140 / 161
第13章 戦闘
第3話(4)
しおりを挟む
「ブラッドリー、一般職員の警固と民間部隊のほうは軍に任せて大丈夫か?」
「むろんです」
「ついでにもうひとつ、手を貸してもらいたいことがある」
「なんなりとご下命を」
応じた第2師団長に、シリルは尋ねた。
「工兵部隊の技術で、建物の一部を5分以内に損壊させることは可能か?」
「可能ですが、それは……」
「中央制御室がラーザの手に落ちれば、防犯システムを使って各通路が封鎖される。中央制御室への出入りも遮断されるだろう。そうなるまえに強行突入する」
避難中の一般職員らが退路を断たれた挙げ句、軍とビア・セキュリティとの攻防に巻きこまれるようなことにでもなれば、とんでもない惨劇になることは目に見えている。民間人を楯に攻められれば、王室師団にとっても不利になることは間違いない。なにより、中央制御室には王の『鍵』が囚われたままである。敵に占拠されるようなことがあってはならなかった。
「具体的には、どのようにすれば?」
尋ねたブラッドリーに、シリルはこともなげに告げた。
「中央制御室の真横の部屋を吹き飛ばせ」
あまりにあっさりとした命令に、ブラッドリーは一瞬絶句した。
「おっ、お待ちくださいっ。それはあまりに――」
「イーグルが着陸するだけのスペースがあればいい。ひと部屋。それで充分だ」
「ですが、それではいくらなんでも――」
「ひと部屋ぶんあれば確実にそのスペースにイーグルをおさめられる。ブラッドリー、俺はできないことをできるとは言わない」
どこまでも冷静な口調で言われて、ブラッドリーは口を噤んだ。
「どうだ? 中央制御室内の人命を損なうことなしに、破壊工作は可能か? 不可能か?」
問われた指揮官は、わずかに思案をめぐらせた後に素早く結論を出した。一刻を争うときである。迷っている暇はない。
「わかりました、可能です。幸い、救護されたオクデラとも連絡を取り合える状況ですので、ただちに準備に取り掛かります」
きっぱりと応えたブラッドリーは、その言葉どおり、傍受不能なローレンシア軍専用の別回線を使って庁舎内にいるオクデラらと暗号通信をはじめた。襲撃に夢中になっているラーザは、その騒音も相俟って、いまのやりとりに気づかない。イーグルワンが王室管理局庁舎に近づくにつれ、シリルの目にも、建物内の様子が見えてきた。
中央制御室で騒ぎがつづく中、その隣の部屋に、オクデラをはじめとする複数の兵士たちが出入りしている。手首の通信機を通じて、なにかやりとりをしながら、オクデラが指示する姿が窓ガラス越しに見えた。同時に、騒ぎの真っ只中にある中央制御室内でも、ラーザを中心とするビア・セキュリティの隊員らと王室師団の将兵らが攻防を繰り広げているさまが窺える。だが、その動きが、リズやマティアスを背後に庇って、少しずつ隣室から遠ざかる位置へと移動しているのが看て取れた。
気づけば、イーグルワンの背後に、空挺部隊のエース・パイロットが操縦する小型武装機が登場していた。察したシリルが、ただちに愛機を移動させて小型機に場所を譲る。エンジン音を最小まで抑え、射程内に目的の部屋がおさまる位置まで移動した小型機は、
「はぁい、中央制御室、占拠完了~」
ラーザが宣言した瞬間、ミサイルを発射した。
直後に、爆音と火焔を噴き上げて目的の部屋が吹き飛んだ。すかさず別の小型機が近づいて、被害がひろがらぬよう消化剤を噴霧する。あざやかな手並みで完璧に任務を成し遂げたローレンシア軍に、シリルは満足して笑みを浮かべた。
「上出来。ご苦労」
簡潔にねぎらいの言葉をかけたシリルは、いまだ爆炎と爆風の影響がおさまりきらない狭い空間に危うげなく機体を進入させ、着陸した。
「むろんです」
「ついでにもうひとつ、手を貸してもらいたいことがある」
「なんなりとご下命を」
応じた第2師団長に、シリルは尋ねた。
「工兵部隊の技術で、建物の一部を5分以内に損壊させることは可能か?」
「可能ですが、それは……」
「中央制御室がラーザの手に落ちれば、防犯システムを使って各通路が封鎖される。中央制御室への出入りも遮断されるだろう。そうなるまえに強行突入する」
避難中の一般職員らが退路を断たれた挙げ句、軍とビア・セキュリティとの攻防に巻きこまれるようなことにでもなれば、とんでもない惨劇になることは目に見えている。民間人を楯に攻められれば、王室師団にとっても不利になることは間違いない。なにより、中央制御室には王の『鍵』が囚われたままである。敵に占拠されるようなことがあってはならなかった。
「具体的には、どのようにすれば?」
尋ねたブラッドリーに、シリルはこともなげに告げた。
「中央制御室の真横の部屋を吹き飛ばせ」
あまりにあっさりとした命令に、ブラッドリーは一瞬絶句した。
「おっ、お待ちくださいっ。それはあまりに――」
「イーグルが着陸するだけのスペースがあればいい。ひと部屋。それで充分だ」
「ですが、それではいくらなんでも――」
「ひと部屋ぶんあれば確実にそのスペースにイーグルをおさめられる。ブラッドリー、俺はできないことをできるとは言わない」
どこまでも冷静な口調で言われて、ブラッドリーは口を噤んだ。
「どうだ? 中央制御室内の人命を損なうことなしに、破壊工作は可能か? 不可能か?」
問われた指揮官は、わずかに思案をめぐらせた後に素早く結論を出した。一刻を争うときである。迷っている暇はない。
「わかりました、可能です。幸い、救護されたオクデラとも連絡を取り合える状況ですので、ただちに準備に取り掛かります」
きっぱりと応えたブラッドリーは、その言葉どおり、傍受不能なローレンシア軍専用の別回線を使って庁舎内にいるオクデラらと暗号通信をはじめた。襲撃に夢中になっているラーザは、その騒音も相俟って、いまのやりとりに気づかない。イーグルワンが王室管理局庁舎に近づくにつれ、シリルの目にも、建物内の様子が見えてきた。
中央制御室で騒ぎがつづく中、その隣の部屋に、オクデラをはじめとする複数の兵士たちが出入りしている。手首の通信機を通じて、なにかやりとりをしながら、オクデラが指示する姿が窓ガラス越しに見えた。同時に、騒ぎの真っ只中にある中央制御室内でも、ラーザを中心とするビア・セキュリティの隊員らと王室師団の将兵らが攻防を繰り広げているさまが窺える。だが、その動きが、リズやマティアスを背後に庇って、少しずつ隣室から遠ざかる位置へと移動しているのが看て取れた。
気づけば、イーグルワンの背後に、空挺部隊のエース・パイロットが操縦する小型武装機が登場していた。察したシリルが、ただちに愛機を移動させて小型機に場所を譲る。エンジン音を最小まで抑え、射程内に目的の部屋がおさまる位置まで移動した小型機は、
「はぁい、中央制御室、占拠完了~」
ラーザが宣言した瞬間、ミサイルを発射した。
直後に、爆音と火焔を噴き上げて目的の部屋が吹き飛んだ。すかさず別の小型機が近づいて、被害がひろがらぬよう消化剤を噴霧する。あざやかな手並みで完璧に任務を成し遂げたローレンシア軍に、シリルは満足して笑みを浮かべた。
「上出来。ご苦労」
簡潔にねぎらいの言葉をかけたシリルは、いまだ爆炎と爆風の影響がおさまりきらない狭い空間に危うげなく機体を進入させ、着陸した。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる