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第14章 王の『鍵』

第1話(4)

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「ザマァねえな、隊長。人質とられてあっさり降伏か? 情けなさすぎて涙が出てくるぜ」
 ククッと喉を鳴らすラーザを見ても、シリルの冷めた表情は動かなかった。

「俺はな、隊長、あんたのそういう優しさに、心底虫唾が走るんだよ」

 ホント情けねえなあ。嘆かわしそうにラーザはぼやいてみせた。

「あんたほどの強さがありゃあ、なんだって思いのままにできる。なのにその強さを、虫けら同然の弱い奴らのために簡単になげうって犠牲にしちまう。正義漢ぶった偽善も、そこまでくりゃ立派なもんだ。けどよ、隊長、そういう優しさなんざ、クソの役にも立たねえんだよ。スカした態度で甘いこと言ってたって、所詮そんなのは生ぬるい世界の中だけでの綺麗ごとにすぎねえ。俺らにゃそんなもん、邪魔にしかなんねえってのに、同類の分際でテメエだけ聖人ぶって本気出さねえのがムカついてムカついてしょうがねえのよ。だからさ」

 言葉を区切ったラーザは、シリルの後方に声を投げた。

「後ろに隠れてるお人形ちゃんも、ちょっと協力してちょうだいよ」
 言った途端に、ラーザはシリルめがけて発砲した。

「――っ」

 わざとはずした的が、シリルの太ももを掠めて鮮血を飛び散らせた。

「言うこと聞かねえと、今度はホントに当てちゃうよ~ん」
「リュークッ」

 シリルは低い声で制したが、ラーザの言葉が脅しではないことを身をもって経験しているヒューマノイドは、蒼褪めた表情で物陰から進み出た。そのままこっちへ来るよう命じられ、おとなしくその言葉に従う。近づいてきた人質の腕を掴んだラーザは、乱暴に自分のほうへ引き寄せると、ガッチリと首に腕をまわして押さえこんだ。

「じゃあ、隊長、そろそろお互い、本気出してやり合うとしようか。3分経過するごとに人質はひとりずつ殺してくってことで、ルールと時間厳守で了解してちょうだいねっと!」

 リュークをリズたちのほうへ突き飛ばしたラーザは、扉が開け放たれていた小型機に飛び乗った。そこから振り向きざま、構えたバズーカを発射する。砲弾のかわりに網が発射され、瞬く間に空中でひろがったそれは、3人の人質に覆いかぶさった。そのさまを見届けるまもなく、ラーザは投網銃ネットガンを投げ捨てる。素早く持ち替えた機関銃を構えると、今度はシリルめがけてトリガーを引いた。
 床を蹴ったシリルが、散乱する瓦礫がれきの向こう側へと飛びこむ。追いかけたラーザは、容赦なくシリルを狙い撃ちにした。

「ほぉらほらっ、逃げてばっかだと、あっという間に3分のリミット過ぎちゃうぜっ」

 ラーザは愉しげに揶揄した。
 物が散乱する霊廟内を、ふたりの男たちは縦横に移動する。丸腰のシリルは、調度品や石像、石棺など、片っ端から武器や楯になりそうな物を見繕ってはラーザに反撃し、あるいは攻撃を躱した。

「あと2ふ~ん!」

 焦燥を煽るようにラーザがカウントする。

「さぁて、まずひとりめは、どいつに犠牲になってもらうかな。精神的ダメージがいちばんデカそうなお人形は最後に残しとくとして、ジジイが先か、女が先か」

 謳うようなラーザのセリフを聞き流し、シリルは足もとに落ちていたシャンデリアの鎖を掴むと、力任せに振るった。重厚な照明器具が遠心力を伴って強烈な破壊力を生み出し、ラーザに襲いかかる。かろうじてよけた先で瓦礫につまずいた男は、バランスを崩して蹈鞴たたらを踏んだ。その一瞬の隙を、シリルは逃さなかった。
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