14 / 61
第3章
第1話(1)
しおりを挟む
娯楽都市バベル・リゾートを出立したのは、それから4日後のことだった。
滞在期間は、およそ5日。動物園や水族館、公演中のいくつかの舞台や映画を観て、ついでに美術館、博物館などもめぐってみた。いずれもリュークが興味や関心を示したものばかりで、アミューズメント施設の乗り物などには、観覧車を除いて見向きもしなかったのがシリルにはおもしろく感じられた。
都市の規模を考えると、実際に足を運んだのは敷地全体のさまざまな施設のうち、3割にも満たない程度である。それでもリュークが充分満足したところを頃合いとみて、シリルは河岸を変えることにした。
「どこに向かっているのですか?」
頭の中ですでに次の目標地点をさだめているらしいシリルに、リュークは尋ねた。愛機の操縦桿を握るシリルは、そんなリュークをチラリと見やって口の端を軽く上げた。
「懐かしい奴がいるところ、だ。会うのは俺も、5年ぶりになる」
「懐かしい方、ですか?」
リュークは見当もつかず、首をかしげる。それから2時間後、イーグルワンが到着したのは大陸の南東部に位置する軍事都市、ミスリルだった。
「ここは……」
「憶えてるか? 街中の市場で、はじめて買い物をしたな?」
「はい。とても大きくて、たくさんの人や商品で溢れている、活気のある場所でした」
答えてから、リュークはなにかに思い至ったようにわずかに表情を変えた。
「ひょっとして、これから訪ねるのは、あのリングを作ったお店の方ですか?」
「いや、違う」
シリルはすぐさま否定した。
「あいつは良くも悪くも、裏社会でのみ、その存在が認められてる人間だからな。いまの俺の立場で、堂々と訪ねていくわけにはいかない。おまえのIDを作るにしても、今度は正規のものでないとな」
「私のIDなら、もうあります」
「ああ、そういやそうだった」
遠慮がちに入った訂正に、シリルは思い出したように頷いた。
いま現在、リュークは産みの親であるエリザベス・グライナー博士の勤めるシュミット研究所王都支局に籍を置いている。
再覚醒を遂げて以降、5年前の記憶とあらたに再生させた身体とのあいだで生じるさまざまなバグを調整するのに、およそ半年の歳月を要したという。その関係で、当初は研究対象であったリュークも、いまは半分、職員と同等の扱いを受けてグライナー博士――リズの助手的立場におさまっているとのことだった。
リューク専用のIDは、必要に応じてリズが用意させたものだろう。
滞在期間は、およそ5日。動物園や水族館、公演中のいくつかの舞台や映画を観て、ついでに美術館、博物館などもめぐってみた。いずれもリュークが興味や関心を示したものばかりで、アミューズメント施設の乗り物などには、観覧車を除いて見向きもしなかったのがシリルにはおもしろく感じられた。
都市の規模を考えると、実際に足を運んだのは敷地全体のさまざまな施設のうち、3割にも満たない程度である。それでもリュークが充分満足したところを頃合いとみて、シリルは河岸を変えることにした。
「どこに向かっているのですか?」
頭の中ですでに次の目標地点をさだめているらしいシリルに、リュークは尋ねた。愛機の操縦桿を握るシリルは、そんなリュークをチラリと見やって口の端を軽く上げた。
「懐かしい奴がいるところ、だ。会うのは俺も、5年ぶりになる」
「懐かしい方、ですか?」
リュークは見当もつかず、首をかしげる。それから2時間後、イーグルワンが到着したのは大陸の南東部に位置する軍事都市、ミスリルだった。
「ここは……」
「憶えてるか? 街中の市場で、はじめて買い物をしたな?」
「はい。とても大きくて、たくさんの人や商品で溢れている、活気のある場所でした」
答えてから、リュークはなにかに思い至ったようにわずかに表情を変えた。
「ひょっとして、これから訪ねるのは、あのリングを作ったお店の方ですか?」
「いや、違う」
シリルはすぐさま否定した。
「あいつは良くも悪くも、裏社会でのみ、その存在が認められてる人間だからな。いまの俺の立場で、堂々と訪ねていくわけにはいかない。おまえのIDを作るにしても、今度は正規のものでないとな」
「私のIDなら、もうあります」
「ああ、そういやそうだった」
遠慮がちに入った訂正に、シリルは思い出したように頷いた。
いま現在、リュークは産みの親であるエリザベス・グライナー博士の勤めるシュミット研究所王都支局に籍を置いている。
再覚醒を遂げて以降、5年前の記憶とあらたに再生させた身体とのあいだで生じるさまざまなバグを調整するのに、およそ半年の歳月を要したという。その関係で、当初は研究対象であったリュークも、いまは半分、職員と同等の扱いを受けてグライナー博士――リズの助手的立場におさまっているとのことだった。
リューク専用のIDは、必要に応じてリズが用意させたものだろう。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
魔術師の妻は夫に会えない
山河 枝
ファンタジー
稀代の天才魔術師ウィルブローズに見初められ、求婚された孤児のニニ。こんな機会はもうないと、二つ返事で承諾した。
式を済ませ、住み慣れた孤児院から彼の屋敷へと移ったものの、夫はまったく姿を見せない。
大切にされていることを感じながらも、会えないことを訝しむニニは、一風変わった使用人たちから夫の行方を聞き出そうとする。
★シリアス:コミカル=2:8
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした
たっこ
BL
【加筆修正済】
7話完結の短編です。
中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。
二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。
「優、迎えに来たぞ」
でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる