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第14章 王の『鍵』

第2話(2)

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 立憲君主という制度を用いることで国家元首を立て、国の統治は行政に任せる。国王はその裏で、各地の汚染状況を調査し、コロニーが築かれた場所を中心に徐々に汚染物質を取り除かせ、あるいは浄化する取り組みをおこなっていった。そのうえで、それらの取り組みにより安全と判断された場所に、王城地下を中心とする世界各地に建設された巨大浄化槽で、有害な成分が取り除かれた濾水を特殊なシステムを用いて湧水させる。その費用は天然水の売り上げ、そして利用料からまかなわれていた。すべては、王家が天然水の利権を専有する体裁をとっていればこそ可能だった仕組み。だが、地下を通して目的の場所で濾水が発現したとしても、湧水地での水が清浄であるとはかぎらなかった。地中の成分を吸収して、ふたたび有害な成分を含む汚染水と化している。そのようなことも珍しくはなかったからである。そのため、取り組みには気の遠くなるような根気が要された。
 同時に、この特殊装置による濾水の湧水システムは、目的の場所以外にも湧水地を発現させることがあった。

 徹底した水質調査をおこなわなければ、安全な水を確保することができない。同様に、一度浄化した土地に汚染された水が湧き出て染みこめば、その場所はふたたび土壌そのものも汚染の危機に曝されることとなる。湧水地を発見した場合に、無断での使用が禁じられ、行政の担当専門部署への報告が国民に義務づけられているのも、また、違反者に厳酷すぎる罰則が定められているのも、このためであった。


「建国から200年あまり。地上の砂漠化はいまなお進んでいる状態ではありますが、これらの地道な取り組みにより、環境汚染は次第に改善され、自浄作用も高まりつつあります。すべては、ベンジャミン神王陛下のお血筋を引かれる歴代君主のご偉勲あらばこそ。しかしながら同時に、そのお血筋を引かれるがゆえの犠牲を皆様方が払ってこられたことも事実なのです」

 人類を守るために課された国王の重すぎる責務。民を守り、国の安寧を守るために専有した浄化システムは、しかし、管理権限の所有資格者である国王その人に、生命の代償を求める結果となった。それは、初代国王ベンジャミン・ウィリアムでさえ予想もしていなかった、致命的瑕疵かしだったに違いない。

 天然水に関する一連の情報は、王家における最重要機密として秘匿ひとくされた。ごく一部の機密機関のみが国王の認可のもと、それぞれの専門に特化した任務に従事し、あるいはその末端で仕事を請け負う者たちは、自分たちが実際にどんな役割を担っているのか、まったく認識しないまま取り組んでいる。そのような場合も少なくはなかった。
 だが、国のため、民のため、初代国王が築き上げた厳格なシステムそのものに、限界が見えはじめていた。

『血の呪い』は、まさしくそのあらわれと言えた。

 天然水の専有のありかたそのものを見直すべき時期に来ている。そう痛感し、その未来を懸念した第7代君主イアン・アルフレッドは、ついに英断を下す。
 終焉おわりはもうすでに、目前に見えていた。自分はおそらく、『血の呪い』から逃れることはかなうまい。我が子クリストファー・ガブリエルもまた、手遅れとなろう。だからこそ、この血が途切れたその先に、人類の未来を切り開いておかねばならない、と。
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