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第50話 エクストラヒール

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 勇者アークが立ち去ると、俺の体をまとっていた黒い炎が消失した。
 巨大化していた体も小さくなり、元のゴブリンの姿へと戻った。

 すぐさま俺は、床に散らばっているローラ姫の欠片を集めはじめた。四つん這いになり、目を凝らして、バラバラになった欠片を必死になってに寄せ集めた。

 もうどこにも転がっていないだろうか。
 これで、すべて集めることができたのだろうか。
 周囲を見渡し、見落としがないか何度も確認した。

 そして。

 さあ、頼む。

 俺は祈りながらコマンドを呼び出した。

『ヒールを使用しますか?』

 すかさず『はい』を選択する。

 すると赤いコマンドが表示された。そこにはこう書かれていた。

『死んだ人間にヒールは使用できません』

 死んだという表示に、改めてショックを受けた。しかし、ただ落ち込んでいても仕方がない。できることはすべてやるつもりだった。

 次に、ハイパーヒールを念じた。
 やはり予想通りの赤いコマンドが出現した。

『死んだ人間にハイパーヒールは使用できません』

 どうすればいいんだ。
 もう、ローラ姫を、ミナエを生き返らせることはできないのか。
 他に、何か試せることは残ってないのか。

 そう考えていた時、俺の脳裏にあのドラゴンの言葉が浮かんできた。

 ドラゴンは俺に一つのアイテムを授けてくれた。
 一度しか使えない回復魔法と言っていた。
 魔法の名前は、確か……、エクストラヒール……。

 できることは、すべてやってみるしかない。

 俺は、『エクストラヒール』と頭の中で念じた。
 コマンドが現れた。
 そのコマンドの枠は、なぜか赤く点滅している。
 俺は、その中に書かれている文字を読んだ。

『エクストラヒールは、自分の命と引き換えに、相手の命を蘇らせる魔法です。実行しますか?』

 一瞬、何が書いてあるのか理解できなかった。
 しかし、何度も読むと分かってきた。

 エクストラヒールを使えば、俺が死に、ローラ姫が生き返るということなのだ。

 さすがに俺は迷った。
 これ以外に選択肢はないのだろうか?
 ローラ姫を生き返らせる術は、他にないのだろうか?

 できれば俺は、これからも幸せに生きていくミナエの姿を、ずっとそばで見守っていたかった。ゴブリンの俺が、ミナエと結婚できるとは思っていない。けれど、彼女が年をとり、ずっと幸せで居続けるかどうかを確認してから、俺は死にたかった。

 そう考えていた時、ふとあることに気がついた。

 ドラゴンはこんなことを言っていたのだ。

 エクストラヒールを使うと魔王を倒すことができる、と。

 そうなのだ。これを使うと俺は死ぬ。
 つまり、人間の敵である魔王が死ぬということなのだ。

 魔王が死んで、ローラ姫が生き返る。
 ゲームとしては最高のエンディングではないか。

 ゲームをハッピーエンドで終わらせるには、俺が死ぬしかないということだ。

 そういうことだったのだ。

 俺は、このエンディングのために存在していただけなのだ。


 目をつぶった俺は、赤く点滅を続けるコマンドに意識を集中した。

 そして、実行しますかという問いに一瞬躊躇したのち、『はい』と答えた。



 両手から黒い光線が出現した。

 その光線をローラ姫の欠片に当てた。

 欠片が動き出し、人の体の形に戻りはじめた。

 全てのパーツが組み込まれ、完全にローラ姫の石像が完成する。

 色が変色する。

 灰色の肌が、光沢のある人間の肌に戻ってくる。

 やがて完全に人間の姿へと戻ったローラ姫の瞼がゆれた。

 その目がゆっくりと開いた。



 そして、ローラ姫の目が開いた瞬間、俺の周囲は暗黒の世界へと変化したのだった。
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