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第二章 レッドドラゴンの角

第13話 オリハルコンの剣

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 何があっても、どんなことがあっても、僕がマチルダさんを助けてみせる。
 僕が、彼女の禁術マヤカシを解いて、彼女を自由にする。

 そう決心しながら、僕はある場所に向かっていた。
 町の中央にあるこじんまりとした店。
 なじみの道具屋に向かっていたのだ。
 道具屋の店主は、その仕事柄いろいろなことを知っている。
 特に、剣術や魔術については詳しい。

 道具屋の主人なら……。

 僕は、木製のドアを開けて、店の中へと入っていった。

「やあ、いらっしゃい。今日はどうしたんだ?」
 店主は僕の表情を見て何かを感じ取ったのだろう。神妙な顔つきで言葉をかけてきた。

「実は店主に教えてほしいことがあるのです」

「何だ?」

「禁術マヤカシを解く方法を教えてほしいのです」

「禁術マヤカシ? 誰かかけられてしまったのか?」

「はい。大切な人が……」
 なぜか声が震えてしまった。
 大切な人……。
 こんな言葉が自分の口から出てくるなんて、少し前の僕なら想像もできないことだった。
 一人でボスキャラを倒し、ランキング300位以内に入れたことで、何か一歩前に踏み出せたような気がする。

「大切な人か。そんな人がマヤカシにかけられているんなら、さぞつらいだろう」
 店主は僕の言葉を茶化すことなく受け取ってくれた。
「ゆっくりでいいから、何があったか教えてくれないか? もしかしたら何か役立つ情報を伝えられるかもしれないぞ」

 この店主なら信用できる。
 はずかしいこともすべて話してしまおう。
 そんな気持ちになった僕は、震える声でこれまでの経緯を話した。
 ギルドの受付嬢のマチルダさんがクローに禁術マヤカシをかけられてしまっていること。
 僕の力でマチルダさんを助けたいこと。
 そして、話しているうちにこんなことまで口に出してしまっていた。
 マチルダさんにキスしたら泣かれたこと。

「そうか……、それにしてもクローという男はとんでもない野郎だな」

「マチルダさんにかけられた禁術は解けるでしょうか?」

 僕の問いかけに、店主はこんな話をはじめた。
「マヤカシはかけられた時期が重要なんだ。かけられて時間が立ってしまうとその術が固まってしまいどうすることもできなくなる」

「どうすることも……」

「ただ、話を聞く限り、まだ大丈夫だと思う。マルコスと、その何というか……、接吻できるということは、少なくとも心のすべてがコントロールされきっていないということだ。だから、早いうちに手を打ったほうがいいぞ」

 早く手を打ったほうがいい?
 ということは……。

「何か、いい方法があるのですね。禁術マヤカシを解く方法が、あるのですね?」

「ああ、一つだけある」

「どうすればいいんですか?」
 僕はあせる気持ちを必死に押さえながら聞いた。

「レッドドラゴンだ。レッドドラゴンの角を砕いた粉を飲むと、マヤカシは解けると言われている」

「レッドドラゴンの角?」

「そうだ。ただ、簡単なことではないぞ。知っての通りレッドドラゴンは最強クラスのSランクモンスターだ。いくらゴブリンキングを一人で倒せるようになったからといっても、お前では絶対にかなわない相手だ。それに万が一レッドドラゴンを倒せたとしても、ここが難しいんだ。完全に倒してしまえばモンスターは魔石に変化してしまう。そうなると角を取ることができなくなる。つまりはレッドドラゴンが生きたままの状態で、角を切り落とさなければならないんだ。そんなこと、仮にランキング一位の冒険者だったとしてもできやしないよ」

 ランキング一位でもできない……。
 だったら、どうすれば……。
 でも……。
 僕にはスキル『ライト』がある。
 スキル能力の『回避』があれば、レッドドラゴンの攻撃をかわすことはできそうだ。
 あとは、角を切り落とす手段だ。
 切り落とすことさえできればなんとかなるのでは。

「店主、レッドドラゴンの角を切り落とせるような剣はあるのですか?」

「それだ。並の剣では傷一つつけることもできやしない。だが、可能な剣が一つだけある」

「一つだけ?」

「そうだ。オリハルコンの剣なら可能だ」

「オリハルコンの剣?」

「ああ、この世の中で一番硬いオリハルコンで作られた剣なら、レッドドラゴンの角も切り落とせるはずだ」

「店主、そのオリハルコンの剣を僕に売ってください!」

「バカ言っちゃいけない。オリハルコンの剣なんてそう簡単に手に入る代物ではないぞ。そんな物、うちでも扱っていないし、どこの道具屋にいっても売ってない。オリハルコンの剣は、この世に数本しかない名剣中の名剣だからな」

 そうなんだ。
 そんなに貴重な剣なんだ。

「世の中に数本しかないオリハルコンの剣……。そんな名剣、いったい誰か持っているのですか?」

「確か、冒険者ランキング一位のブルカイトが持っていたはずだ」

 冒険者ランキング一位のブルカイト。
 名前だけなら聞いたことがある。超有名人だ。
 僕なんか全く相手にされない神のような冒険者だ。
 でも。
 会いに行こう。
 彼に会って、オリハルコンの剣を借りに行こう。
 時間がない。
 禁術マヤカシは時間が経てば固まってしまう。
 僕は道具屋の店主に礼を述べると、急いで店を後にした。
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