155 / 161
第14章 王の『鍵』
第2話(3)
しおりを挟む
「そうして先王陛下がすべてを託された方こそが、ユリウス・グライナー博士でした」
まずは、『王家の血の呪い』からの解放を。
「若くしてすでに、その道の権威として盛名を馳せておられた博士は、先王陛下のお志に深い感銘を受けられるとともに、そのご決断を支持され、みずから進んで茨の道に身を投じる覚悟を決められた。そうして見事そのご期待に応えられ、早い段階で、陛下たってのご希望のうち、ひとつめを叶えられたのです」
先王イアンがユリウスに依頼したのはふたつの事柄。そのうちのひとつが、当時の王太子であったクリストファーの次に王位を受け継ぐ資格を持つ者を、『神の病』から完全に解き放つこと。
「……それが、この俺だってのか?」
「さようでございます、シリル様」
冷笑と自嘲の中間を思わせる表情で、シリルは投げやりに言い放つ。そのやり場のない憤りをまえに、ベルンシュタインは沈痛な面持ちで頷いた。
「天然水に関する枢要が伏せられている以上、王位継承の資格を持たれる方がクリストファー様以外におられることが外部に知れわたることがあってはなりませんでした。と同時に、クリストファー殿下のたどられる運命を明確に見通しておられたからこそ、先王陛下はシリル様の存在をなんとしても隠し、守りとおさねばならなかったのです」
歴代国王に共通してみられたダークブロンドとあざやかなエメラルドの瞳。そのふたつの特徴は、シリルの血筋を隠しとおさんがために、ユリウスの手によって遺伝子操作がなされ、封印された。
いまさらそんなことを明かされたところで、なんになろう。
真実を知らされるほどに、ふたつの黒瞳には翳りがいや増す。その眼下に、歴代国王が守ってきた天然水のメイン管理システムとなる、中央制御室がひろびろと展開していた。正面の巨大スクリーンには、世界各地の地下浄化槽の詳細データがリアルタイムで表示されている。ここで管理されたデータが、王室管理局に送られていた、というわけである。
こんなシステムを守るための『資格』が、リュークの生命と引き換えに――
先王イアンがユリウスに託したふたつめの依頼――それは、管理システムを掌握する国王、そして王位継承者の存在が途絶えた王国で、次代国王を定め、管理権を引き継がせるための『鍵』の製造だった。
ベンジャミン・ウィリアム神王の『血』をたしかに受け継ぎながら、『血の呪い』の枠外に身を置く唯一の希望。だがその希望が、人類の未来を損なうようなことがあってはならなかった。
まずは、『王家の血の呪い』からの解放を。
「若くしてすでに、その道の権威として盛名を馳せておられた博士は、先王陛下のお志に深い感銘を受けられるとともに、そのご決断を支持され、みずから進んで茨の道に身を投じる覚悟を決められた。そうして見事そのご期待に応えられ、早い段階で、陛下たってのご希望のうち、ひとつめを叶えられたのです」
先王イアンがユリウスに依頼したのはふたつの事柄。そのうちのひとつが、当時の王太子であったクリストファーの次に王位を受け継ぐ資格を持つ者を、『神の病』から完全に解き放つこと。
「……それが、この俺だってのか?」
「さようでございます、シリル様」
冷笑と自嘲の中間を思わせる表情で、シリルは投げやりに言い放つ。そのやり場のない憤りをまえに、ベルンシュタインは沈痛な面持ちで頷いた。
「天然水に関する枢要が伏せられている以上、王位継承の資格を持たれる方がクリストファー様以外におられることが外部に知れわたることがあってはなりませんでした。と同時に、クリストファー殿下のたどられる運命を明確に見通しておられたからこそ、先王陛下はシリル様の存在をなんとしても隠し、守りとおさねばならなかったのです」
歴代国王に共通してみられたダークブロンドとあざやかなエメラルドの瞳。そのふたつの特徴は、シリルの血筋を隠しとおさんがために、ユリウスの手によって遺伝子操作がなされ、封印された。
いまさらそんなことを明かされたところで、なんになろう。
真実を知らされるほどに、ふたつの黒瞳には翳りがいや増す。その眼下に、歴代国王が守ってきた天然水のメイン管理システムとなる、中央制御室がひろびろと展開していた。正面の巨大スクリーンには、世界各地の地下浄化槽の詳細データがリアルタイムで表示されている。ここで管理されたデータが、王室管理局に送られていた、というわけである。
こんなシステムを守るための『資格』が、リュークの生命と引き換えに――
先王イアンがユリウスに託したふたつめの依頼――それは、管理システムを掌握する国王、そして王位継承者の存在が途絶えた王国で、次代国王を定め、管理権を引き継がせるための『鍵』の製造だった。
ベンジャミン・ウィリアム神王の『血』をたしかに受け継ぎながら、『血の呪い』の枠外に身を置く唯一の希望。だがその希望が、人類の未来を損なうようなことがあってはならなかった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説



西涼女侠伝
水城洋臣
歴史・時代
無敵の剣術を会得した男装の女剣士。立ち塞がるは三国志に名を刻む猛将馬超
舞台は三國志のハイライトとも言える時代、建安年間。曹操に敗れ関中を追われた馬超率いる反乱軍が涼州を襲う。正史に残る涼州動乱を、官位無き在野の侠客たちの視点で描く武侠譚。
役人の娘でありながら剣の道を選んだ男装の麗人・趙英。
家族の仇を追っている騎馬民族の少年・呼狐澹。
ふらりと現れた目的の分からぬ胡散臭い道士・緑風子。
荒野で出会った在野の流れ者たちの視点から描く、錦馬超の実態とは……。
主に正史を参考としていますが、随所で意図的に演義要素も残しており、また武侠小説としてのテイストも強く、一見重そうに見えて雰囲気は割とライトです。
三國志好きな人ならニヤニヤ出来る要素は散らしてますが、世界観説明のノリで注釈も多めなので、知らなくても楽しめるかと思います(多分)
涼州動乱と言えば馬超と王異ですが、ゲームやサブカル系でこの2人が好きな人はご注意。何せ基本正史ベースだもんで、2人とも現代人の感覚としちゃアレでして……。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる