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第2章
第1話(5)
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「イヤ! リュークと一緒に行くの!」
「ダメだ! おふたりの邪魔になるだろう。ちゃんとお礼を言って、ここでお別れしなさい」
「やだ! 一緒がいい。リュークとウサちゃんとこ行く!」
「アイリ!」
困った顔をするリュークの傍らで、親子は押し問答をする。その様子を見て、シリルがクククッと笑った。
「随分気に入られたな」
「あの、どうすれば……」
「へ、陛下、リューク様、申し訳ございません。娘のことはこちらでしっかり言い聞かせますので、おふたりはどうぞこのまま、ご予定どおりにお楽しみください」
父の言葉を聞いて、女児の口がへの字に曲がる。それから、数瞬の空白を置いて幾度か大きく喘ぐと、やがて堰が切れたように泣きはじめた。リュークがギョッとした顔をする。
「ウサギ、というのは、生きている動物のウサギか?」
シリルの問いかけに、切れ者と名高い親衛隊長は、すっかり困り果てた様子で頷いた。
「あ、はい。そうです。この先に、小動物と触れ合えるコーナーがありまして。以前来たときに娘を連れて行ったことがあるんですが、どうやらそれを憶えていたようで」
「俺たちも行ってみるか?」
シリルの言葉に、娘のわきにしゃがみこんでいたオクデラは「えっ!?」と仰天して振り仰いだ。リュークもまた、驚いたように目を瞠る。そんなふたりを見て、シリルは軽い調子で付け加えた。
「俺たちも、とくにこれと言って厳密な予定を組んでるわけじゃない。それにちょうど、動物を見にいくところだったんだ。小動物とじかに触れ合えるなら、かえって好都合なんじゃないか?」
ウサギに触ってみたくはないかと訊かれて、リュークはおずおずと頷いた。
「あの、もし可能なら、ぜひ」
「決まりだな」
あっさり結論づけたシリルに、オクデラはあたふたと立ち上がった。
「いっ、いや、そのっ、よ、よろしいので、しょうか……?」
「俺はべつにかまわない。おまえたちが迷惑でないのなら」
「め、迷惑など、とんでもないっ。むしろこちらのほうがご無理を申し上げることになるのではないかと」
「いまも言ったとおり、むしろ好都合だ。よかったら案内を頼む」
「承知、いたしました……」
茫然としながらも、オクデラは傍らを振り返る。その視線の先で、屈みこんだリュークが優しい微笑を浮かべながら、手にしたハンカチで娘の涙を拭いていた。
「もう泣き止んでください。せっかくの可愛いお顔が台無しですよ? これから会いに行くウサちゃんより真っ赤な目をしていたら、ウサちゃんのほうがビックリしてしまいます」
「ウサちゃん……リュークも見たい?」
「はい。私はまだ、ちゃんとウサギを見たことがないので見てみたいです。一緒に連れて行ってくれますか?」
「うん、いいよ」
言って、ふたりは手を繋いで歩き出す。そのあとに、シリルとオクデラも並んでつづいた。
「リューク、ウサちゃん見たことないの?」
「はい。実際に動いている姿は見たことがありません」
「じゃあ、触ったこともない?」
「ありません。アイリはありますか?」
「あるよ。抱っこもしたことある」
「すごいですね。私も触ってみたいです」
「ふわふわしてあったかくて、すっごく可愛いよ!」
ふたりは、すっかり打ち解けた様子でやりとりしている。ほのぼのとした雰囲気が漂っていた。
「ダメだ! おふたりの邪魔になるだろう。ちゃんとお礼を言って、ここでお別れしなさい」
「やだ! 一緒がいい。リュークとウサちゃんとこ行く!」
「アイリ!」
困った顔をするリュークの傍らで、親子は押し問答をする。その様子を見て、シリルがクククッと笑った。
「随分気に入られたな」
「あの、どうすれば……」
「へ、陛下、リューク様、申し訳ございません。娘のことはこちらでしっかり言い聞かせますので、おふたりはどうぞこのまま、ご予定どおりにお楽しみください」
父の言葉を聞いて、女児の口がへの字に曲がる。それから、数瞬の空白を置いて幾度か大きく喘ぐと、やがて堰が切れたように泣きはじめた。リュークがギョッとした顔をする。
「ウサギ、というのは、生きている動物のウサギか?」
シリルの問いかけに、切れ者と名高い親衛隊長は、すっかり困り果てた様子で頷いた。
「あ、はい。そうです。この先に、小動物と触れ合えるコーナーがありまして。以前来たときに娘を連れて行ったことがあるんですが、どうやらそれを憶えていたようで」
「俺たちも行ってみるか?」
シリルの言葉に、娘のわきにしゃがみこんでいたオクデラは「えっ!?」と仰天して振り仰いだ。リュークもまた、驚いたように目を瞠る。そんなふたりを見て、シリルは軽い調子で付け加えた。
「俺たちも、とくにこれと言って厳密な予定を組んでるわけじゃない。それにちょうど、動物を見にいくところだったんだ。小動物とじかに触れ合えるなら、かえって好都合なんじゃないか?」
ウサギに触ってみたくはないかと訊かれて、リュークはおずおずと頷いた。
「あの、もし可能なら、ぜひ」
「決まりだな」
あっさり結論づけたシリルに、オクデラはあたふたと立ち上がった。
「いっ、いや、そのっ、よ、よろしいので、しょうか……?」
「俺はべつにかまわない。おまえたちが迷惑でないのなら」
「め、迷惑など、とんでもないっ。むしろこちらのほうがご無理を申し上げることになるのではないかと」
「いまも言ったとおり、むしろ好都合だ。よかったら案内を頼む」
「承知、いたしました……」
茫然としながらも、オクデラは傍らを振り返る。その視線の先で、屈みこんだリュークが優しい微笑を浮かべながら、手にしたハンカチで娘の涙を拭いていた。
「もう泣き止んでください。せっかくの可愛いお顔が台無しですよ? これから会いに行くウサちゃんより真っ赤な目をしていたら、ウサちゃんのほうがビックリしてしまいます」
「ウサちゃん……リュークも見たい?」
「はい。私はまだ、ちゃんとウサギを見たことがないので見てみたいです。一緒に連れて行ってくれますか?」
「うん、いいよ」
言って、ふたりは手を繋いで歩き出す。そのあとに、シリルとオクデラも並んでつづいた。
「リューク、ウサちゃん見たことないの?」
「はい。実際に動いている姿は見たことがありません」
「じゃあ、触ったこともない?」
「ありません。アイリはありますか?」
「あるよ。抱っこもしたことある」
「すごいですね。私も触ってみたいです」
「ふわふわしてあったかくて、すっごく可愛いよ!」
ふたりは、すっかり打ち解けた様子でやりとりしている。ほのぼのとした雰囲気が漂っていた。
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