蜜月

西崎 仁

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第2章

第2話(2)

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「……綺麗な方ですね」

 無邪気にウサギと触れ合う姿を眺めていたオクデラの口から、思わずといった具合に呟きが漏れた。それから、ハッと我に返ってあわてて口を噤む。

「し、失礼いたしました!」

 礼節を重んじる親衛隊長は、恐縮したように俯いた。

「おまえは、あいつと顔を合わせるのははじめてだったか?」
「5年前、王室管理局の中央制御室に突入した際、お姿はお見かけしたようにも思います。ただ、あのときは任務遂行のほうが最優先でしたので」
「たしかに、そんな悠長な場合じゃなかったな」

 シリルは懐かしむように呟いた。

「あのころは、こんなふうにウサギと戯れて喜ぶ姿を見る日が来るとは思いもしなかった」
「陛下……」
「偶然とはいえ、おまえたちとここで会えて運がよかった。あいつはあのとおり、見た目は大人として完成してるが、いろんな意味で経験がたりてない。そういった経験値の部分では、おまえの娘にすら及ばないところがある」
「それで、こちらを訪問されたのですか?」
「まあ、そんなところだ。以前にも一度連れてきたことがあったんだが、当時は追われる身だったからな。さほどゆっくりできたわけじゃないし、わざと人混みにまぎれて目くらましをする意図もあった。だが、そのときに観た花火をひどく気に入っていた。だからあらためて、こうして連れてきたんだ」
「ああ、それで先程、花火を観にいらしたと言っておられたのですね」
「いろいろ落ち着いたら、また連れてきてやると約束していたからな。今回は時間的余裕は充分あるんだが、俺はこういったところには馴染みがない。正直、どこでなにをすればいいのかわからなくて、内心途方に暮れていたところだ。おかげで助かった」
「こんなことでも、経験のひとつとして役立てていただけるなら光栄です」
「充分役に立っている。あいつがあんなふうに屈託なく笑っている姿は、俺もはじめて見た」
「まるで父君のようなお言葉ですね」

 オクデラの言葉に、シリルはコーヒーのカップに手を伸ばしつつ大仰に肩を竦めた。

「成人した子供を持つほど老けこんだつもりはないんだがな。こと、あいつに関するかぎり、俺は出会った当初から過保護なくらい世話を焼いてるよ」
「きっと、そんな陛……シリル様の庇護下で守られてきたからこそ、あんなふうに笑うことがおできになるのでしょう」
「だったらいいんだけどな」

 穏やかに言って、シリルはコーヒーを口にした。
 生真面目であるがゆえに不器用な部分を併せ持つリュークが、この先の人生でぶつかる多くの壁や選択肢の中から、自分の望む道を選んでいけるようになればいいと思う。さまざまな経験を積んでいくことで、それらを見極める自分なりの判断基準もできあがっていくだろう。リュークが自分の手を必要とするかぎり、可能な範囲でサポートしてやれればと思っていた。
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