セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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エピローグ

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「あなたの大切な『心』をお返しします――エリザベス・グライナー博士からの伝言でございます」

 ベルンシュタインの穏やかな声が耳に届いた。
 生命の火を消したヒューマノイドのデータを元に、その身体をふたたび復元し、あるいは記憶と心を完全な状態で再生させるには、じつに5年という歳月を費やさねばならなかった。だが、それでもリズは、なみなみならぬ決意と精励をもってユリウスにも匹敵する偉業を成し遂げた。

 こんな結末があってはならない。
 彼女を突き動かした感情は、あの場に居合わせただれもが抱いた共通の思いでもあった。その思いが、ようやく結実した。


「シリル陛下、今日まで本当に、ありがとうございました」

 顔を上げたシリルに、ベルンシュタインは告げた。

「これまでこの国と民のため、御身を犠牲にしてこられたぶん、今日からはふたたび、ご自身のための人生をお歩みください。陛下の取られる休暇は、王室府の裁量により、ただいまをもちまして無期限とさせていただきます。陛下お留守の王城は、どうかこのわたくしにお任せを」
「ベルンシュタイン……」
「無期限とはいえ、陛下の御身はこの国にとって必要不可欠のかけがえなきもの。やむを得ない場合は、決済やご裁量を仰ぐこともございましょう。そのための各部署との直通回線を、勝手ながら陛下の所有機に引かせていただきました。事後承諾となりましたこと、お詫び申し上げます」
「かまわない。必要があれば、いつでも戻ってくる」
「ありがとう存じます」

 ベルンシュタインは口許の微笑を深くした。
 ふたたび腕の中の麗容に視線を戻したシリルは、あらためてその顔を見下ろして、白い頬にそっと触れた。

「笑えるように、なったな」
「はい」

 応えたその躰を、ぬくもりを確かめるようにもう一度抱きしめる。焦がれた再会に、リュークもまた、みずから身を委ねた。

『笑わなく、なってしまったのですよ』

 その脳裡に、ベルンシュタインの言葉が甦った。あなたを喪った主君の苦悩と後悔は、はかりしれないものだった、と。
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