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第2章
第1話(1)
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翌日、ホテルのビュッフェで軽い朝食を済ませたふたりは、予定どおりテーマパーク内をまわるため、屋外に出た。
ひろい敷地内には、さまざまなエリアが設けられ、それぞれの特色にしたがった施設やアトラクションが楽しめるようになっている。リュークの希望は、5年前に一度訪れた場所を再訪することだった。
連れられるまま足を運ぶばかりで、当初はよくわかっていなかったことなどを、あらためて追体験してみたいとのことで、同行するシリルに異存はなく、アミューズメント施設を中心とするエリアに足を向けることとなった。
ミラーハウスにさまざまなショウを開催する劇場、アクアリウム。当然のことながら5年前とは展示内容や演目は変わっていたものの、リュークは概ね満足そうだった。
「今夜はあらためて、観覧車の中から花火鑑賞だな」
声をかけたシリルに、美貌のヒューマノイドは嬉しそうに賛同した。その手には、ジェラートのカップがあった。
「おまえ、結構甘いもの好きだよな」
なんだかんだ言いつつ子供味覚なのだろうかと思っていると、リュークからは意外な答えが返ってきた。
「たぶん、あなたの影響です」
「俺の?」
日頃から甘いものなどほとんど口にしない自分の影響とはどういうことかと面食らう。だが、理由は明白だった。
「追撃を逃れて渓谷の底に潜ったとき、私の緊張を解くために、はちみつ入りのカフェオレを淹れてくださいました。あのときの優しい味が、とても美味しくて」
「ああ、あれか」
思い出して、シリルも得心する。
「そうか、あれがきっかけか。気に入ったなら、またいくらでも淹れてやる」
口許をほころばせたリュークは、手にしていたジェラートをひと匙掬ってシリルに差し出した。
「なんだ?」
「カフェオレ味です」
無邪気に勧めてくるので、苦笑が漏れた。
国の象徴とも言うべき立場の人間が、よもやこんな場所でデートまがいのことをしているとはだれも思うまい。万人に面が割れている身では堂々と素顔を晒すわけにもいかず、今回はシリルが帽子を目深にかぶり、サングラスをかけて極力人目を避けていた。しかし、このままカップルで押しとおしてしまえば、素性がバレることなく誤魔化しきれる気もしてきた。
「それで? 後半戦はどこをまわる?」
めぼしい場所はひととおりまわり終わったため、ランチ休憩を適当に挟んだあとでシリルは尋ねた。エリアを移動してもいいし、今日のところはホテルに戻ってのんびり過ごしてもいい。いずれにせよ、リュークの選択に任せるつもりだった。
「アクアリウムが、とても綺麗でした」
「ああいうのが好きなら、別のエリアに、もっと大規模な水族館がいくつかあるみたいだな。系統は違うが、生き物が見たいなら動物園も併設されてる」
「動物園」
バベル・リゾートの南東に位置する軍事都市、ミスリルの巨大市場に連れて行った際、リュークははじめて目にする動物たちをまえに及び腰の姿勢を見せていた。その様子から、動物全般に対して苦手意識があるのだろうと思っていたが、いまの反応からすると、慣れていないだけの話で、興味や関心はあるらしい。
「間近にいろんな動物を見る機会もそうそうないだろう。行ってみるか?」
尋ねたシリルに、リュークは行ってみたいと応じた。
ひろい敷地内には、さまざまなエリアが設けられ、それぞれの特色にしたがった施設やアトラクションが楽しめるようになっている。リュークの希望は、5年前に一度訪れた場所を再訪することだった。
連れられるまま足を運ぶばかりで、当初はよくわかっていなかったことなどを、あらためて追体験してみたいとのことで、同行するシリルに異存はなく、アミューズメント施設を中心とするエリアに足を向けることとなった。
ミラーハウスにさまざまなショウを開催する劇場、アクアリウム。当然のことながら5年前とは展示内容や演目は変わっていたものの、リュークは概ね満足そうだった。
「今夜はあらためて、観覧車の中から花火鑑賞だな」
声をかけたシリルに、美貌のヒューマノイドは嬉しそうに賛同した。その手には、ジェラートのカップがあった。
「おまえ、結構甘いもの好きだよな」
なんだかんだ言いつつ子供味覚なのだろうかと思っていると、リュークからは意外な答えが返ってきた。
「たぶん、あなたの影響です」
「俺の?」
日頃から甘いものなどほとんど口にしない自分の影響とはどういうことかと面食らう。だが、理由は明白だった。
「追撃を逃れて渓谷の底に潜ったとき、私の緊張を解くために、はちみつ入りのカフェオレを淹れてくださいました。あのときの優しい味が、とても美味しくて」
「ああ、あれか」
思い出して、シリルも得心する。
「そうか、あれがきっかけか。気に入ったなら、またいくらでも淹れてやる」
口許をほころばせたリュークは、手にしていたジェラートをひと匙掬ってシリルに差し出した。
「なんだ?」
「カフェオレ味です」
無邪気に勧めてくるので、苦笑が漏れた。
国の象徴とも言うべき立場の人間が、よもやこんな場所でデートまがいのことをしているとはだれも思うまい。万人に面が割れている身では堂々と素顔を晒すわけにもいかず、今回はシリルが帽子を目深にかぶり、サングラスをかけて極力人目を避けていた。しかし、このままカップルで押しとおしてしまえば、素性がバレることなく誤魔化しきれる気もしてきた。
「それで? 後半戦はどこをまわる?」
めぼしい場所はひととおりまわり終わったため、ランチ休憩を適当に挟んだあとでシリルは尋ねた。エリアを移動してもいいし、今日のところはホテルに戻ってのんびり過ごしてもいい。いずれにせよ、リュークの選択に任せるつもりだった。
「アクアリウムが、とても綺麗でした」
「ああいうのが好きなら、別のエリアに、もっと大規模な水族館がいくつかあるみたいだな。系統は違うが、生き物が見たいなら動物園も併設されてる」
「動物園」
バベル・リゾートの南東に位置する軍事都市、ミスリルの巨大市場に連れて行った際、リュークははじめて目にする動物たちをまえに及び腰の姿勢を見せていた。その様子から、動物全般に対して苦手意識があるのだろうと思っていたが、いまの反応からすると、慣れていないだけの話で、興味や関心はあるらしい。
「間近にいろんな動物を見る機会もそうそうないだろう。行ってみるか?」
尋ねたシリルに、リュークは行ってみたいと応じた。
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