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第13章 戦闘
第3話(4)
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「ブラッドリー、一般職員の警固と民間部隊のほうは軍に任せて大丈夫か?」
「むろんです」
「ついでにもうひとつ、手を貸してもらいたいことがある」
「なんなりとご下命を」
応じた第2師団長に、シリルは尋ねた。
「工兵部隊の技術で、建物の一部を5分以内に損壊させることは可能か?」
「可能ですが、それは……」
「中央制御室がラーザの手に落ちれば、防犯システムを使って各通路が封鎖される。中央制御室への出入りも遮断されるだろう。そうなるまえに強行突入する」
避難中の一般職員らが退路を断たれた挙げ句、軍とビア・セキュリティとの攻防に巻きこまれるようなことにでもなれば、とんでもない惨劇になることは目に見えている。民間人を楯に攻められれば、王室師団にとっても不利になることは間違いない。なにより、中央制御室には王の『鍵』が囚われたままである。敵に占拠されるようなことがあってはならなかった。
「具体的には、どのようにすれば?」
尋ねたブラッドリーに、シリルはこともなげに告げた。
「中央制御室の真横の部屋を吹き飛ばせ」
あまりにあっさりとした命令に、ブラッドリーは一瞬絶句した。
「おっ、お待ちくださいっ。それはあまりに――」
「イーグルが着陸するだけのスペースがあればいい。ひと部屋。それで充分だ」
「ですが、それではいくらなんでも――」
「ひと部屋ぶんあれば確実にそのスペースにイーグルをおさめられる。ブラッドリー、俺はできないことをできるとは言わない」
どこまでも冷静な口調で言われて、ブラッドリーは口を噤んだ。
「どうだ? 中央制御室内の人命を損なうことなしに、破壊工作は可能か? 不可能か?」
問われた指揮官は、わずかに思案をめぐらせた後に素早く結論を出した。一刻を争うときである。迷っている暇はない。
「わかりました、可能です。幸い、救護されたオクデラとも連絡を取り合える状況ですので、ただちに準備に取り掛かります」
きっぱりと応えたブラッドリーは、その言葉どおり、傍受不能なローレンシア軍専用の別回線を使って庁舎内にいるオクデラらと暗号通信をはじめた。襲撃に夢中になっているラーザは、その騒音も相俟って、いまのやりとりに気づかない。イーグルワンが王室管理局庁舎に近づくにつれ、シリルの目にも、建物内の様子が見えてきた。
中央制御室で騒ぎがつづく中、その隣の部屋に、オクデラをはじめとする複数の兵士たちが出入りしている。手首の通信機を通じて、なにかやりとりをしながら、オクデラが指示する姿が窓ガラス越しに見えた。同時に、騒ぎの真っ只中にある中央制御室内でも、ラーザを中心とするビア・セキュリティの隊員らと王室師団の将兵らが攻防を繰り広げているさまが窺える。だが、その動きが、リズやマティアスを背後に庇って、少しずつ隣室から遠ざかる位置へと移動しているのが看て取れた。
気づけば、イーグルワンの背後に、空挺部隊のエース・パイロットが操縦する小型武装機が登場していた。察したシリルが、ただちに愛機を移動させて小型機に場所を譲る。エンジン音を最小まで抑え、射程内に目的の部屋がおさまる位置まで移動した小型機は、
「はぁい、中央制御室、占拠完了~」
ラーザが宣言した瞬間、ミサイルを発射した。
直後に、爆音と火焔を噴き上げて目的の部屋が吹き飛んだ。すかさず別の小型機が近づいて、被害がひろがらぬよう消化剤を噴霧する。あざやかな手並みで完璧に任務を成し遂げたローレンシア軍に、シリルは満足して笑みを浮かべた。
「上出来。ご苦労」
簡潔にねぎらいの言葉をかけたシリルは、いまだ爆炎と爆風の影響がおさまりきらない狭い空間に危うげなく機体を進入させ、着陸した。
「むろんです」
「ついでにもうひとつ、手を貸してもらいたいことがある」
「なんなりとご下命を」
応じた第2師団長に、シリルは尋ねた。
「工兵部隊の技術で、建物の一部を5分以内に損壊させることは可能か?」
「可能ですが、それは……」
「中央制御室がラーザの手に落ちれば、防犯システムを使って各通路が封鎖される。中央制御室への出入りも遮断されるだろう。そうなるまえに強行突入する」
避難中の一般職員らが退路を断たれた挙げ句、軍とビア・セキュリティとの攻防に巻きこまれるようなことにでもなれば、とんでもない惨劇になることは目に見えている。民間人を楯に攻められれば、王室師団にとっても不利になることは間違いない。なにより、中央制御室には王の『鍵』が囚われたままである。敵に占拠されるようなことがあってはならなかった。
「具体的には、どのようにすれば?」
尋ねたブラッドリーに、シリルはこともなげに告げた。
「中央制御室の真横の部屋を吹き飛ばせ」
あまりにあっさりとした命令に、ブラッドリーは一瞬絶句した。
「おっ、お待ちくださいっ。それはあまりに――」
「イーグルが着陸するだけのスペースがあればいい。ひと部屋。それで充分だ」
「ですが、それではいくらなんでも――」
「ひと部屋ぶんあれば確実にそのスペースにイーグルをおさめられる。ブラッドリー、俺はできないことをできるとは言わない」
どこまでも冷静な口調で言われて、ブラッドリーは口を噤んだ。
「どうだ? 中央制御室内の人命を損なうことなしに、破壊工作は可能か? 不可能か?」
問われた指揮官は、わずかに思案をめぐらせた後に素早く結論を出した。一刻を争うときである。迷っている暇はない。
「わかりました、可能です。幸い、救護されたオクデラとも連絡を取り合える状況ですので、ただちに準備に取り掛かります」
きっぱりと応えたブラッドリーは、その言葉どおり、傍受不能なローレンシア軍専用の別回線を使って庁舎内にいるオクデラらと暗号通信をはじめた。襲撃に夢中になっているラーザは、その騒音も相俟って、いまのやりとりに気づかない。イーグルワンが王室管理局庁舎に近づくにつれ、シリルの目にも、建物内の様子が見えてきた。
中央制御室で騒ぎがつづく中、その隣の部屋に、オクデラをはじめとする複数の兵士たちが出入りしている。手首の通信機を通じて、なにかやりとりをしながら、オクデラが指示する姿が窓ガラス越しに見えた。同時に、騒ぎの真っ只中にある中央制御室内でも、ラーザを中心とするビア・セキュリティの隊員らと王室師団の将兵らが攻防を繰り広げているさまが窺える。だが、その動きが、リズやマティアスを背後に庇って、少しずつ隣室から遠ざかる位置へと移動しているのが看て取れた。
気づけば、イーグルワンの背後に、空挺部隊のエース・パイロットが操縦する小型武装機が登場していた。察したシリルが、ただちに愛機を移動させて小型機に場所を譲る。エンジン音を最小まで抑え、射程内に目的の部屋がおさまる位置まで移動した小型機は、
「はぁい、中央制御室、占拠完了~」
ラーザが宣言した瞬間、ミサイルを発射した。
直後に、爆音と火焔を噴き上げて目的の部屋が吹き飛んだ。すかさず別の小型機が近づいて、被害がひろがらぬよう消化剤を噴霧する。あざやかな手並みで完璧に任務を成し遂げたローレンシア軍に、シリルは満足して笑みを浮かべた。
「上出来。ご苦労」
簡潔にねぎらいの言葉をかけたシリルは、いまだ爆炎と爆風の影響がおさまりきらない狭い空間に危うげなく機体を進入させ、着陸した。
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