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第41話 ドラゴンからの贈り物
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湖から出現したドラゴンは、じっと俺を睨みつけてきた。
「お前はなぜ、ここへ来たのだ?」
地面が揺れるような重くて低い声だった。
何度もハッピーロードをプレイしているのでよく分かっている。ドラゴンは、魔王よりも強い設定になっている。魔王が魔族の長なら、ドラゴンは神そのものなのだ。
なので、ゲーム中、ドラゴンに戦いを挑もうとすると、何も手出しができないまま、ゲームオーバーとなってしまうのだ。では、戦わずにそっとしていればいいのかと言えば、そういうわけにもいかない。ドラゴンは、近くに現れた冒険者たちを、容赦なく攻撃してくるモンスターでもあった。しかも強さは桁違いで、どんな冒険者でも攻撃を受ければ必ず一撃で殺されてしまうのだ。
ドラゴンを見たら、すぐさま逃げ出せ。
これが、ハッピーロードをやり尽くしているゲーマーたちの合言葉である。
そんなドラゴンが、今俺に話しかけてきている。
俺は、情けないくらいに全身が震えていた。声を出そうにも、のどがカラカラになってしまい何も話せないでいた。
「もう一度だけ聞くぞ。お前はなぜ、ここへ来たのだ?」
「は、はい。魔王を倒したくて、来ました」
「魔王を倒すだと?」
ドラゴンの目が光ったように思えた。
「お前が魔王を倒すというのか?」
「はい」
「どうして魔王を倒したいのだ?」
「守りたい人がいるのです」
「ふん。で、この森を荒らしにきたと言うわけか?」
「……」
「今から大切な質問をする。その答えによっては、お前の未来はないものと思え。では聞くぞ」
ドラゴンの頭部がゆっくりと動いた。
「お前は、自分の最も大切な存在が魔王そのものだったとしても、その魔王を殺すことができるのか?」
ドラゴンの言葉が、すぐには理解できなかった。
自分の最も大切な存在が魔王?
俺の大切な存在と言えばミナエだが、もちろんミナエが魔王であるわけがない。ミナエは魔王に殺されようとしているのだから。
ミナエ以上に大切な存在? 俺の頭に、そんなものは何も浮かんでこなかった。
「さあ、どうなんだ? 自分の最も大切な存在が魔王そのものだったとしても、その魔王を殺すことができるのか?」
「魔王でしたら、もちろん殺します」
「その言葉に嘘はないだろうな」
「はい」
「だったら、お前にとって必ず役に立つアイテムを一つ与えてやろう」
ドラゴンが口を開け、ハアーと息を吐いた。
俺はその風圧に耐え、立ち続けた。
やがて風がおさまると、俺は率直に聞いた。
「アイテムを使えば、魔王を殺すことができるのですか?」
「それは、お前の使い方次第だ」
使い方次第で魔王が倒せる!
ついにやったのだ。ついに俺は、魔王を倒すアイテムを手に入れたのだ。
「さあ、ここから立ち去れ。もうお前に用はない」
「ちょっと待ってください。アイテムは? その魔王に勝てるアイテムというのはどこにあるのですか?」
「お前の体の中に仕組んである」
「どういうことでしょうか?」
「お前に与えたアイテムは、魔法の一種だ。お前の得意な回復魔法を一つ追加してやった。『エクストラヒール』と名付けている。それがお前に与えたアイテムだ」
「回復魔法? どうして回復魔法で魔王が倒せるのですか?」
「難しいことではない。そのうちにわかることだ」
「今、教えていただけないでしょうか?」
「その必要はない。ただ一つだけ忠告しておいてやろう。この『エクストラヒール』はたった一度しか使えない。本当に使いたいときが来るまで、しっかりととっておくのだ」
「ど、どういうことですか? もう少し説明してください」
「ここまでだ。もうお前に伝えることは何もない。さっさとここから立ち去るがよい」
ドラゴンはそれだけを言い残し、湖の中へと消え去ってしまった。
湖のほとりで一人湖面を見つめていると、視界の脇に何かが入ってきた。俺はゾクッとしながら横を向いた。
すると、そこには俺の体に寄り添うようにスフィンクスが立っていた。猛獣の体に女性の上半身をもつスフィンクスは、俺と同じように湖面を見ながら口を開いた。
「そなたは、本当に魔王を倒すつもりでいるのだな」
「はい」
「だったら、私が協力してやろう。そなたのアイテムがあれば、すぐにでも魔王を討伐することができる。しかし、それでは、そなたの目的は達せられないはずだ。そなたの目的が達成できるよう、そなたの望みがかなうよう、私が協力し、導いてやろう」
そう話したスフィンクスは、四本の足を曲げ、体を低くした。
「さあ、私の背中に乗るのだ。お前の住む町へ戻るぞ。そして教えてほしい。そなたがなぜ魔王を倒そうとしているのか、その目的を詳しく教えてもらえないか」
俺はスフィンクスに言われるがまま、その背中にまたがったのだった。
「お前はなぜ、ここへ来たのだ?」
地面が揺れるような重くて低い声だった。
何度もハッピーロードをプレイしているのでよく分かっている。ドラゴンは、魔王よりも強い設定になっている。魔王が魔族の長なら、ドラゴンは神そのものなのだ。
なので、ゲーム中、ドラゴンに戦いを挑もうとすると、何も手出しができないまま、ゲームオーバーとなってしまうのだ。では、戦わずにそっとしていればいいのかと言えば、そういうわけにもいかない。ドラゴンは、近くに現れた冒険者たちを、容赦なく攻撃してくるモンスターでもあった。しかも強さは桁違いで、どんな冒険者でも攻撃を受ければ必ず一撃で殺されてしまうのだ。
ドラゴンを見たら、すぐさま逃げ出せ。
これが、ハッピーロードをやり尽くしているゲーマーたちの合言葉である。
そんなドラゴンが、今俺に話しかけてきている。
俺は、情けないくらいに全身が震えていた。声を出そうにも、のどがカラカラになってしまい何も話せないでいた。
「もう一度だけ聞くぞ。お前はなぜ、ここへ来たのだ?」
「は、はい。魔王を倒したくて、来ました」
「魔王を倒すだと?」
ドラゴンの目が光ったように思えた。
「お前が魔王を倒すというのか?」
「はい」
「どうして魔王を倒したいのだ?」
「守りたい人がいるのです」
「ふん。で、この森を荒らしにきたと言うわけか?」
「……」
「今から大切な質問をする。その答えによっては、お前の未来はないものと思え。では聞くぞ」
ドラゴンの頭部がゆっくりと動いた。
「お前は、自分の最も大切な存在が魔王そのものだったとしても、その魔王を殺すことができるのか?」
ドラゴンの言葉が、すぐには理解できなかった。
自分の最も大切な存在が魔王?
俺の大切な存在と言えばミナエだが、もちろんミナエが魔王であるわけがない。ミナエは魔王に殺されようとしているのだから。
ミナエ以上に大切な存在? 俺の頭に、そんなものは何も浮かんでこなかった。
「さあ、どうなんだ? 自分の最も大切な存在が魔王そのものだったとしても、その魔王を殺すことができるのか?」
「魔王でしたら、もちろん殺します」
「その言葉に嘘はないだろうな」
「はい」
「だったら、お前にとって必ず役に立つアイテムを一つ与えてやろう」
ドラゴンが口を開け、ハアーと息を吐いた。
俺はその風圧に耐え、立ち続けた。
やがて風がおさまると、俺は率直に聞いた。
「アイテムを使えば、魔王を殺すことができるのですか?」
「それは、お前の使い方次第だ」
使い方次第で魔王が倒せる!
ついにやったのだ。ついに俺は、魔王を倒すアイテムを手に入れたのだ。
「さあ、ここから立ち去れ。もうお前に用はない」
「ちょっと待ってください。アイテムは? その魔王に勝てるアイテムというのはどこにあるのですか?」
「お前の体の中に仕組んである」
「どういうことでしょうか?」
「お前に与えたアイテムは、魔法の一種だ。お前の得意な回復魔法を一つ追加してやった。『エクストラヒール』と名付けている。それがお前に与えたアイテムだ」
「回復魔法? どうして回復魔法で魔王が倒せるのですか?」
「難しいことではない。そのうちにわかることだ」
「今、教えていただけないでしょうか?」
「その必要はない。ただ一つだけ忠告しておいてやろう。この『エクストラヒール』はたった一度しか使えない。本当に使いたいときが来るまで、しっかりととっておくのだ」
「ど、どういうことですか? もう少し説明してください」
「ここまでだ。もうお前に伝えることは何もない。さっさとここから立ち去るがよい」
ドラゴンはそれだけを言い残し、湖の中へと消え去ってしまった。
湖のほとりで一人湖面を見つめていると、視界の脇に何かが入ってきた。俺はゾクッとしながら横を向いた。
すると、そこには俺の体に寄り添うようにスフィンクスが立っていた。猛獣の体に女性の上半身をもつスフィンクスは、俺と同じように湖面を見ながら口を開いた。
「そなたは、本当に魔王を倒すつもりでいるのだな」
「はい」
「だったら、私が協力してやろう。そなたのアイテムがあれば、すぐにでも魔王を討伐することができる。しかし、それでは、そなたの目的は達せられないはずだ。そなたの目的が達成できるよう、そなたの望みがかなうよう、私が協力し、導いてやろう」
そう話したスフィンクスは、四本の足を曲げ、体を低くした。
「さあ、私の背中に乗るのだ。お前の住む町へ戻るぞ。そして教えてほしい。そなたがなぜ魔王を倒そうとしているのか、その目的を詳しく教えてもらえないか」
俺はスフィンクスに言われるがまま、その背中にまたがったのだった。
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