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第4章
第2話(3)
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「王都で繰り広げられたドッグファイトもですが、イーグルの腹に小型機載せてゲートをくぐる映像、何遍観ても鳥肌が立ちますぜ」
「もうどんだけニュースで取り上げられて、何百回観たことか」
「マティアスのヤロウがテメエの空陸両用機を操ったときの陛下の腕前を、自慢するのも正直わかるんですわ。素直に感心するのも癪に障るんで、大抵混ぜっ返しちまうんですけどね。けど、ほんとはその場にいて同乗できたマットの奴が羨ましいっつうか」
「オレらもいっぱしの運び屋として稼いでる身なんで、それなりに自前の機体を飛ばすこたぁできるんですが、あんなのは逆立ちしたって真似できませんや」
「どこかで、特別な訓練でも受けられたんで?」
興味津々といった態で訊かれて、シリルはかぶりを振った。
「いや、とくになにかをしたおぼえはないな。傭兵稼業と並行してこなすうちに、自然に場数を踏んでたせいじゃないか?」
「いやいや、場数踏んでたって、あんなんやれるもんじゃねえですや」
「やっぱ天与の才ってやつなんですかねえ」
「くそうっ、マティアスのヤロウが羨ましいぜ。オレがかわりたかった!」
「テメエだけお嬢ちゃんとも、こんな親密になっちまいやがってよおっ。ぬけがけにもほどがあるってんだっ!」
たちまち鉾先がマティアスに向かって方々から罵詈雑言が浴びせられる。夜盗崩れといった風体の巨漢は、もともと人相の悪い顔を、さらに得意げに歪ませた。
「悪ィな、オメエら。全部オレの人徳ってやつよ」
「なにが人徳だ、このヤロウ! おまえに徳があんなら、オレらなんかみんな、聖人君子だってんだっ」
気の置けない仲間同士でじゃれ合う男たちを眺めながら、ふと傍らを見やったシリルは途端に目を剥いた。
「あ、おいっ! こらっ、リューク!」
気がつくとリュークは、いましがたシリルから取り上げたグラスを手に持っていた。それを、躊躇なく口に運んで飲み干してしまう。直後に、派手に噎せこんだ。
「バカ、おまえ、なにやってるっ。こんな強い酒、いきなり飲む奴があるか」
「でもシリルが、とても美味しそうに飲んでいたから」
涙目で咳きこむリュークの背中を、シリルはさすった。
「おまえにはまだ早い。無理に決まってんだろ」
「全然美味しくありませんでした。口の中がビリビリしてます。喉も」
両手で押さえて懸命に訴える。
「子供味覚のおまえには、刺激が強すぎるってんだよ。酒の飲みかたも知らないくせに、無謀にもほどがあんだろ」
「子供じゃありません。私はもう、ちゃんと成人してます」
「はいはい、そうだな。見た目だけは立派な大人だな」
「とっても綺麗な琥珀色で、シリルは美味しそうに飲んでました。飲んでたのに……」
「わかったわかった、俺が悪かった。ってかリューク、おまえ、完璧酔っぱらってんだろ」
「酔ってませんっ。ふわふわしてるだけです」
「あ~、なるほど。ふわふわね。気持ち悪くないか?」
「悪くないです。ふわふわしてます。さっきよりもっといっぱいふわふわで、すごく気分がいいです。でもなんか、ボーッとしてクラクラします。クラクラして、ふわふわして……――ん……、あっつい…………」
言いながら、両手で服の裾を捲り上げる。シリルはその手を押さえた。
「待て待て待て、なに脱ごうとしてんだ、おまえは」
「暑いから脱ぎます」
「暑いのはアルコールのせいだ。ここでは我慢しろ」
「……我慢?」
「そうだ。人目のある場所で脱ぐんじゃない」
「人まえで脱いだらダメなんですか?」
「ダメだ。ほかの客の目もあるだろ」
「でも、シリルのまえでは何度も脱ぎました。いっぱいいっぱい脱ぎました。シリルが脱げって言ったから」
子供じみた口調でムキになって答える。シリルはわかったわかったとなだめた。
「もうどんだけニュースで取り上げられて、何百回観たことか」
「マティアスのヤロウがテメエの空陸両用機を操ったときの陛下の腕前を、自慢するのも正直わかるんですわ。素直に感心するのも癪に障るんで、大抵混ぜっ返しちまうんですけどね。けど、ほんとはその場にいて同乗できたマットの奴が羨ましいっつうか」
「オレらもいっぱしの運び屋として稼いでる身なんで、それなりに自前の機体を飛ばすこたぁできるんですが、あんなのは逆立ちしたって真似できませんや」
「どこかで、特別な訓練でも受けられたんで?」
興味津々といった態で訊かれて、シリルはかぶりを振った。
「いや、とくになにかをしたおぼえはないな。傭兵稼業と並行してこなすうちに、自然に場数を踏んでたせいじゃないか?」
「いやいや、場数踏んでたって、あんなんやれるもんじゃねえですや」
「やっぱ天与の才ってやつなんですかねえ」
「くそうっ、マティアスのヤロウが羨ましいぜ。オレがかわりたかった!」
「テメエだけお嬢ちゃんとも、こんな親密になっちまいやがってよおっ。ぬけがけにもほどがあるってんだっ!」
たちまち鉾先がマティアスに向かって方々から罵詈雑言が浴びせられる。夜盗崩れといった風体の巨漢は、もともと人相の悪い顔を、さらに得意げに歪ませた。
「悪ィな、オメエら。全部オレの人徳ってやつよ」
「なにが人徳だ、このヤロウ! おまえに徳があんなら、オレらなんかみんな、聖人君子だってんだっ」
気の置けない仲間同士でじゃれ合う男たちを眺めながら、ふと傍らを見やったシリルは途端に目を剥いた。
「あ、おいっ! こらっ、リューク!」
気がつくとリュークは、いましがたシリルから取り上げたグラスを手に持っていた。それを、躊躇なく口に運んで飲み干してしまう。直後に、派手に噎せこんだ。
「バカ、おまえ、なにやってるっ。こんな強い酒、いきなり飲む奴があるか」
「でもシリルが、とても美味しそうに飲んでいたから」
涙目で咳きこむリュークの背中を、シリルはさすった。
「おまえにはまだ早い。無理に決まってんだろ」
「全然美味しくありませんでした。口の中がビリビリしてます。喉も」
両手で押さえて懸命に訴える。
「子供味覚のおまえには、刺激が強すぎるってんだよ。酒の飲みかたも知らないくせに、無謀にもほどがあんだろ」
「子供じゃありません。私はもう、ちゃんと成人してます」
「はいはい、そうだな。見た目だけは立派な大人だな」
「とっても綺麗な琥珀色で、シリルは美味しそうに飲んでました。飲んでたのに……」
「わかったわかった、俺が悪かった。ってかリューク、おまえ、完璧酔っぱらってんだろ」
「酔ってませんっ。ふわふわしてるだけです」
「あ~、なるほど。ふわふわね。気持ち悪くないか?」
「悪くないです。ふわふわしてます。さっきよりもっといっぱいふわふわで、すごく気分がいいです。でもなんか、ボーッとしてクラクラします。クラクラして、ふわふわして……――ん……、あっつい…………」
言いながら、両手で服の裾を捲り上げる。シリルはその手を押さえた。
「待て待て待て、なに脱ごうとしてんだ、おまえは」
「暑いから脱ぎます」
「暑いのはアルコールのせいだ。ここでは我慢しろ」
「……我慢?」
「そうだ。人目のある場所で脱ぐんじゃない」
「人まえで脱いだらダメなんですか?」
「ダメだ。ほかの客の目もあるだろ」
「でも、シリルのまえでは何度も脱ぎました。いっぱいいっぱい脱ぎました。シリルが脱げって言ったから」
子供じみた口調でムキになって答える。シリルはわかったわかったとなだめた。
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