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第8章
第2話(1)
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フェレーザの街が遠ざかっていく。
コロニーのゲートを抜け、イーグルワンが機体をトランスフォームさせて離陸すると、眼下にひろがる眺望はみるみる小さくなっていった。
「気持ちのいい連中ばっかりで、いい思い出ができたな」
傍らから声をかけられて、リュークは頷いた。
「とても楽しかったです」
「そうだな。また来よう」
応えたシリルは、直後に小さく肩を揺らす。途端にリュークは、頬を膨らませた。
「もう! いつまで笑ってるんですか」
不満げに文句を言う美貌のヒューマノイドに、シリルはすぐさま謝罪の言葉を口にした。だが、その口許にはいまだ、笑いが刻まれていた。
「悪い。けど、おまえも随分成長したもんだと思ってな」
「成長? あれのどこを見て、そんな評価になるんです?」
「充分成長してるだろう? 公衆の面前で、セックスの相手はできないから、催したときは自分で処理しろとかなんとか、取り澄ました顔で平然と口にしてたころとはえらい違いだ」
「あ……っ」
言った途端に、色白の頬がまたしても羞恥に染まった。
「あれはっ、あのときはまだ、そういったことに関する諸々のことが、きっ、きちんとわかっていなかったんですっ」
「ほらな。そうやってリアクションできる程度には、おまえもいろいろわかってきたってことだろ? なら充分、成長できてるってことなんじゃないか?」
「か、からかわないでください! 人が悪いです。それに、そんなふうに昔のことをたびたび持ち出すのはやめてください」
「わかったわかった、ほんとに悪かった。以後気をつける」
シリルは早々に白旗を揚げた。
「けど、このあいだも言ったとおり、ただからかっておもしろがってるわけじゃないからな? 昔のことをいちいち引き合いに出すのも、それだけおまえが大きく変化した証拠で、俺はそれを、喜ばしいことだと心から思ってる。それでつい、その変化の度合いを再確認したくなる」
「シリル……」
「ま、そうは言っても、おまえにしてみりゃ愉快なわけねえよな。おまえが嫌な気分になるのは俺も本意じゃない。だから本当に気をつける。少し調子に乗りすぎた。悪かったな」
真摯な謝罪を受けて、リュークは目線を落とした。
「……すみません」
「なんでおまえまで謝るんだよ」
シリルは声をたてずに笑った。その横顔を、見事な輝きを放つブルー・アイが見やった。
「不愉快に思ったとか嫌な気分になったとか、そういうことではないんです。ただ、あのころの自分を思い出すと、とても気恥ずかしくていたたまれなくて」
「わかってるよ」
シリルは鷹揚に応えた。
「それが変化であり、成長の証ってやつだ。わかっていてちょっかいをかけた俺に、おまえが申し訳なく思う必要はない。というより、これもコミュニケーションの一種なんだから、へんに遠慮なんかしないで、もっと言いたい放題、不満をぶちまけてもいいんだぞ?」
「不満だなんて、そんな……」
「喧嘩するほど仲がいい、ってな」
「え?」
「相手を思いやるのも大事だが、おまえは俺に対して気を遣いすぎる。それじゃいつまで経っても他人行儀のままだろ。その先の関係に進むつもりがあるなら、本音でぶつかってこい」
「その先って」
「嫌なことは嫌。相手が間違ってると思ったら遠慮なくそれを指摘する。ときには意見がぶつかり合って衝突することもあるだろう。人間関係ってのは、そういう繰り返しの中で互いに対する理解も深まっていくものだ。そういうやりとりや刺激を通じて、自分自身も成長していく。俺はおまえに、そういうことを望んでる」
シリルはそう言って傍らを見やった。
コロニーのゲートを抜け、イーグルワンが機体をトランスフォームさせて離陸すると、眼下にひろがる眺望はみるみる小さくなっていった。
「気持ちのいい連中ばっかりで、いい思い出ができたな」
傍らから声をかけられて、リュークは頷いた。
「とても楽しかったです」
「そうだな。また来よう」
応えたシリルは、直後に小さく肩を揺らす。途端にリュークは、頬を膨らませた。
「もう! いつまで笑ってるんですか」
不満げに文句を言う美貌のヒューマノイドに、シリルはすぐさま謝罪の言葉を口にした。だが、その口許にはいまだ、笑いが刻まれていた。
「悪い。けど、おまえも随分成長したもんだと思ってな」
「成長? あれのどこを見て、そんな評価になるんです?」
「充分成長してるだろう? 公衆の面前で、セックスの相手はできないから、催したときは自分で処理しろとかなんとか、取り澄ました顔で平然と口にしてたころとはえらい違いだ」
「あ……っ」
言った途端に、色白の頬がまたしても羞恥に染まった。
「あれはっ、あのときはまだ、そういったことに関する諸々のことが、きっ、きちんとわかっていなかったんですっ」
「ほらな。そうやってリアクションできる程度には、おまえもいろいろわかってきたってことだろ? なら充分、成長できてるってことなんじゃないか?」
「か、からかわないでください! 人が悪いです。それに、そんなふうに昔のことをたびたび持ち出すのはやめてください」
「わかったわかった、ほんとに悪かった。以後気をつける」
シリルは早々に白旗を揚げた。
「けど、このあいだも言ったとおり、ただからかっておもしろがってるわけじゃないからな? 昔のことをいちいち引き合いに出すのも、それだけおまえが大きく変化した証拠で、俺はそれを、喜ばしいことだと心から思ってる。それでつい、その変化の度合いを再確認したくなる」
「シリル……」
「ま、そうは言っても、おまえにしてみりゃ愉快なわけねえよな。おまえが嫌な気分になるのは俺も本意じゃない。だから本当に気をつける。少し調子に乗りすぎた。悪かったな」
真摯な謝罪を受けて、リュークは目線を落とした。
「……すみません」
「なんでおまえまで謝るんだよ」
シリルは声をたてずに笑った。その横顔を、見事な輝きを放つブルー・アイが見やった。
「不愉快に思ったとか嫌な気分になったとか、そういうことではないんです。ただ、あのころの自分を思い出すと、とても気恥ずかしくていたたまれなくて」
「わかってるよ」
シリルは鷹揚に応えた。
「それが変化であり、成長の証ってやつだ。わかっていてちょっかいをかけた俺に、おまえが申し訳なく思う必要はない。というより、これもコミュニケーションの一種なんだから、へんに遠慮なんかしないで、もっと言いたい放題、不満をぶちまけてもいいんだぞ?」
「不満だなんて、そんな……」
「喧嘩するほど仲がいい、ってな」
「え?」
「相手を思いやるのも大事だが、おまえは俺に対して気を遣いすぎる。それじゃいつまで経っても他人行儀のままだろ。その先の関係に進むつもりがあるなら、本音でぶつかってこい」
「その先って」
「嫌なことは嫌。相手が間違ってると思ったら遠慮なくそれを指摘する。ときには意見がぶつかり合って衝突することもあるだろう。人間関係ってのは、そういう繰り返しの中で互いに対する理解も深まっていくものだ。そういうやりとりや刺激を通じて、自分自身も成長していく。俺はおまえに、そういうことを望んでる」
シリルはそう言って傍らを見やった。
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