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第40話 スフィンクスをどうする
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俺はスフィンクスに近づいた。
自分へ途絶えることなくヒールをかけ続けると、スフィンクスの衝撃波が襲ってきても、なぜか瞬時にその傷を治すことができた。そればかりでなく、風圧は感じるが、後ろに飛ばされもぜず、前方にできた壁も通り抜けることができた。
なぜ、ヒールをかけ続けるとそうなるのか、その理由はよくわからない。ヒールが相手の魔法効果を消しているのかもしれなかった。
少しずつだがスフィンクスに近づき、ついには手の届く距離にまで到達した。
俺は、近づけば近づくほど効果のある攻撃魔法を、一つ習得していたのだ。
それは、スピアと呼ばれる初級魔法で、属性により効果の違う矢を放つことができるものだ。例えば、火の属性なら赤い矢を、氷属性なら半透明な白い矢を放つ魔法だ。
これだけ近づけたなら、もういいだろう。
そう思った俺は、呪文を唱える。
「アーカナム、サークラム、クレーレ!」
人差し指が白く輝き始めた。すばやく新しい魔法陣を空中に描いた。
「スピア」
俺の手に真っ黒な矢が現れた。
この黒い属性の正体は何なのだろうか。そう思ったが、今は深く考えている時間はない。
俺はその黒い矢をしっかりと握りしめた。左足を思いっきり上げながら、反動をつけ、手に持った矢をスフィンクスに向かい勢いよく投げつけた。
「ガシャーン」
ガラスの割れるような音がした。
見ると、俺の放った黒い矢が、スフィンクスの胴体に突き刺さっていた。
「ガガガガ、ガガガガガ」
地響きのような音が聞こえてきた。スフィンクスの発する唸り声だった。
今まで、銅像のように四本足で立ち続けていたスフィンクスの膝が折れ、腹を地面につけた。そしてそのまま首の支えが無くなったかのように折れ曲がった。
「ドン」
重い音とともに、スフィンクスが完全に横たわり、崩れ落ちた。
何が起こったのだろう。
目の前に倒れているラスボス級のモンスターを見ながら考えた。
たった一撃の矢が、スフィンクスの見えない壁を砕き、スフィンクスの胴体を貫いていった。
俺のスピアは、それほど強力なものなのか?
いや、そんなはずはない。何しろ俺は、魔法初心者だ。スピアにしても覚えたての魔法なのだ。
ただ、魔法に関しては、今までも自分の想像を遥かに超える力を発揮してきたのも事実だ。ブロックの時もそうだった。覚えたてのブロックを自在に操れるようになり、その威力にしても驚くほどのものだった。ヒールにしてもそうだ。国中を探しても使える術師が数人しかいないといわれているハイパーヒールを、俺は何の苦労もなく使えたのだ。そして、今回のスピア。ラスボス級のモンスターをたった一撃で倒してしまっている。
俺の魔法にこんな突拍子もない力があるのは、隠された属性に関係しているのではないのか。
火でも氷でも風でもない、俺の属性、黒く塗りつぶされている属性に、俺の魔法の秘密が隠されているのではないのだろうか。
ぼんやりとだが、そんな気がしてきた。
ただ、今はそんなことを深く考え続けているときではない。
スフィンクスにトドメの一撃を加えなければならない。
俺は、完全にスフィンクスを葬り去るため、もう一度スピアを唱え、黒い矢を右手に持った。
熱いはずの空気が、ひんやりとしてきた。
さあ、倒れているスフィンクスの心臓めがけて、矢を突き刺そう。
そう思い、腕を振り上げた時だった。
突如、頭の中でコマンドが開いた。
コマンドにはこう書かれていた。
『神のしもべであるモンスターを本当に殺害しますか?』
どういうことだ?
コマンドの文字を読んだ俺は、スピアを持ったまま、振り上げた腕を止めた。
まるで、ここでスフィンクスを殺すと必ず良くないことが起こるぞ、とでも伝えたいようなコマンドだった。
ステージをクリアするためには、スフィンクスを殺して最高のアイテムを手に入れる。その一択しかないはずだ。
けれど、スフィンクスが神のしもべだと伝えるコマンド、そんなものがわざわざ現れてくるということは……。
俺は手に握っていた真っ黒いスピアを手放した。スピアはスッと空に消えた。
そして、目の前に横たわるスフィンクスに目を向けた。
傷を負い、身動きできずにいるスフィンクスは、眼球だけを動かして俺の姿を捕らえていた。もう攻撃してくる力は残っていないようだ。
俺は決めた。
コマンドを信じようと。
スフィンクスの傷口へ、右手のひらをかざした。
「ヒール」
手のひらが白く光り、その粒子がスフィンクスの腹部にできた傷口へと流れ込んでいく。
すると、みるみる傷口がふさがりはじめた。
スフィンクスの苦しみに満ちた顔が、心地のよい柔和な表情へと変化していった。
やがて、傷口が完全にふさがったスフィンクスは、胴体をブルっと震わすと、鋭い爪を持つ足を大地につけ、スクっと立ち上がったのだった。
再びスフィンクスが襲ってきたらどうすればいいのか。
俺の体力は持ってくれるのだろうか。
そう思った俺は、身構えながらスフィンクスを観察していたが、どうやらそんな心配は無用だった。
スフィンクスは、その殺気を一切消し去り、おとなしい生き物へと変化していたのだ。
コマンドの導くままに、神のしもべであるスフィンクスを回復させてみた。
でも、これからどうすればいいんだ。
そう考えている時だった。
目の前の湖面から、沸騰でもしたかのようにブクブクと気泡が現れはじめた。
ザバーっと水柱が立ったかと思うと、その中から巨大な一体のモンスターが姿を見せたのだ。
間違いなかった。
そこに現れたのは、神の化身とも呼ばれている、緑色と金色のウロコが輝く伝説の聖獣。
そう、俺の目の前には、巨大なドラゴンがそびえ立っていたのだった。
自分へ途絶えることなくヒールをかけ続けると、スフィンクスの衝撃波が襲ってきても、なぜか瞬時にその傷を治すことができた。そればかりでなく、風圧は感じるが、後ろに飛ばされもぜず、前方にできた壁も通り抜けることができた。
なぜ、ヒールをかけ続けるとそうなるのか、その理由はよくわからない。ヒールが相手の魔法効果を消しているのかもしれなかった。
少しずつだがスフィンクスに近づき、ついには手の届く距離にまで到達した。
俺は、近づけば近づくほど効果のある攻撃魔法を、一つ習得していたのだ。
それは、スピアと呼ばれる初級魔法で、属性により効果の違う矢を放つことができるものだ。例えば、火の属性なら赤い矢を、氷属性なら半透明な白い矢を放つ魔法だ。
これだけ近づけたなら、もういいだろう。
そう思った俺は、呪文を唱える。
「アーカナム、サークラム、クレーレ!」
人差し指が白く輝き始めた。すばやく新しい魔法陣を空中に描いた。
「スピア」
俺の手に真っ黒な矢が現れた。
この黒い属性の正体は何なのだろうか。そう思ったが、今は深く考えている時間はない。
俺はその黒い矢をしっかりと握りしめた。左足を思いっきり上げながら、反動をつけ、手に持った矢をスフィンクスに向かい勢いよく投げつけた。
「ガシャーン」
ガラスの割れるような音がした。
見ると、俺の放った黒い矢が、スフィンクスの胴体に突き刺さっていた。
「ガガガガ、ガガガガガ」
地響きのような音が聞こえてきた。スフィンクスの発する唸り声だった。
今まで、銅像のように四本足で立ち続けていたスフィンクスの膝が折れ、腹を地面につけた。そしてそのまま首の支えが無くなったかのように折れ曲がった。
「ドン」
重い音とともに、スフィンクスが完全に横たわり、崩れ落ちた。
何が起こったのだろう。
目の前に倒れているラスボス級のモンスターを見ながら考えた。
たった一撃の矢が、スフィンクスの見えない壁を砕き、スフィンクスの胴体を貫いていった。
俺のスピアは、それほど強力なものなのか?
いや、そんなはずはない。何しろ俺は、魔法初心者だ。スピアにしても覚えたての魔法なのだ。
ただ、魔法に関しては、今までも自分の想像を遥かに超える力を発揮してきたのも事実だ。ブロックの時もそうだった。覚えたてのブロックを自在に操れるようになり、その威力にしても驚くほどのものだった。ヒールにしてもそうだ。国中を探しても使える術師が数人しかいないといわれているハイパーヒールを、俺は何の苦労もなく使えたのだ。そして、今回のスピア。ラスボス級のモンスターをたった一撃で倒してしまっている。
俺の魔法にこんな突拍子もない力があるのは、隠された属性に関係しているのではないのか。
火でも氷でも風でもない、俺の属性、黒く塗りつぶされている属性に、俺の魔法の秘密が隠されているのではないのだろうか。
ぼんやりとだが、そんな気がしてきた。
ただ、今はそんなことを深く考え続けているときではない。
スフィンクスにトドメの一撃を加えなければならない。
俺は、完全にスフィンクスを葬り去るため、もう一度スピアを唱え、黒い矢を右手に持った。
熱いはずの空気が、ひんやりとしてきた。
さあ、倒れているスフィンクスの心臓めがけて、矢を突き刺そう。
そう思い、腕を振り上げた時だった。
突如、頭の中でコマンドが開いた。
コマンドにはこう書かれていた。
『神のしもべであるモンスターを本当に殺害しますか?』
どういうことだ?
コマンドの文字を読んだ俺は、スピアを持ったまま、振り上げた腕を止めた。
まるで、ここでスフィンクスを殺すと必ず良くないことが起こるぞ、とでも伝えたいようなコマンドだった。
ステージをクリアするためには、スフィンクスを殺して最高のアイテムを手に入れる。その一択しかないはずだ。
けれど、スフィンクスが神のしもべだと伝えるコマンド、そんなものがわざわざ現れてくるということは……。
俺は手に握っていた真っ黒いスピアを手放した。スピアはスッと空に消えた。
そして、目の前に横たわるスフィンクスに目を向けた。
傷を負い、身動きできずにいるスフィンクスは、眼球だけを動かして俺の姿を捕らえていた。もう攻撃してくる力は残っていないようだ。
俺は決めた。
コマンドを信じようと。
スフィンクスの傷口へ、右手のひらをかざした。
「ヒール」
手のひらが白く光り、その粒子がスフィンクスの腹部にできた傷口へと流れ込んでいく。
すると、みるみる傷口がふさがりはじめた。
スフィンクスの苦しみに満ちた顔が、心地のよい柔和な表情へと変化していった。
やがて、傷口が完全にふさがったスフィンクスは、胴体をブルっと震わすと、鋭い爪を持つ足を大地につけ、スクっと立ち上がったのだった。
再びスフィンクスが襲ってきたらどうすればいいのか。
俺の体力は持ってくれるのだろうか。
そう思った俺は、身構えながらスフィンクスを観察していたが、どうやらそんな心配は無用だった。
スフィンクスは、その殺気を一切消し去り、おとなしい生き物へと変化していたのだ。
コマンドの導くままに、神のしもべであるスフィンクスを回復させてみた。
でも、これからどうすればいいんだ。
そう考えている時だった。
目の前の湖面から、沸騰でもしたかのようにブクブクと気泡が現れはじめた。
ザバーっと水柱が立ったかと思うと、その中から巨大な一体のモンスターが姿を見せたのだ。
間違いなかった。
そこに現れたのは、神の化身とも呼ばれている、緑色と金色のウロコが輝く伝説の聖獣。
そう、俺の目の前には、巨大なドラゴンがそびえ立っていたのだった。
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