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第6章
第2話(5)
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「ただし、俺からもひとつ、条件がある。条件、というか、むしろ要望だな」
「要望、ですか?」
「おまえいま、研究所の職員宿舎に居住してるんだろ?」
「そうですが……」
意味もわからず、リュークは頷いた。
「研究所に戻るなら、今後もそこに住所を置くほうが、なにかと都合がいいだろう。だがもうひとつ、別宅としてマルガリータ宮にもおまえの部屋を用意しておく。だから休日になったら、いつでも戻ってこい」
リュークは咄嗟に、返す言葉を失った。
おなじラインに並ぶことは到底かなわなくとも、ひとりの人間として少しでも自立し、追いつけるようになりたい。そう願っていた。ユリウス・グライナーがイアン・アルフレッド国王に忠誠を捧げ、窮状から救い出すべく死力を尽くしたように、自分もまたシリルに万一のことがあった場合、力になれる存在でありたかった。それなのにいつも、自分ばかりが手を差し伸べられる側にいる……。
「なんだ? 嫌か?」
「あ、いえ、そんなことは……。でも、私などが気軽に出入りできるような場所ではありませんし、王宮の方々にもご迷惑がかかるのではないかと……」
「俺の存在そのものがすでに迷惑だからな。おまえみたいに行儀のいいのが出入りすれば、逆に歓迎される」
それに、とシリルは付け加えた。
「俺がおまえのところに出向いてもかまわないが、それはそれで周囲に迷惑がかかるだろう?」
俺が動くと、なにかと大ごとになるからな、とシリルは肩を竦める。
思いがけない言葉に、リュークはクリスタル・ブルーの双眸を瞬かせた。
「え? あの、それは……」
「休暇が終わってそれぞれの立場に戻ったら、それで終わり。俺たちの関係は、そんな簡単なものじゃない。だろ? おまえが自分の望む人生を歩めるように応援する。そうは言ったが、だからといって俺は、おまえを手放すつもりはない」
「シリル……」
「おまえは俺の大事な『鍵』で、俺のことを名前で呼んでくれる人間は、もうこの世界には、おまえしかいない」
そんな唯一の相手が、もう独り立ちしたので自力で生きていきますって巣立っていったら、寂しいだろ?
冗談まじりに言われた途端、リュークはくしゃりと顔を歪めた。
自分にとって唯一の存在は、いつでも心から望むものを、あたりまえのように与えてくれる。そう思ったら、溢れる感情を抑えることができなかった。
苦笑したシリルが、みずからのベッドを離れてしがみついてきた美貌のヒューマノイドを受け止める。その躰を抱き返しながら、やわらかな黄金の髪を愛おしむように撫でた。
「ほら、明日はチーズ作りを教えてもらうんだろ? 朝が早いんだから、そろそろ寝ないとな」
言いながらも、背中をあやすように軽く叩く。シリルの肩口に顔をうずめたまま、リュークは鼻声で「はい」と答えた。
「要望、ですか?」
「おまえいま、研究所の職員宿舎に居住してるんだろ?」
「そうですが……」
意味もわからず、リュークは頷いた。
「研究所に戻るなら、今後もそこに住所を置くほうが、なにかと都合がいいだろう。だがもうひとつ、別宅としてマルガリータ宮にもおまえの部屋を用意しておく。だから休日になったら、いつでも戻ってこい」
リュークは咄嗟に、返す言葉を失った。
おなじラインに並ぶことは到底かなわなくとも、ひとりの人間として少しでも自立し、追いつけるようになりたい。そう願っていた。ユリウス・グライナーがイアン・アルフレッド国王に忠誠を捧げ、窮状から救い出すべく死力を尽くしたように、自分もまたシリルに万一のことがあった場合、力になれる存在でありたかった。それなのにいつも、自分ばかりが手を差し伸べられる側にいる……。
「なんだ? 嫌か?」
「あ、いえ、そんなことは……。でも、私などが気軽に出入りできるような場所ではありませんし、王宮の方々にもご迷惑がかかるのではないかと……」
「俺の存在そのものがすでに迷惑だからな。おまえみたいに行儀のいいのが出入りすれば、逆に歓迎される」
それに、とシリルは付け加えた。
「俺がおまえのところに出向いてもかまわないが、それはそれで周囲に迷惑がかかるだろう?」
俺が動くと、なにかと大ごとになるからな、とシリルは肩を竦める。
思いがけない言葉に、リュークはクリスタル・ブルーの双眸を瞬かせた。
「え? あの、それは……」
「休暇が終わってそれぞれの立場に戻ったら、それで終わり。俺たちの関係は、そんな簡単なものじゃない。だろ? おまえが自分の望む人生を歩めるように応援する。そうは言ったが、だからといって俺は、おまえを手放すつもりはない」
「シリル……」
「おまえは俺の大事な『鍵』で、俺のことを名前で呼んでくれる人間は、もうこの世界には、おまえしかいない」
そんな唯一の相手が、もう独り立ちしたので自力で生きていきますって巣立っていったら、寂しいだろ?
冗談まじりに言われた途端、リュークはくしゃりと顔を歪めた。
自分にとって唯一の存在は、いつでも心から望むものを、あたりまえのように与えてくれる。そう思ったら、溢れる感情を抑えることができなかった。
苦笑したシリルが、みずからのベッドを離れてしがみついてきた美貌のヒューマノイドを受け止める。その躰を抱き返しながら、やわらかな黄金の髪を愛おしむように撫でた。
「ほら、明日はチーズ作りを教えてもらうんだろ? 朝が早いんだから、そろそろ寝ないとな」
言いながらも、背中をあやすように軽く叩く。シリルの肩口に顔をうずめたまま、リュークは鼻声で「はい」と答えた。
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