蜜月

西崎 仁

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第3章

第1話(1)

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 娯楽都市バベル・リゾートを出立したのは、それから4日後のことだった。
 滞在期間は、およそ5日。動物園や水族館、公演中のいくつかの舞台や映画を観て、ついでに美術館、博物館などもめぐってみた。いずれもリュークが興味や関心を示したものばかりで、アミューズメント施設の乗り物などには、観覧車を除いて見向きもしなかったのがシリルにはおもしろく感じられた。
 都市の規模を考えると、実際に足を運んだのは敷地全体のさまざまな施設のうち、3割にも満たない程度である。それでもリュークが充分満足したところを頃合いとみて、シリルは河岸かしを変えることにした。


「どこに向かっているのですか?」

 頭の中ですでに次の目標地点をさだめているらしいシリルに、リュークは尋ねた。愛機の操縦桿を握るシリルは、そんなリュークをチラリと見やって口のを軽く上げた。

「懐かしい奴がいるところ、だ。会うのは俺も、5年ぶりになる」
「懐かしい方、ですか?」

 リュークは見当もつかず、首をかしげる。それから2時間後、イーグルワンが到着したのは大陸の南東部に位置する軍事都市、ミスリルだった。

「ここは……」
「憶えてるか? 街中の市場で、はじめて買い物をしたな?」
「はい。とても大きくて、たくさんの人や商品で溢れている、活気のある場所でした」

 答えてから、リュークはなにかに思い至ったようにわずかに表情を変えた。

「ひょっとして、これから訪ねるのは、あのリングを作ったお店の方ですか?」
「いや、違う」
 シリルはすぐさま否定した。

「あいつは良くも悪くも、裏社会でのみ、その存在が認められてる人間だからな。いまの俺の立場で、堂々と訪ねていくわけにはいかない。おまえのIDを作るにしても、今度は正規のものでないとな」
「私のIDなら、もうあります」
「ああ、そういやそうだった」

 遠慮がちに入った訂正に、シリルは思い出したように頷いた。
 いま現在、リュークは産みの親であるエリザベス・グライナー博士の勤めるシュミット研究所王都支局に籍を置いている。
 再覚醒を遂げて以降、5年前の記憶とあらたに再生させた身体とのあいだで生じるさまざまなバグを調整するのに、およそ半年の歳月を要したという。その関係で、当初は研究対象であったリュークも、いまは半分、職員と同等の扱いを受けてグライナー博士――リズの助手的立場におさまっているとのことだった。
 リューク専用のIDは、必要に応じてリズが用意させたものだろう。
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