを屋上から突き落としたんだ」

私はいきなり核心をついてみた。彼女はそれまで見たこともないような邪悪な笑顔を浮かべた。

「あら、私じゃないわよ。あなたのせいでしょ。彼女が屋上に行ったのはあなたが彼女にひどいことを言ったからですわ」

「そんなことを言ってるんじゃない。彼女は自殺する気はなかった。誰かに勝手に落とされたんだ」

「ふーん。聞いたのね。あの子に。でももう遅いわ。それに良かったじゃないですか。彼女がいなくなれば、私たちの仲を裂くものはいないのだから」

「伯爵令嬢は王太子と結婚する資格はないから、僕とは結婚できないだろう」

彼女は少し変な顔をした。何かおかしなことを言って怪しまれたかな。そう私は思った。

「その件はもうすぐ解決します。彼女の犯した大罪で、侯爵家は取り潰される運命にあるのですから。そして、その後釜に入るのが私たちバロッチ家。もう段取りも済んでいます。彼らの勢力もだいぶ取り込んでいますし。今回の件ではランベルト王もかなりお怒りの様子です。ですから、もうその件は解決済みなのです」

あまりの衝撃の事実に私は激しい怒りが湧いてきた。

「どうしてそんな酷いことができるの。私は罪なんて犯していないのに。それに、どうして私の家族までそんなひどい目に合わせようとするの?」

私は言ってしまったと思って口をつぐんだ。バレたかもしれない。そう思って私はロザリアを見たが、ロザリアはまるで驚いた様子も見せず、無表情のままだった。

「いまさら、罪の意識を感じたってもう遅いのよ。もう彼女の運命は決まっているのだから。それに、私から乗り換えようったって、もう遅いわ。レオーニ侯爵家はもう没落寸前、大人しくバロッチ伯爵家についたほうがよいと思いますよ。それとも私たちを敵に回すつもり? 第二王子のサルマン殿下があなたのかわりに王太子になってしまうかもしれませんよ」

「そんな…… そんなわけない」

「今回の件であなたは相当評判を落としています。サルマン殿下の方が王太子にふさわしいのではないかともっぱらの噂です。もちろん、私たちがなんとかします。全て私にお任せください。あなたの憂いは全て排除してみせますから」

絶望の淵に追い込まれた私に、彼女は勝ち誇ったように笑い声をあげた。



私はパーティから帰ってきた後、一人自室で落ち込んでいた。

何も情報が得られなかっただけじゃない。自分の実家まで、危機に瀕しているのが分かった。どうしようもない憤りと、自分の無力さと、そして、こんな事に巻き込んでしまった家族への申し訳なさで、胸が張り裂けそうになっていた。

そんな時、ふと、チェーザレ様の顔が思い浮かんだ。優しい声、落ち着いた物腰、そして、頼もしい言葉。あまりに心細すぎて、彼の姿をすぐにでも見たかった。もちろん、今、私は王太子殿下の姿なので、それ以上の関係にはならないけれど。それでも、そばにいて、彼に温かい言葉をかけてもらいたかった。

コンコン

ノックの音がした。

「アンジェロいるか」

私は飛び起きて、扉を開けに行った。

チェーザレ様はいつもの笑顔で笑っている。私の気持ちはたちまち安らぎ、不安がどこかに消え去って行った。



しばらくの間、彼女との会話を報告した。チェーザレ様は頷きながら黙って聞いていた。

「やっぱり、無理だったか。まあ、お前には荷が重かったかもな」

「ごめん」

「まあ、気にするな。なんとかするから。今度は伯爵家の力関係を探ってみる。あとはロザリアの方の交流関係も。彼女が関わっていることは間違いないんだ。それに、侯爵家を追い落とすつもりでいるとなると、伯爵家本体の方も絡んでいるかもしれない。問題は誰にやらせたかということだな」

彼の頭の良さに感心しながら私は話を聞いていた。やっぱり頼もしいし安心する。

彼は突然、話を変えた。

「なんかお前、変わったよなあ」

「え、どうして」

「前のお前は、もっと傲慢で世間知らずだったからなあ」

まあ、中身違いますから。

「でも、こんな感じで仲良くやるのもいいかもしれないな。彼女の無罪を勝ち取ったら、みんなで楽しく遊びたいな」

私は三人で仲良く、過ごしている様を思い浮かべてみた。それはそれで楽しいのかもしれないが、体が入れ替わったままで本当にうまくやっていくことができるのだろうか。彼は私と付き合いたいと言うかもしれない。でも、彼の目に映ってるのは私の体を持ったアンジェロ殿下だ。

でももし、私が元の体に戻ることができたら、そして、彼がその時、私のことを求めてきたら。

それも実は不安だった。

彼が思い描いている自分と、今の自分はあまりに隔たりがある。それに私は一度、王太子殿下との婚約にも失敗している。言ってみれば、結婚相手として、失格の烙印を押されてしまった女なのだ。周囲の人だって、私と彼のあまりの釣り合わなさに陰口を叩くことだろう。私はそれに耐え切れるのだろうか。それに、交際を始めても、私の本当の姿に気がついて、すぐに私のことを嫌いになるかもしれない。

いっそのこと、彼の憧れの人という関係で終わる方がいいのではないだろうか。

そう思って私は胸が苦しくなった。

「なあ、アンジェロ」

「え、なに」

不意にチェーザレ様に話しかけられて、ちょっとびっくりした。彼はすごい真剣な顔をしてこちらをみている。

「俺はさ、ティナさんを見ていていつも気になっていたことがあったんだ」

「何?」

「もしかしたらティナさんは自分に自信がないんじゃないかってね」

「え、どうして」

私は驚いた。

「ティナさんはいつも明るい笑顔で楽しげに振る舞っていて、周りの人を明るくさせたり楽しませたりしている。でも、時折、ふっと寂しげな顔になることがあるんだ。控えめな人だから、何かある時には他人を優先してすぐに奥に引っ込んでしまうし、いつもいつも、みんなに遠慮しているように見える」

「そ、そう」

「本当はこんなにも素敵で、魅力的な人なのに。誰よりも幸せになる資格があるのに。だから俺は彼女と付き合ったら、毎日彼女に言い続けてあげるんだ。君を愛している。そして、こんなにも君は誰かに必要とされている。他の誰にもかえ難い人なんだよって。何度でも、何度だって。彼女に呆れられたっていいんだ。でも、もし彼女が自信を持つことができたら、なんて素敵なことなんだろう。彼女はきっと今よりずっとずっと幸せになれる。そして俺にはそれができる」

その時、彼の言葉が私の中にある何かと響き合い、次第に大きくなっていくのを感じた。

ああ、私を見てくれていた人がここにいた。私のことを分かってくれる人がいたんだ。

「おい、どうした、大丈夫か?」

その時、私は自分が泣いているのを知った。涙が音もなく流れ、ほおを伝って次々と落ちていく。

彼がハンカチを出して、心配そうにしている。

でも私は、流れ落ちる涙を、とても愛おしく、そして心地よく感じていた。
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