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第13章 戦闘
第5話(3)
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「『鍵』が、次なる王を定めたことは間違いありません」
「――ケネスはどこへ行った?」
「『鍵』を連れ、建物の外へ」
受信したデータが、王室管理局長官専用の公用車の現在地であるとオクデラは告げた。
「申し訳ありません。お供させていただきたいところですが、小官は、これ以上はもう……」
オクデラの膝下は、瓦礫の中に完全に埋もれていた。
「救護班は?」
「大丈夫です、すぐに来ます。こちらはお気になさらず、どうぞいらしてください。援軍が必要な場合は、ブラッドリーが対応させていただきます」
「わかった。感謝する」
「ご武運を――シリル陛下」
立ち上がって身を翻したシリルは、一瞬足を止めた。だが、肩越しに頷いたのみでなにも言わず、そのまま愛機へと引き返した。
「悪いが、このまま付き合ってもらう」
エンジンをかけながら告げたシリルに、リズは不安げな眼差しを向けた。
「どこに行くの?」
「天然水専用管理システムの非常警報が解除された」
必要最小限の説明で事態を察したリズは、助手席の窓越しに中央制御室の奥の空間を見やった。
「リューク――『鍵』を伴って、ケネスがどこかへ向かった」
「あとを追うのね?」
訊かれて、シリルは自身の通信機の受信データを愛機の端末に反映させながら頷いた。
「王廟だと思うわ」
シリルの作業を眺めながら、リズは呟くように言った。端末を操作するシリルの手が止まる。
「王廟?」
「ローレンシア国王の居城であるマルガリータ城の北東部に、歴代君主が祀られている王廟があるの。王座を狙う人間が向かうとしたら、そこしか考えられない」
「理由は?」
「わたしもくわしいことはよくわからない。でも、歴代国王は、即位のまえに必ずそこを訪れるのが習わしになってる。父祖への挨拶という名目だけど、そこで、『ある儀式』を済ませなければ王位を継ぐことはできないと言われてる。おそらく、その儀式にこそ、『鍵』がかかわってくるのだと思う。王廟に関連する情報も組みこまれていたはずだから」
説明を聞きながら、端末の表示する地図の情報を眺めていたシリルは結論を出した。
「わかった。ケネスの移動ルートを見るかぎり、たしかに目指す場所は合致しているようだ。ただちに追いかける」
「あのシャッターが上がったということは、クラヴィス――あの子の中で、自覚があるなしに関係なく、次代の王が定まったということになるわ。でもそれは、絶対にケネスじゃない。ケネスへの洗脳が解除されたいま、とても危険な状態だわ」
頷いたシリルは、愛機を発進させた。
きつい眼差しで前方を見据えるシリルの耳に、「ありがとう」という穏やかな声がかけられた。
「『光』――あの子に美しい名前をつけて、とても大切にしてくれたのね」
シリルは応えなかった。
――シリル……!
自分を求めて必死に伸ばされた手を、今度こそ掴んで自分の許へ引き寄せてみせる。そう、心に誓った。
「――ケネスはどこへ行った?」
「『鍵』を連れ、建物の外へ」
受信したデータが、王室管理局長官専用の公用車の現在地であるとオクデラは告げた。
「申し訳ありません。お供させていただきたいところですが、小官は、これ以上はもう……」
オクデラの膝下は、瓦礫の中に完全に埋もれていた。
「救護班は?」
「大丈夫です、すぐに来ます。こちらはお気になさらず、どうぞいらしてください。援軍が必要な場合は、ブラッドリーが対応させていただきます」
「わかった。感謝する」
「ご武運を――シリル陛下」
立ち上がって身を翻したシリルは、一瞬足を止めた。だが、肩越しに頷いたのみでなにも言わず、そのまま愛機へと引き返した。
「悪いが、このまま付き合ってもらう」
エンジンをかけながら告げたシリルに、リズは不安げな眼差しを向けた。
「どこに行くの?」
「天然水専用管理システムの非常警報が解除された」
必要最小限の説明で事態を察したリズは、助手席の窓越しに中央制御室の奥の空間を見やった。
「リューク――『鍵』を伴って、ケネスがどこかへ向かった」
「あとを追うのね?」
訊かれて、シリルは自身の通信機の受信データを愛機の端末に反映させながら頷いた。
「王廟だと思うわ」
シリルの作業を眺めながら、リズは呟くように言った。端末を操作するシリルの手が止まる。
「王廟?」
「ローレンシア国王の居城であるマルガリータ城の北東部に、歴代君主が祀られている王廟があるの。王座を狙う人間が向かうとしたら、そこしか考えられない」
「理由は?」
「わたしもくわしいことはよくわからない。でも、歴代国王は、即位のまえに必ずそこを訪れるのが習わしになってる。父祖への挨拶という名目だけど、そこで、『ある儀式』を済ませなければ王位を継ぐことはできないと言われてる。おそらく、その儀式にこそ、『鍵』がかかわってくるのだと思う。王廟に関連する情報も組みこまれていたはずだから」
説明を聞きながら、端末の表示する地図の情報を眺めていたシリルは結論を出した。
「わかった。ケネスの移動ルートを見るかぎり、たしかに目指す場所は合致しているようだ。ただちに追いかける」
「あのシャッターが上がったということは、クラヴィス――あの子の中で、自覚があるなしに関係なく、次代の王が定まったということになるわ。でもそれは、絶対にケネスじゃない。ケネスへの洗脳が解除されたいま、とても危険な状態だわ」
頷いたシリルは、愛機を発進させた。
きつい眼差しで前方を見据えるシリルの耳に、「ありがとう」という穏やかな声がかけられた。
「『光』――あの子に美しい名前をつけて、とても大切にしてくれたのね」
シリルは応えなかった。
――シリル……!
自分を求めて必死に伸ばされた手を、今度こそ掴んで自分の許へ引き寄せてみせる。そう、心に誓った。
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