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エピローグ
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「あけまして、おめでとうございます」
「……っ!?」
ビハインド・ザ・ビートの扉を開けた瞬間、振り袖姿の有栖川が飛び出てきた。
「お、お、おめでとう」
「はい! 今年もよろしくおねがいしますね、住吉さん!」
「う、うん、よろしく」
「というわけで、早速行きましょう!」
「……え? 行くって、どこに?」
「どこって、この格好を見たらわかるでしょう!? 初詣ですよ!」
嬉々とした表情で有栖川が言う。
店内を見ると東さんが困ったように笑っていた。
元旦で店は休みなので時間は十分にある。
それに、元旦にやることといえば、初詣だろう。
それはわかっているんだけど──。
「聴くんじゃなかったのか? ミスティ」
今日、俺がこうしてビハインド・ザ・ビートに足を運んだ理由がそれだった。
ミスティを一緒に聴くと約束したのは工業祭のときだ。
あれから色々あって流れてしまっていたが、店で年越し会をしたときに有栖川が「元旦はミスティば聴きましょう!」と言い出した。
なぜそんな話になったのかといえば、有栖川の祖父のメッセージが残されたミスティが見つかったことを彼女に報告したからだ。
見つかったのは東真一の部屋ではなく、中古レコードのオークションサイトということにした。
そのほうが良いと言ってくれたのは東さんだった。
俺の手からレコードを渡したとき、有栖川は泣いて喜んだ。
まぁ、泣きながら俺に抱きついてきたときは、さすがに焦ってしまったが。
「ミスティは戻ってきてから流します。だから、ね? 行きましょう? 行きがてら、ガーナーの話しばたっぷりしますけん」
だからお願いと言いたげに、手を合わせる有栖川。
「まぁ、それだったらいいけど」
言った途端、有栖川は「お」と声にならない声をあげる。
「やっぱり住吉さんは、うちと初詣に行きたかったとですねぇ」
「なんば言いよっとか。興味があるのは、ガーナーの話しばい」
「あら住吉さん、佐世保弁上手くなったとねぇ」
クスクスと肩を震わせる有栖川。
俺も釣られて笑ってしまう。
「それじゃあ、東さん、行ってきますね」
「ああ、行ってらっしゃい」
レコードを拭く東さんに見送られ、俺と有栖川は店を出る。
初詣なんて、いつ以来だろうか。
ホコリをかぶったような遠い昔に、家族で行った記憶がある。
父と母、そして俺の三人。
ちらりと、となりの有栖川を見た。
振り袖を着ている有栖川は、いつもよりぐっと大人びてみえた。
からっと晴れあがった空から、暖かい日差しが俺たちを照りつける。
頬が妙に暖かいのは、その天気のせいだろう。
「さて、住吉さん」
有栖川が俺を呼ぶ。
変に意識してしまったせいか、有栖川の顔を見るのにかなり抵抗があった。
小さく深呼吸をして、有栖川に視線を送る。
彼女は、子供のように瞳をキラキラと輝かせていた。
「エロール・ガーナーの話しば、してよかですか?」
「……お前なぁ」
本当に有栖川はジャズが好きなんだなぁと、呆れてしまう。
有栖川と俺には、全く共通点がないと思っていた。
だが、それは間違いだった。
似たような境遇で、似たような傷を持ち──何より、俺たちはジャズが大好きだった。
「言い出すのが遅いよ。早く聞かせてくれ」
「あはは、すみません。では早速……」
エロール・ガーナーを語る有栖川の楽しそうな声が、空の彼方に消えていく。
まったくもって、ジャズの聖地と呼ばれた佐世保らしいじゃないか。
晴れ渡った空を見上げながら、俺はつくづくそう思うのだった。
「……っ!?」
ビハインド・ザ・ビートの扉を開けた瞬間、振り袖姿の有栖川が飛び出てきた。
「お、お、おめでとう」
「はい! 今年もよろしくおねがいしますね、住吉さん!」
「う、うん、よろしく」
「というわけで、早速行きましょう!」
「……え? 行くって、どこに?」
「どこって、この格好を見たらわかるでしょう!? 初詣ですよ!」
嬉々とした表情で有栖川が言う。
店内を見ると東さんが困ったように笑っていた。
元旦で店は休みなので時間は十分にある。
それに、元旦にやることといえば、初詣だろう。
それはわかっているんだけど──。
「聴くんじゃなかったのか? ミスティ」
今日、俺がこうしてビハインド・ザ・ビートに足を運んだ理由がそれだった。
ミスティを一緒に聴くと約束したのは工業祭のときだ。
あれから色々あって流れてしまっていたが、店で年越し会をしたときに有栖川が「元旦はミスティば聴きましょう!」と言い出した。
なぜそんな話になったのかといえば、有栖川の祖父のメッセージが残されたミスティが見つかったことを彼女に報告したからだ。
見つかったのは東真一の部屋ではなく、中古レコードのオークションサイトということにした。
そのほうが良いと言ってくれたのは東さんだった。
俺の手からレコードを渡したとき、有栖川は泣いて喜んだ。
まぁ、泣きながら俺に抱きついてきたときは、さすがに焦ってしまったが。
「ミスティは戻ってきてから流します。だから、ね? 行きましょう? 行きがてら、ガーナーの話しばたっぷりしますけん」
だからお願いと言いたげに、手を合わせる有栖川。
「まぁ、それだったらいいけど」
言った途端、有栖川は「お」と声にならない声をあげる。
「やっぱり住吉さんは、うちと初詣に行きたかったとですねぇ」
「なんば言いよっとか。興味があるのは、ガーナーの話しばい」
「あら住吉さん、佐世保弁上手くなったとねぇ」
クスクスと肩を震わせる有栖川。
俺も釣られて笑ってしまう。
「それじゃあ、東さん、行ってきますね」
「ああ、行ってらっしゃい」
レコードを拭く東さんに見送られ、俺と有栖川は店を出る。
初詣なんて、いつ以来だろうか。
ホコリをかぶったような遠い昔に、家族で行った記憶がある。
父と母、そして俺の三人。
ちらりと、となりの有栖川を見た。
振り袖を着ている有栖川は、いつもよりぐっと大人びてみえた。
からっと晴れあがった空から、暖かい日差しが俺たちを照りつける。
頬が妙に暖かいのは、その天気のせいだろう。
「さて、住吉さん」
有栖川が俺を呼ぶ。
変に意識してしまったせいか、有栖川の顔を見るのにかなり抵抗があった。
小さく深呼吸をして、有栖川に視線を送る。
彼女は、子供のように瞳をキラキラと輝かせていた。
「エロール・ガーナーの話しば、してよかですか?」
「……お前なぁ」
本当に有栖川はジャズが好きなんだなぁと、呆れてしまう。
有栖川と俺には、全く共通点がないと思っていた。
だが、それは間違いだった。
似たような境遇で、似たような傷を持ち──何より、俺たちはジャズが大好きだった。
「言い出すのが遅いよ。早く聞かせてくれ」
「あはは、すみません。では早速……」
エロール・ガーナーを語る有栖川の楽しそうな声が、空の彼方に消えていく。
まったくもって、ジャズの聖地と呼ばれた佐世保らしいじゃないか。
晴れ渡った空を見上げながら、俺はつくづくそう思うのだった。
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