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第8章
第2話(2)
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「ついでに言うなら、俺はおまえだけが我慢して、自己犠牲を払うような関係も望まない。おまえに自分を押し殺すような生きかたはしてほしくないと思ってる。だから、こういう他愛ないやりとりの中で、俺が度を超した悪ふざけをしたり間違った言動をとったと思ったら、おまえは遠慮なく怒っていいし批難していい。そうやって、少しずつ自己主張することを身につけていけ」
シリルをじっと見返していた美貌のヒューマノイドは、やがて口許にやわらかな笑みを浮かべた。
「私は少しも、我慢などしていません」
表情とおなじくやわらかな声音でありながら、それでもきっぱりとした口調だった。
「あなたがいつも、私の意思や気持ちを尊重して大切にしてくださるからです。あなたの言動の裏には、いつでもなにかしらの意図がある。私を思いやってくださっているその気持ちに対して、本気で怒ったりすることなど私にはできません」
「なんだつまらねえな」
シリルは楽しげに笑った。
「せっかくおまえと、ガキみたいなくだらない喧嘩ができると思ったのにな。おまえは聡すぎるし、物わかりがよすぎる。こっちがわざと煽ってるんだから、おまえのほうでムキになって噛みついてきてくれないと、俺の独り相撲で終わって尻すぼみになるだろうが」
「必要もないことで、無益な衝突をしなくてもいいでしょう。それに私は、もう充分すぎるほどあなたという人を知っています。いまさら無理に本音をさらけ出して、ぶつかり合うようなやりかたをしなくても大丈夫です」
「そうか? おまえがまだ知らない、意外な一面がいろいろあるかもしれないぞ?」
「そうであるなら、その一面をあらたに知る機会があるのだと思って、これからの楽しみにしておきます」
「そうだな。じゃあ、そういうことにしておくか」
低く喉を鳴らしたシリルに、リュークもまた笑みを深くした。だが、
「ところでこのあとの行き先だが、もう一箇所、訪ねようと思ってる場所がある」
会話の延長上にさりげなく言われて、クリスタル・ブルーの双眸に疑問の色が浮かんだ。
「このまま、王都に戻るのではなかったのですか?」
「それは予定どおりで間違いない。いま向かっているのはエリュシオンで、その中におまえを連れて訪れたい場所がある。そういう意味だ」
「私を連れて?」
不思議そうに尋ねる美貌のヒューマノイドに向かってシリルは頷いた。
「ユリウス・グライナーの生家。そこで、ユリウスの実母がおまえを待ってる」
シリルの言葉に、リュークは瞠目した。
シリルをじっと見返していた美貌のヒューマノイドは、やがて口許にやわらかな笑みを浮かべた。
「私は少しも、我慢などしていません」
表情とおなじくやわらかな声音でありながら、それでもきっぱりとした口調だった。
「あなたがいつも、私の意思や気持ちを尊重して大切にしてくださるからです。あなたの言動の裏には、いつでもなにかしらの意図がある。私を思いやってくださっているその気持ちに対して、本気で怒ったりすることなど私にはできません」
「なんだつまらねえな」
シリルは楽しげに笑った。
「せっかくおまえと、ガキみたいなくだらない喧嘩ができると思ったのにな。おまえは聡すぎるし、物わかりがよすぎる。こっちがわざと煽ってるんだから、おまえのほうでムキになって噛みついてきてくれないと、俺の独り相撲で終わって尻すぼみになるだろうが」
「必要もないことで、無益な衝突をしなくてもいいでしょう。それに私は、もう充分すぎるほどあなたという人を知っています。いまさら無理に本音をさらけ出して、ぶつかり合うようなやりかたをしなくても大丈夫です」
「そうか? おまえがまだ知らない、意外な一面がいろいろあるかもしれないぞ?」
「そうであるなら、その一面をあらたに知る機会があるのだと思って、これからの楽しみにしておきます」
「そうだな。じゃあ、そういうことにしておくか」
低く喉を鳴らしたシリルに、リュークもまた笑みを深くした。だが、
「ところでこのあとの行き先だが、もう一箇所、訪ねようと思ってる場所がある」
会話の延長上にさりげなく言われて、クリスタル・ブルーの双眸に疑問の色が浮かんだ。
「このまま、王都に戻るのではなかったのですか?」
「それは予定どおりで間違いない。いま向かっているのはエリュシオンで、その中におまえを連れて訪れたい場所がある。そういう意味だ」
「私を連れて?」
不思議そうに尋ねる美貌のヒューマノイドに向かってシリルは頷いた。
「ユリウス・グライナーの生家。そこで、ユリウスの実母がおまえを待ってる」
シリルの言葉に、リュークは瞠目した。
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