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エピローグ
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『あれほどにおおらかで自由を愛するご性質のあの方が、まるで笑わなくなってしまわれたのです。わたくしどもを責めるでなく、恨むでなく、ただ淡々と、日々の職務をこなされていかれる中で、だれに告げることもなく、ご自身だけを責めておられた。あなたの存在は、ご自分の力だけを頼りに孤独の中で生きてこられたあの方にとって、半身にも等しい、かけがえのないものだったのです』
そう語った侍従長の顔には、翳りを帯びたやるせない憂慮と懊悩が滲んでいた。
『民の幸せのため、国の安寧のために国王ひとりが犠牲になるようなことがあってはならない。そんな国家のありようは間違っている。私はそう思うのです』
あの方は優しすぎる。我慾もなく、ただ責任感のみで今日まで国王としての責務を果たしてきたシリルを、ベルンシュタインはそう評した。そしてリュークの手を取り、真剣な眼差しを向けてこう言った。どうかあの方を、よろしくお願いします、リューク殿。あの方を、幸せにして差し上げてください、と。
心と心が触れ合う優しさを、はじめて教えられた。相手を求める切なさを、はじめて経験した。喪う痛みと悲しみ、与えられるぬくもりの心地よさ、ただ想うだけで溢れる幸せを、すべてこの腕の中で味わった。
『笑えよ、リューク』
その言葉の意味が、ようやく自分にも理解できるようになった。
自分の痛みより、苦しみより、相手の痛みと苦しみが身を裂かれるほどにつらい。だからこそ、その笑顔と幸せが、最上の喜びとなって心を満たしてくれる。そんな相手と、出逢ってしまった。
傍にいたい。この生命があるかぎり。ずっと――
心から、そう望み、願わずにはいられなかった。
優しい笑顔を、いつまでも守っていけるように……。
あたたかな胸に耳を寄せれば、聞こえてくるのはたしかな鼓動。生まれ落ちたこの世界で、この腕の中が唯一安心できるぬくもりを与えてくれる場所だと、その音が教えてくれる。こみあげる想いを感じとったかのように、抱きしめる腕にも力が籠もった。
自分の髪に顔を埋めるその口が、耳もとで低く囁いた。
「オマケで綿菓子も、つけてやる」
「――はい……」
応えた途端、クリスタル・ブルーの双眸から、透明な煌めきがひと滴、零れ落ちた。
~End~
そう語った侍従長の顔には、翳りを帯びたやるせない憂慮と懊悩が滲んでいた。
『民の幸せのため、国の安寧のために国王ひとりが犠牲になるようなことがあってはならない。そんな国家のありようは間違っている。私はそう思うのです』
あの方は優しすぎる。我慾もなく、ただ責任感のみで今日まで国王としての責務を果たしてきたシリルを、ベルンシュタインはそう評した。そしてリュークの手を取り、真剣な眼差しを向けてこう言った。どうかあの方を、よろしくお願いします、リューク殿。あの方を、幸せにして差し上げてください、と。
心と心が触れ合う優しさを、はじめて教えられた。相手を求める切なさを、はじめて経験した。喪う痛みと悲しみ、与えられるぬくもりの心地よさ、ただ想うだけで溢れる幸せを、すべてこの腕の中で味わった。
『笑えよ、リューク』
その言葉の意味が、ようやく自分にも理解できるようになった。
自分の痛みより、苦しみより、相手の痛みと苦しみが身を裂かれるほどにつらい。だからこそ、その笑顔と幸せが、最上の喜びとなって心を満たしてくれる。そんな相手と、出逢ってしまった。
傍にいたい。この生命があるかぎり。ずっと――
心から、そう望み、願わずにはいられなかった。
優しい笑顔を、いつまでも守っていけるように……。
あたたかな胸に耳を寄せれば、聞こえてくるのはたしかな鼓動。生まれ落ちたこの世界で、この腕の中が唯一安心できるぬくもりを与えてくれる場所だと、その音が教えてくれる。こみあげる想いを感じとったかのように、抱きしめる腕にも力が籠もった。
自分の髪に顔を埋めるその口が、耳もとで低く囁いた。
「オマケで綿菓子も、つけてやる」
「――はい……」
応えた途端、クリスタル・ブルーの双眸から、透明な煌めきがひと滴、零れ落ちた。
~End~
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