セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第14章 王の『鍵』

第2話(3)

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「そうして先王陛下がすべてを託された方こそが、ユリウス・グライナー博士でした」

 まずは、『王家の血の呪い』からの解放を。

「若くしてすでに、その道の権威として盛名を馳せておられた博士は、先王陛下のお志に深い感銘を受けられるとともに、そのご決断を支持され、みずから進んで茨の道に身を投じる覚悟を決められた。そうして見事そのご期待に応えられ、早い段階で、陛下たってのご希望のうち、ひとつめを叶えられたのです」

 先王イアンがユリウスに依頼したのはふたつの事柄。そのうちのひとつが、当時の王太子であったクリストファーの次に王位を受け継ぐ資格を持つ者を、『神の病』から完全に解き放つこと。

「……それが、この俺だってのか?」
「さようでございます、シリル様」

 冷笑と自嘲の中間を思わせる表情で、シリルは投げやりに言い放つ。そのやり場のない憤りをまえに、ベルンシュタインは沈痛な面持ちで頷いた。

「天然水に関する枢要が伏せられている以上、王位継承の資格を持たれる方がクリストファー様以外におられることが外部に知れわたることがあってはなりませんでした。と同時に、クリストファー殿下のたどられる運命を明確に見通しておられたからこそ、先王陛下はシリル様の存在をなんとしても隠し、守りとおさねばならなかったのです」

 歴代国王に共通してみられたダークブロンドとあざやかなエメラルドの瞳。そのふたつの特徴は、シリルの血筋を隠しとおさんがために、ユリウスの手によって遺伝子操作がなされ、封印された。
 いまさらそんなことを明かされたところで、なんになろう。

 真実を知らされるほどに、ふたつの黒瞳にはかげりがいや増す。その眼下に、歴代国王が守ってきた天然水のメイン管理システムとなる、中央制御室がひろびろと展開していた。正面の巨大スクリーンには、世界各地の地下浄化槽の詳細データがリアルタイムで表示されている。ここで管理されたデータが、王室管理局に送られていた、というわけである。


 こんなシステムものを守るための『資格』が、リュークあいつの生命と引き換えに――


 先王イアンがユリウスに託したふたつめの依頼――それは、管理システムを掌握する国王、そして王位継承者の存在が途絶えた王国で、次代国王を定め、管理権を引き継がせるための『鍵』の製造だった。
 ベンジャミン・ウィリアム神王の『血』をたしかに受け継ぎながら、『血の呪い』の枠外に身を置く唯一の希望。だがその希望が、人類の未来を損なうようなことがあってはならなかった。
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