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第14章 王の『鍵』
第2話(4)
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目先の権勢に目が眩み、王の特権をもって利慾を貪り、権勢を恣にするような者であってはならない。それと同時に、己が果たすべき務めと役割を理解しない蒙昧な暗愚であってもならなかった。
その為人を見極め、『条件』を満たした場合にのみ、王位は引き継がれる。まっさらな存在である『鍵』自身が、みずからを差し出し、己の生命を擲つことさえも厭わない崇高さを備えた者であること。それが条件。
ユリウスが『鍵』となるべきものに設定したのは、己が抱いた先王への忠誠とおなじか、それ以上の強さをもって心を捧げるに値する相手であるかどうかを見極めさせること。それがかなわなかった場合、王位継承は見送られ、ふたたび『血の呪い』を受け継ぐ者に王位が引き継がれるよう、先王の遺言により定められていた。
先王イアンの時代に用意されていたのは、2種類の受精卵。
これまでどおり、その身の裡に『神』の遺伝子を宿すものと、ユリウスの手によって『血の呪い』のみを取り除かれているもの。
『鍵』が発動しなかった場合、前者はただちに凍結を解かれ、アドリエンヌ王妃を母胎とする移植、着床処理を施されたうえで、次代国王となるべく、亡きクリストファー国王の忘れ形見として誕生させられる。そのような手筈となっていた。だが、爆弾を抱えたその存在は、ただの繋ぎとしての役割を与えられている仮の王位継承者にすぎない。真の目的は、もう一方の受精卵を成長させ、『血の呪い』から解き放たれた存在をこの世に送り出すこと。そしてその者にこそ、王位を引き継がせること。
それは、『鍵』が発動するまで繰り返される予定となっていた。幾度でも、いつまでも。
『鍵』は、己の生命を捧げる者が現れるまで、その存在を求めつづけることを前提に、この世に生を受けた。
それは、あまりに身勝手で、残酷な仕掛け――
『シリル――あなたがとても、好きです……』
喪われたのは、無垢なる魂。
シリルの瞳は昏く沈む。
「勝手なことを申し上げている。それは重々承知しております。ですがどうか、お力添えをいただきたいのです」
ベルンシュタインは苦悶を滲ませた声で言った。
イアン、クリストファー二代にわたって、天然水の利権を王家ではなく、国そのものに帰属させる準備を進めてきた。だが、いずれの国王も、志半ばで寿命を迎えることとなった。
湧水地をめぐる紛争は、いまだ絶えない。それでも建国当初に比べ、国家は確実に安定し、長年の地道な取り組みの積み重ねによって湧水地の数も劇的に増えた。安全な水の確保のために、人々が国や組織を挙げて殺し合いをする時代は遠い過去となった。王家が管理システムを独占する必要は、もはやどこにもなかった。
「こうして『鍵』の封印が解かれたいま、天然水の利権をめぐる問題に着手し、あらたな制度を導入して民を導ける御方は、貴方様をおいてほかにおられないのです」
ベルンシュタインの言葉に、シリルは応えない。
脳裡に浮かぶのは、クリスタル・ブルーの汚れなき光。
『心』など、与えるべきではなかった――
シリルはただ、胸の裡でその思いだけを噛みしめていた。
その為人を見極め、『条件』を満たした場合にのみ、王位は引き継がれる。まっさらな存在である『鍵』自身が、みずからを差し出し、己の生命を擲つことさえも厭わない崇高さを備えた者であること。それが条件。
ユリウスが『鍵』となるべきものに設定したのは、己が抱いた先王への忠誠とおなじか、それ以上の強さをもって心を捧げるに値する相手であるかどうかを見極めさせること。それがかなわなかった場合、王位継承は見送られ、ふたたび『血の呪い』を受け継ぐ者に王位が引き継がれるよう、先王の遺言により定められていた。
先王イアンの時代に用意されていたのは、2種類の受精卵。
これまでどおり、その身の裡に『神』の遺伝子を宿すものと、ユリウスの手によって『血の呪い』のみを取り除かれているもの。
『鍵』が発動しなかった場合、前者はただちに凍結を解かれ、アドリエンヌ王妃を母胎とする移植、着床処理を施されたうえで、次代国王となるべく、亡きクリストファー国王の忘れ形見として誕生させられる。そのような手筈となっていた。だが、爆弾を抱えたその存在は、ただの繋ぎとしての役割を与えられている仮の王位継承者にすぎない。真の目的は、もう一方の受精卵を成長させ、『血の呪い』から解き放たれた存在をこの世に送り出すこと。そしてその者にこそ、王位を引き継がせること。
それは、『鍵』が発動するまで繰り返される予定となっていた。幾度でも、いつまでも。
『鍵』は、己の生命を捧げる者が現れるまで、その存在を求めつづけることを前提に、この世に生を受けた。
それは、あまりに身勝手で、残酷な仕掛け――
『シリル――あなたがとても、好きです……』
喪われたのは、無垢なる魂。
シリルの瞳は昏く沈む。
「勝手なことを申し上げている。それは重々承知しております。ですがどうか、お力添えをいただきたいのです」
ベルンシュタインは苦悶を滲ませた声で言った。
イアン、クリストファー二代にわたって、天然水の利権を王家ではなく、国そのものに帰属させる準備を進めてきた。だが、いずれの国王も、志半ばで寿命を迎えることとなった。
湧水地をめぐる紛争は、いまだ絶えない。それでも建国当初に比べ、国家は確実に安定し、長年の地道な取り組みの積み重ねによって湧水地の数も劇的に増えた。安全な水の確保のために、人々が国や組織を挙げて殺し合いをする時代は遠い過去となった。王家が管理システムを独占する必要は、もはやどこにもなかった。
「こうして『鍵』の封印が解かれたいま、天然水の利権をめぐる問題に着手し、あらたな制度を導入して民を導ける御方は、貴方様をおいてほかにおられないのです」
ベルンシュタインの言葉に、シリルは応えない。
脳裡に浮かぶのは、クリスタル・ブルーの汚れなき光。
『心』など、与えるべきではなかった――
シリルはただ、胸の裡でその思いだけを噛みしめていた。
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