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第11話 伯爵邸へ乗り込む

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数日後、チェーザレ様は私の部屋に来ていた。

「残念な話なんだが、ティナさんが屋上から落とされたところを見た人間はいなかった。それにロザリア、彼女のアリバイは完璧だ。どうやら、その時には伯爵領にある自邸にいたようだ。彼女に招かれた友人の話も確かめてみたが、間違いないらしい」

「でも、僕にははっきり自分で落としたと言っていた」

「まあ、直接じゃなく、間接的に命令したのかもしれないけど。でも、困ったな。これじゃあ行き止まりだ」

二人でため息をついた。アンジェロ殿下が監獄に入れられて結構時間が経っている。流石に何度も会いに行くのは難しく、良い知らせもなかったので全然会えていない。

「そうだ。こんなものが届いたのだが、お前のところには来たか?」

それは、伯爵のタウンハウスでのパーティの案内状だった。

「僕はみていないけど、もしかしたら、どこかで止められているのかもしれない」

「直接乗り込んでみるか? 俺が一緒ならお前もある程度動きが取れるんだろう」

「頼んではみるけど、どうするの?」

「そりゃあ、お前の方から彼女に直接聞き出すのさ。なんたってお前の元愛人なんだから」

そ、そうか。そう言う手はありかもしれない。だけど、私は上手くやれる自信がない。アンジェロ殿下が彼女とどういう感じで接していたか分からないし、何を話していたかも分からない。怪しまれたら彼女は何も言ってくれないかもしれない。

「もし会っても、取り込まれるなよ。あくまで、色々聞き出すだけだからな」

確かにこのままでは糸口さえ掴めない。そうなるとアンジェロ殿下が処刑されてしまう。時間はあまりない。一か八か、やってみるしかない。私にかかっているのだから。

「そうと決まったら、お前の方も許可をもらってくれ。俺が迎えに行くから」

「分かった」



伯爵邸でのパーティはもう始まっていた。バロッチ伯は貴族たちの中でも有数の金持ちで、贅を極めたそのタウンハウスは小さいながらも、煌びやかな内装や調度品、そして、たくさんの絵画や美術品などが並べられて、邸内に足を一歩踏み入れたら、まるで別世界に来たような錯覚を受けるくらいだった。

一通り挨拶を済ませ、パーティ会場の隅で二人になって周囲の様子を見ていた。ロザリア・バロッチは真っ赤なボールガウンを身にまとい、まさに主役といった雰囲気で、数々の来賓の間を蝶が舞うように行き来していた。

「なかなか話し込むタイミングが掴めないな」

「そうだね」

伯爵邸に着くとすぐに挨拶に行ったが、周囲に人もいたので、本当に形式ばってのものしかできなかった。彼女は私に対して、怪我が治って良かったと大変喜んでいる様子は見せたが、それ以上変わった態度は見せていない。深い関係があったなら、もう少し違った反応が得られるのではないかと思ったが、拍子抜けだった。本当に彼と関係があったのだろうかと思うくらいに。

自分は王太子殿下の姿になっているので、ひっきりなしに来賓が挨拶に来る。変わるがわるやってくる人たちにげんなりしながらも、なんとか、ボロが出ないように頑張っていた。

一応、チェーザレ様は私をフォローしてくれはするものの、完全に氷の貴公子モードになっていて、ほぼ会話には入ってこない。久々の彼の反応に、やっぱりこの人は……と思った。

特に女性への対応は酷いものだった。明らかに私(王太子殿下の姿の)ではなく、チェーザレ様に話しかけたそうにして、たくさんの女性たちはやってくるのだが、でも……

「アアドウモ」「キニシナイデクレ」「ナニカ、ホカニヨウジハアルノカナ」「ジャア、サヨウナラ」とかまるで人間の感情を持ち合わせていないかのように、無表情で平板な調子で対応していた。

「ちょっとひどいんじゃない。そんな態度じゃ女の子が傷ついちゃうよ」

「対応するだけマシだろ。お前は女ってものをわかっていないんだ」

そう言われるとちょっとカチンときた。一応私、中身は女なんだけど。

「やさしくすればするほど、どんどんこっちの方に踏み込んで来るんだ。だいたい、お前がそんな隙だらけだから悪い女に捕まったんだろう」

そう言われると反論できない。悪い女に引っかかったのはアンジェロ殿下だったけど。

「これでもお年寄りと子供には優しいんだぜ。とにかく年頃の女性には警戒が必要だ。ティナさん以外、俺にとって女性と言える人はいない」

「あら、お二人とも楽しそうね。私もお話に混ぜてもらってもよろしいかしら」

振り向くとロザリア・バロッチ伯爵令嬢が満面に微笑みを浮かべて近くに立っていた。



「改めまして、アンジェロ王太子殿下、チェーザレ様。わざわざいらっしゃっていただき、誠にありがとうございます」

洗練された振る舞いで挨拶をするロザリア。チェーザレは一瞬、怒りの表情を見せたが、すぐに愛想笑いを浮かべてみせた。しかし、全く目は笑っておらず、右手の拳が小刻みに震えている。

「招待していただきありがとうございます」

「今回のパーティには来ていただけないかと思っていましたのに。大変光栄です。それに、珍しくチェーザレ様まで」

チェーザレ様は全く返事をする様子がなかったので、仕方なく私が話を続けた。

「とても、豪華なパーティですね」

「いえ、いえ、とんでもございません。でも、喜んでいただけたようで大変光栄ですわ。お体の方はもう大丈夫なのですか?」

「もう大丈夫、本当はすぐに会いたかったんだけど、周囲の人に止められていてね」

こう言って反応を確かめてみた。彼女はやはり表情の変化はない。

「では、私はちょっと用事がありますので、失礼いたします」

そう言って彼女は私の横をすっと通り抜けた。その際、「また後で」と彼女は小声で囁き、私の手に何かの紙を握らせた。

驚いた時には、彼女はもう過ぎ去った後だった。その場には彼女の香水の薫りだけが、かすかに漂っていた。
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