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第25話 未来予測
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「ごちそうさま、期待通り、とても美味しかったわ」
スパゲッティーをきれいにさらえたローラ姫は、厨房にいる俺に向かいニッコリと笑った。
ローラ姫と話すチャンスだと思った俺は、厨房から出るとローラ姫の座るテーブルに向かった。
ゲームのシナリオを知り尽くしている俺は、はっきりとこう伝えたかった。
アークに近寄ってはいけない。アークに近寄れば、あなたは死んでしまうのだと。
しかし、こうして二人が楽しげに食事をしている時に、そんな予言めいたことを言えるはずもなかった。
言えば、おかしな奴だと思われ、二度とローラ姫に会えないかもしれない。
なんとかローラ姫に真実を告げることはできないのだろうか。今日、話せないにしても、今後も彼女とつながりを持ち続け、いつかは、いや早いうちに彼女の運命を話すことで、今後の対策を練らなければ。タイムリミットはどんどんと近づいているのだ。
俺は思い切って言った。
「ローラ姫、失礼を承知でお伝えさせてください」
ミナエと同じ目がこちらを向いた。
「何かしら」
「どうしてもお伝えしなければならない大切なことがあるのです。二人で話せる時間を作っていただけませんか?」
今まで黙って座っていた勇者アークが俺を睨みつけながら口を開いた。
「姫と個人的に会いたいなど、無礼千万である。そのような申し出が通らないことは、お前もよく分かっているはずだ」
「はい。しかし、どうしても姫にお伝えしたいことがあるのです」
「しつこいぞ!」
「アーク、そう熱くならないで」
ローラ姫はパッチリとした目を向けてこう言った。
「確かに二人っきりで会うのは難しいかもしれません。私には、常にアークをはじめとした護衛の者がついていますから。ですから、お話があるのでしたら、この場でおっしゃっていただけませんか?」
「それは……」
何かうまく伝えることができる方法はないのだろうか。
「今、ここではお話できません」
考えを巡らせながら、俺は言葉を続けた。
「私は、これでも魔法を使うことができます。そして、私は未来をかなり正確に予測できる能力を持っています」
「なんだと! 未来を正確に予測するだと! デタラメを言うにも程があるぞ!」
「いえ、本当なのです。確か、クリスタルソロス城では、もうすぐ大きな晩餐会があるのではないでしょうか」
「隣国の王子を招いての晩餐会を予定しています」
「その晩餐会には、姫の命を狙う他国の魔道士が紛れ込んでいます。でも安心してください。その魔道士は結局アーク様の活躍により捕らえられてしまうのです」
晩餐会で姫の命を救うシーンは、ゲームの固定イベントで、必ず行われるはずだった。ただ、この出来事により、ますますローラ姫とアークの距離が縮まってしまうのだが。
「この予測が当たるかどうか、ご確認頂けませんか。そしてもし、私の未来予測が信頼できるものと思って頂けましたら、是非とも姫と二人で話す機会を設けてほしいのです。どうしても姫にお伝えしなければならないことがありますので」
「姫の命が狙われるだと! もし、姫を心配させたいがための作り話だったとすれば、ただ事ではすまぬぞ!」
「決して作り話ではございません。アーク様も当日は招待客や従事の者に目を光らせておいてください」
そうなのだ。ゲームではここで姫が亡くなるパターンもあるのだ。そして、命を狙う魔道士は、ゲームをするたびに毎回違う人物に成り代わるので、この場で誰だと告げることはできない。姫を救うには、アークの活躍が必須なのだ。
「わかりました」
ローラ姫は唇を噛みしめた。
「ゴブマールさん、あなたがそこまで言うのでしたら、次の晩餐会でそのようなことが起こるのかどうか注意しておきましょう。もしお話通りのことが起こったなら、もう少し、あなたのお話を聞いてみようかと思います」
「ありがとうございます」
ハッピーロードの固定イベントが、実際に行われるかどうか心配ではあったが、姫に俺の話を信用して聞いてもらうにはこうするより仕方がなかった。
話を終えると、ローラ姫は、店を借り切ってしまった分だと言い、20万ガロ支払って帰っていった。実際の料理代は二人で2千ガロだったので、その百倍の金額だった。
あとは、順調に晩餐会のゲームイベントが行われ、勇者アークが無事にローラ姫を救ってくれるよう祈るばかりであった。
※ ※ ※
ローラ姫が店を出ていった後、エルフィンは大変なことになってしまった。
今まで、まったく入らなかったお客が、文字通り殺到してきたのだ。
テーブルはすぐに満杯となり、相席でも構わないと言いながらお客が入り続ける。
お客たちは皆「ローラ姫が食べたものと同じものを」と注文してきた。
俺は、厨房の中を走り回りながら、スパゲッティーを作り始めた。料理専門学校時代、いつか自分の料理でお客を喜ばすことができたらと夢見ていたが、まさに今、それが現実のものとなっている。
「うん、美味い!」
「確かに、ローラ姫が食べに来るだけのことはあるわ」
「オレンジ色だなんて、変わった色だけど、最高だわ!」
「おい、おかわりはあるのかい? 俺みたいな大男なら二人前は楽勝だぞ」
どんどんと注文が入り、いつもの十倍仕込んでいた材料もあっという間に無くなった。この分だと、夕食時までに、また新たに仕込みをする必要がありそうだ。
嬉しい悲鳴だった。
アデレードさんも、表情を輝かせながら、お客の間を動き回っていた。
ミルは大きな目をますます丸くしながら、店から見える長蛇の列を眺めていた。
スパゲッティーをきれいにさらえたローラ姫は、厨房にいる俺に向かいニッコリと笑った。
ローラ姫と話すチャンスだと思った俺は、厨房から出るとローラ姫の座るテーブルに向かった。
ゲームのシナリオを知り尽くしている俺は、はっきりとこう伝えたかった。
アークに近寄ってはいけない。アークに近寄れば、あなたは死んでしまうのだと。
しかし、こうして二人が楽しげに食事をしている時に、そんな予言めいたことを言えるはずもなかった。
言えば、おかしな奴だと思われ、二度とローラ姫に会えないかもしれない。
なんとかローラ姫に真実を告げることはできないのだろうか。今日、話せないにしても、今後も彼女とつながりを持ち続け、いつかは、いや早いうちに彼女の運命を話すことで、今後の対策を練らなければ。タイムリミットはどんどんと近づいているのだ。
俺は思い切って言った。
「ローラ姫、失礼を承知でお伝えさせてください」
ミナエと同じ目がこちらを向いた。
「何かしら」
「どうしてもお伝えしなければならない大切なことがあるのです。二人で話せる時間を作っていただけませんか?」
今まで黙って座っていた勇者アークが俺を睨みつけながら口を開いた。
「姫と個人的に会いたいなど、無礼千万である。そのような申し出が通らないことは、お前もよく分かっているはずだ」
「はい。しかし、どうしても姫にお伝えしたいことがあるのです」
「しつこいぞ!」
「アーク、そう熱くならないで」
ローラ姫はパッチリとした目を向けてこう言った。
「確かに二人っきりで会うのは難しいかもしれません。私には、常にアークをはじめとした護衛の者がついていますから。ですから、お話があるのでしたら、この場でおっしゃっていただけませんか?」
「それは……」
何かうまく伝えることができる方法はないのだろうか。
「今、ここではお話できません」
考えを巡らせながら、俺は言葉を続けた。
「私は、これでも魔法を使うことができます。そして、私は未来をかなり正確に予測できる能力を持っています」
「なんだと! 未来を正確に予測するだと! デタラメを言うにも程があるぞ!」
「いえ、本当なのです。確か、クリスタルソロス城では、もうすぐ大きな晩餐会があるのではないでしょうか」
「隣国の王子を招いての晩餐会を予定しています」
「その晩餐会には、姫の命を狙う他国の魔道士が紛れ込んでいます。でも安心してください。その魔道士は結局アーク様の活躍により捕らえられてしまうのです」
晩餐会で姫の命を救うシーンは、ゲームの固定イベントで、必ず行われるはずだった。ただ、この出来事により、ますますローラ姫とアークの距離が縮まってしまうのだが。
「この予測が当たるかどうか、ご確認頂けませんか。そしてもし、私の未来予測が信頼できるものと思って頂けましたら、是非とも姫と二人で話す機会を設けてほしいのです。どうしても姫にお伝えしなければならないことがありますので」
「姫の命が狙われるだと! もし、姫を心配させたいがための作り話だったとすれば、ただ事ではすまぬぞ!」
「決して作り話ではございません。アーク様も当日は招待客や従事の者に目を光らせておいてください」
そうなのだ。ゲームではここで姫が亡くなるパターンもあるのだ。そして、命を狙う魔道士は、ゲームをするたびに毎回違う人物に成り代わるので、この場で誰だと告げることはできない。姫を救うには、アークの活躍が必須なのだ。
「わかりました」
ローラ姫は唇を噛みしめた。
「ゴブマールさん、あなたがそこまで言うのでしたら、次の晩餐会でそのようなことが起こるのかどうか注意しておきましょう。もしお話通りのことが起こったなら、もう少し、あなたのお話を聞いてみようかと思います」
「ありがとうございます」
ハッピーロードの固定イベントが、実際に行われるかどうか心配ではあったが、姫に俺の話を信用して聞いてもらうにはこうするより仕方がなかった。
話を終えると、ローラ姫は、店を借り切ってしまった分だと言い、20万ガロ支払って帰っていった。実際の料理代は二人で2千ガロだったので、その百倍の金額だった。
あとは、順調に晩餐会のゲームイベントが行われ、勇者アークが無事にローラ姫を救ってくれるよう祈るばかりであった。
※ ※ ※
ローラ姫が店を出ていった後、エルフィンは大変なことになってしまった。
今まで、まったく入らなかったお客が、文字通り殺到してきたのだ。
テーブルはすぐに満杯となり、相席でも構わないと言いながらお客が入り続ける。
お客たちは皆「ローラ姫が食べたものと同じものを」と注文してきた。
俺は、厨房の中を走り回りながら、スパゲッティーを作り始めた。料理専門学校時代、いつか自分の料理でお客を喜ばすことができたらと夢見ていたが、まさに今、それが現実のものとなっている。
「うん、美味い!」
「確かに、ローラ姫が食べに来るだけのことはあるわ」
「オレンジ色だなんて、変わった色だけど、最高だわ!」
「おい、おかわりはあるのかい? 俺みたいな大男なら二人前は楽勝だぞ」
どんどんと注文が入り、いつもの十倍仕込んでいた材料もあっという間に無くなった。この分だと、夕食時までに、また新たに仕込みをする必要がありそうだ。
嬉しい悲鳴だった。
アデレードさんも、表情を輝かせながら、お客の間を動き回っていた。
ミルは大きな目をますます丸くしながら、店から見える長蛇の列を眺めていた。
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