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第8章
第1話(2)
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「ローザさん、本当にありがとうございました。パン作り、とても楽しかったです。それからほかにも、たくさん料理も教えていただいて。王都に戻っても、忘れないように自分で作ってみます」
「リュークちゃん、またいらっしゃいね。ほかのレシピも、いくらでも教えてあげるから」
「はい」
「それからもっといっぱい食べて、太らないとダメよ? こんなにガリガリじゃ、いつ倒れるんじゃないかと気が気じゃないもの」
「大丈夫です。これでも丈夫なほうですから」
リュークの言葉に、ローザはダメダメと首を振った。
「若い人はみんな、スタイルを気にして痩せたがるけど、それだけじゃダメ。しっかり栄養をつけて、将来に備えないとね。どんなに国王様と仲がよくても、これじゃ立派な赤ちゃんが産めないでしょうよ。ポッキリ折れそうな細さなんだもの」
言った途端に、全員の視線がいっせいにローザに集中した。
「……え?」
両手を握りしめられたまま、リュークが大きく目を見開く。直後にその顔が、首筋まで真っ赤に染まっていった。
傍らでそのやりとりを聞いていたマティアスが、両目を掌で覆って天を振り仰いだ。
「母ちゃん、勘弁してくれよ。いまごろなに言ってんだよ! 嬢ちゃんに赤ん坊が産めるわけねえだろがっ」
「おや、なんでだい?」
「なんでもなにもねえよ。嬢ちゃんは男だって、いっちばんはじめに、オレ言ったじゃねえか!」
ポカンと大きな口を開けたローザは、固まったまま何度か瞬きをする。それから、いまさらながらのように「ああ~っ!」と声を張り上げた。
「いやだよ、あたしってば! そうだったそうだった、たしかにそう聞いてたんだった。だけどあんた、実際に登場してみたら、こんな腰が抜けるような美人さんなんだもの。その瞬間にコロ~ッと忘れちゃってたわよ!」
「母ちゃん……」
マティアスは頭を抱えた。
「それにねえ、国王様とだって随分いい雰囲気だったし、あたしゃて~っきり、ふたりはそういう関係なもんだとばっかり」
言えば言うほどリュークの顔は赤くなっていく。
「っていうか、ジム、あんたもリュークちゃんのこと、だいぶ箱入りのお嬢さんみたいに扱ってたけど、ちゃんとわかってたかい?」
「あたりまえだ。マティアスのやつがはじめに言っとっただろうが。そのぐらい、ちゃんとおぼえとる」
「ええ~、いやだよお、それじゃもしかして、あたしだけず~っと勘違いしてたってことかね? あらまあ、なんてことだろね。国王様が随分大事になさって、殊更可愛がってらっしゃるようだったから、あたしゃてっきり」
俯いてなにも言えなくなってしまったリュークの横で、シリルがクックッと笑った。
「まあ、大事にしてることは間違いないが、そういう意味で可愛がったことは一度もないな。俺たちの関係はどこまでも健全なんだが、そう見えなかったか?」
「シリルッ!」
恥ずかしさのあまり、いたたまれなくなったリュークがシリルの腕を軽く叩く。シリルは笑いながらその頭に手を置くと、黄金の髪を掻きまわした。
ローザのおかげで、別れのしんみりとした空気がきれいに吹き飛んでいた。
あらためて全員に挨拶をしたシリルとリュークは、再会を約束して全員に笑顔で見送られながら、長らく滞在した牧場をあとにした。
「リュークちゃん、またいらっしゃいね。ほかのレシピも、いくらでも教えてあげるから」
「はい」
「それからもっといっぱい食べて、太らないとダメよ? こんなにガリガリじゃ、いつ倒れるんじゃないかと気が気じゃないもの」
「大丈夫です。これでも丈夫なほうですから」
リュークの言葉に、ローザはダメダメと首を振った。
「若い人はみんな、スタイルを気にして痩せたがるけど、それだけじゃダメ。しっかり栄養をつけて、将来に備えないとね。どんなに国王様と仲がよくても、これじゃ立派な赤ちゃんが産めないでしょうよ。ポッキリ折れそうな細さなんだもの」
言った途端に、全員の視線がいっせいにローザに集中した。
「……え?」
両手を握りしめられたまま、リュークが大きく目を見開く。直後にその顔が、首筋まで真っ赤に染まっていった。
傍らでそのやりとりを聞いていたマティアスが、両目を掌で覆って天を振り仰いだ。
「母ちゃん、勘弁してくれよ。いまごろなに言ってんだよ! 嬢ちゃんに赤ん坊が産めるわけねえだろがっ」
「おや、なんでだい?」
「なんでもなにもねえよ。嬢ちゃんは男だって、いっちばんはじめに、オレ言ったじゃねえか!」
ポカンと大きな口を開けたローザは、固まったまま何度か瞬きをする。それから、いまさらながらのように「ああ~っ!」と声を張り上げた。
「いやだよ、あたしってば! そうだったそうだった、たしかにそう聞いてたんだった。だけどあんた、実際に登場してみたら、こんな腰が抜けるような美人さんなんだもの。その瞬間にコロ~ッと忘れちゃってたわよ!」
「母ちゃん……」
マティアスは頭を抱えた。
「それにねえ、国王様とだって随分いい雰囲気だったし、あたしゃて~っきり、ふたりはそういう関係なもんだとばっかり」
言えば言うほどリュークの顔は赤くなっていく。
「っていうか、ジム、あんたもリュークちゃんのこと、だいぶ箱入りのお嬢さんみたいに扱ってたけど、ちゃんとわかってたかい?」
「あたりまえだ。マティアスのやつがはじめに言っとっただろうが。そのぐらい、ちゃんとおぼえとる」
「ええ~、いやだよお、それじゃもしかして、あたしだけず~っと勘違いしてたってことかね? あらまあ、なんてことだろね。国王様が随分大事になさって、殊更可愛がってらっしゃるようだったから、あたしゃてっきり」
俯いてなにも言えなくなってしまったリュークの横で、シリルがクックッと笑った。
「まあ、大事にしてることは間違いないが、そういう意味で可愛がったことは一度もないな。俺たちの関係はどこまでも健全なんだが、そう見えなかったか?」
「シリルッ!」
恥ずかしさのあまり、いたたまれなくなったリュークがシリルの腕を軽く叩く。シリルは笑いながらその頭に手を置くと、黄金の髪を掻きまわした。
ローザのおかげで、別れのしんみりとした空気がきれいに吹き飛んでいた。
あらためて全員に挨拶をしたシリルとリュークは、再会を約束して全員に笑顔で見送られながら、長らく滞在した牧場をあとにした。
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