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第46話 死んでもいいかも
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「ゴブマールさん、今日もたくさんの人が治癒の結晶を買っていかれましたよ」
「そうですか。でしたら、まだまだ結晶の欠片を作らなければなりませんね」
俺はエルフィンの自分の部屋から一歩も外に出ないようにして暮らしていた。
事情はアデレードさんにも話してある。俺が魔王だと聞いても、アデレードさんは怖がる素振りを見せなかった。
逆に、それならここに隠れていてくださいとまで言ってくれたのだ。
うれしかった。
でも、アデレードさんやミルに迷惑はかけられない。
本当なら、すぐにでもスフィンクスのいる廃屋へ帰るべきなのだろう。
けれど、ドート風邪に苦しむ人々を放っておくわけにもいかない。なので、こうしてエルフィンの部屋に隠れ住んでいるわけだ。
「ゴブマールさん、体調は大丈夫ですか?」
「え?」
「最近、特に痩せてきているように思えます」
「大丈夫です。まだまだ治癒の結晶を作らなければなりませんし」
「無理だけはしないでくださいね」
そうだった。俺は無理をして治癒の結晶を作り続けているのだ。
スフィンクスの言葉を思い出した。
「作りすぎると、そなたは死ぬぞ」
確かにスフィンクスはそう忠告していた。
でも俺は思った。
死んでもいいのでは、と。
何しろ俺は魔王なのだ。人間の敵なのだ。
こうして隠れて生きていても、ハッピーロードの展開通りなら、俺は勇者と戦い、ローラ姫を殺してしまう張本人になるのだ。
俺が死んでいなくなれば。
もう勇者と魔王が戦う必要もなくなる。
そして、ローラ姫が殺されることもないだろう。
そう、俺が死ぬと、何もかもが上手くいくのだ。
ここで、ドート風邪に苦しむ人たちを助けて、最後は人の役に立って、死んでしまう人生もありだと思った。最近はそんなことばかり考えるようになっていたのだ。
でも、死ぬのはもう少し先だ。
まだ、ドート風邪の流行はおさまっていない。
今死んでしまえば、新種の風邪で命を落とす人がたくさん出てしまう。
最後は死んで、ゲームオーバーにしたかったが、ドート風邪が収まるまで、もう少し生き続けていく必要がありそうだ。
部屋にこもった俺は、複雑な魔法陣を描くと、治癒の結晶を三つ作った。
結晶を作り終えると、崩れるようにベッドへ倒れ込んだ。
翌日の朝、ミルが小さな声で話しかけてきた。
「お兄さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。まだまだ結晶を作りたいから、こんなところで寝ていたら駄目だよね」
「ううん、お兄さんは、がんばりすぎだよ。無理しないで、ずっと休んでいてほしい」
ミルは心配してくれているのだろう。
魔王の俺を心配してくれるのだから、ありがたい話だ。
でも……、俺は布団の中で考えた。
もう限界なのかもしれない。死期がそこまで迫ってきている気がする。
結局俺は、ドート風邪の流行を収めることもできなかったのだ。
無駄な抵抗を続けてきたが、何もできず、役立たずのままで死んでいく運命なのだ。
ぼんやりする意識の中で、そっと目をつぶってみた。
もうハッピーロードの世界ともお別れだ。
死んだら俺はどうなってしまうのだろうか。
消えてなくなるだけなのだろうか。
人生最後なら、ゲームの世界であろうと、外の景色をもう一度、眺めておこう。
なにしろずっと、部屋に隠れて生活していたのだから。太陽の光を浴びるのも悪くない気がしたのだ。
俺は、体を引きずるようにして、エルフィンの店先に足を進めた。
窓から外が見える。
すると、通りのはるか先まで、長い行列ができている。みんなエルフィンの開店を待っているのだ。
「こんなにたくさんの人が、治癒の結晶をもらいに来ているのですね」
店で開店の準備をしているアデレードさんに声をかけた。
「これほどの人が待っているのなら、並んでいる皆さん全員に結晶を渡せますかね」
アデレードさんは、ふらついている俺の体を支えながら言った。
「違うのよ」
「違う?」
「ええ。昨日まではみんな薬をもらいにくる人ばかりでしたが、でも、今日は違うのよ」
「どういうことですか?」
「この行列のほとんどの人は、すでにドート風邪が治った人たちなの」
「治った人たち?」
「そう。薬をもらって良くなった人たちが行列を作っているの」
「どうして?」
「みんなお礼を言いたくて並んでいるのよ」
「お礼?」
「そう。薬を渡す際に、作ったのはゴブマールさんだと皆さんに伝えていたの。で、最近かなり体調を崩していることも話したら、治った皆さんが、ゴブマールさんにお礼を言いたいと集まってきているのよ」
「……」
「あと、今日になってですが、ドート風邪にかかる人は、ほとんどいなくなりました。もう、流行は収まったのよ。こうなったのも、すべてゴブマールさんのおかげです」
「ドート風邪が収まった……」
「さあ、ゴブマールさん、みんなの前に出てください。もう隠れる必要なんてありません。みんなは知っています、誰が自分たちの命を救ってくれたのかを。ですから、ゴブマールさんが魔王だなんてもう関係ありません。もしあなたを倒そうとする冒険者がいるのなら、ここに並んでいる人たちが黙ってはいないはずですよ」
俺はアデレードさんの言葉を聞きながら、窓から見える人の列を眺めていた。外からも俺の姿が見えたのだろう。皆、好意的な表情で俺を見ている。中には手を振ってくれる人たちもいた。
「そうですか。でしたら、まだまだ結晶の欠片を作らなければなりませんね」
俺はエルフィンの自分の部屋から一歩も外に出ないようにして暮らしていた。
事情はアデレードさんにも話してある。俺が魔王だと聞いても、アデレードさんは怖がる素振りを見せなかった。
逆に、それならここに隠れていてくださいとまで言ってくれたのだ。
うれしかった。
でも、アデレードさんやミルに迷惑はかけられない。
本当なら、すぐにでもスフィンクスのいる廃屋へ帰るべきなのだろう。
けれど、ドート風邪に苦しむ人々を放っておくわけにもいかない。なので、こうしてエルフィンの部屋に隠れ住んでいるわけだ。
「ゴブマールさん、体調は大丈夫ですか?」
「え?」
「最近、特に痩せてきているように思えます」
「大丈夫です。まだまだ治癒の結晶を作らなければなりませんし」
「無理だけはしないでくださいね」
そうだった。俺は無理をして治癒の結晶を作り続けているのだ。
スフィンクスの言葉を思い出した。
「作りすぎると、そなたは死ぬぞ」
確かにスフィンクスはそう忠告していた。
でも俺は思った。
死んでもいいのでは、と。
何しろ俺は魔王なのだ。人間の敵なのだ。
こうして隠れて生きていても、ハッピーロードの展開通りなら、俺は勇者と戦い、ローラ姫を殺してしまう張本人になるのだ。
俺が死んでいなくなれば。
もう勇者と魔王が戦う必要もなくなる。
そして、ローラ姫が殺されることもないだろう。
そう、俺が死ぬと、何もかもが上手くいくのだ。
ここで、ドート風邪に苦しむ人たちを助けて、最後は人の役に立って、死んでしまう人生もありだと思った。最近はそんなことばかり考えるようになっていたのだ。
でも、死ぬのはもう少し先だ。
まだ、ドート風邪の流行はおさまっていない。
今死んでしまえば、新種の風邪で命を落とす人がたくさん出てしまう。
最後は死んで、ゲームオーバーにしたかったが、ドート風邪が収まるまで、もう少し生き続けていく必要がありそうだ。
部屋にこもった俺は、複雑な魔法陣を描くと、治癒の結晶を三つ作った。
結晶を作り終えると、崩れるようにベッドへ倒れ込んだ。
翌日の朝、ミルが小さな声で話しかけてきた。
「お兄さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。まだまだ結晶を作りたいから、こんなところで寝ていたら駄目だよね」
「ううん、お兄さんは、がんばりすぎだよ。無理しないで、ずっと休んでいてほしい」
ミルは心配してくれているのだろう。
魔王の俺を心配してくれるのだから、ありがたい話だ。
でも……、俺は布団の中で考えた。
もう限界なのかもしれない。死期がそこまで迫ってきている気がする。
結局俺は、ドート風邪の流行を収めることもできなかったのだ。
無駄な抵抗を続けてきたが、何もできず、役立たずのままで死んでいく運命なのだ。
ぼんやりする意識の中で、そっと目をつぶってみた。
もうハッピーロードの世界ともお別れだ。
死んだら俺はどうなってしまうのだろうか。
消えてなくなるだけなのだろうか。
人生最後なら、ゲームの世界であろうと、外の景色をもう一度、眺めておこう。
なにしろずっと、部屋に隠れて生活していたのだから。太陽の光を浴びるのも悪くない気がしたのだ。
俺は、体を引きずるようにして、エルフィンの店先に足を進めた。
窓から外が見える。
すると、通りのはるか先まで、長い行列ができている。みんなエルフィンの開店を待っているのだ。
「こんなにたくさんの人が、治癒の結晶をもらいに来ているのですね」
店で開店の準備をしているアデレードさんに声をかけた。
「これほどの人が待っているのなら、並んでいる皆さん全員に結晶を渡せますかね」
アデレードさんは、ふらついている俺の体を支えながら言った。
「違うのよ」
「違う?」
「ええ。昨日まではみんな薬をもらいにくる人ばかりでしたが、でも、今日は違うのよ」
「どういうことですか?」
「この行列のほとんどの人は、すでにドート風邪が治った人たちなの」
「治った人たち?」
「そう。薬をもらって良くなった人たちが行列を作っているの」
「どうして?」
「みんなお礼を言いたくて並んでいるのよ」
「お礼?」
「そう。薬を渡す際に、作ったのはゴブマールさんだと皆さんに伝えていたの。で、最近かなり体調を崩していることも話したら、治った皆さんが、ゴブマールさんにお礼を言いたいと集まってきているのよ」
「……」
「あと、今日になってですが、ドート風邪にかかる人は、ほとんどいなくなりました。もう、流行は収まったのよ。こうなったのも、すべてゴブマールさんのおかげです」
「ドート風邪が収まった……」
「さあ、ゴブマールさん、みんなの前に出てください。もう隠れる必要なんてありません。みんなは知っています、誰が自分たちの命を救ってくれたのかを。ですから、ゴブマールさんが魔王だなんてもう関係ありません。もしあなたを倒そうとする冒険者がいるのなら、ここに並んでいる人たちが黙ってはいないはずですよ」
俺はアデレードさんの言葉を聞きながら、窓から見える人の列を眺めていた。外からも俺の姿が見えたのだろう。皆、好意的な表情で俺を見ている。中には手を振ってくれる人たちもいた。
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