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第13章 戦闘

第3話(3)

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 眼前にゲートが迫る。一瞬の手もとの狂い、操作遅れも許されない中で、シリルは息を詰め、あざやかな手並みで愛機を操った。正確無比の操縦桿捌き。イーグルワンは、驚くほどなめらかな動きでゲートへの進入を果たした。コックピットのガラスすれすれに地面が迫る。小型機もまた、天井を掠めるきわどい位置を通過していった。時間にして、わずか数秒にも満たぬ間合い。一瞬でゲートをくぐり抜けた2機は、瞬く間にコロニーの外へと飛び出していった。

 まさに神業を超えた操縦技術。
 だれもが無理だと内心で覚悟を決めた中で、奇跡は起こった。

 司令部内で歓声が湧き起こる。その声は、通信機を介して弾けるようにイーグルワンの機内をも満たした。だが、シリルは背面飛行を継続したまま高度と速度を一気に上げると、そのまま爆発の影響がコロニー内に及ばない位置まで移動した。
 頃合いよしと見たタイミングで、ふたたび操縦桿を握りなおし、優雅な飛翔でループを描きながら180度ロールする。これにより、イーグルワンの腹から振り落とされた小型機は回転しながら地上へと落下していった。地面に激突するタイミングで大爆発が起こる。あたりに砂煙が巻き上がった。
 そのさまを、軍の衛星カメラを通じて見届けた通信士たちが、さらに拍手喝采で盛り上がった。だが、シリルはその炎上を見届けるまもなく愛機の機首を返すと、ふたたびエリュシオンへと向かった。

「ブラッドリー、聞こえるか?」
「はいっ、聞こえております」

 心なしか興奮気味の声で応じた王室第2師団長に対し、シリルはあくまで冷静さを欠くことなく、静かな口調で命じた。

「いまから王室管理局に戻る。それまでのあいだ、一般職員の避難経路と中央制御室の警固を強化しろ」
「残り1体の始末でしたら、装甲兵を向かわせますか?」
「いや、ヒューマノイドはすべて始末した」
「……は? ですが、あと1体、庁舎内に残っているはずでは――」
「小型機に乗っていたのが、その1体だ」

 通信機の向こうで、息を呑む気配がした。と同時に、雑音に混じって別の嗤い声が割りこんできた。

「あれぇ、なぁんでわかっちゃったかなあ?」

 前方を見据えて愛機を操りながら、シリルはその両眼をスッと細めた。

「あんたマジですげえな。俺、相当完璧に偽装したつもりだったんだけど?」
「完璧にしたかったなら、細かい操縦の癖まで仕込んでおくべきだったな」
「あ~、なぁるほど! そういうことか! さすが天下のイーグル使い、シリル・ヴァーノン。さっきの神業も、シビれるテクニック連チャンだったもんなあ。とんでもねえアクロバット飛行! いやあ、しまったしまった。ツメが甘かったわ」

 どこまでも癇に障る、とぼけた口調。その含み笑いの中に、毒が混じった。

「けどまあ、とりあえず充分な時間稼ぎはできたんで? こっちもこっから、本気出させてもらっちゃおうかなあ」
「シリル様っ」

 ラーザのセリフの語尾に重なるように、ブラッドリーの緊迫した声が割りこんだ。

「王室管理局庁舎に私兵集団が!」

 シリルは舌打ちした。ブラック・バードで撃退したほかに、やはりビア・セキュリティの別働隊が存在したのだ。第一陣以降、追撃の手がかかることがなかったのは、最初からふた手に別れた一方を、王都への潜伏組として振り分けていたためであろう。
 ラーザは愉しげに嗤った。

「じゃ、そろそろこっちも、中央制御室襲撃して、占拠させてもらっちゃいまあす!」

 直後にスピーカーを通して伝わってきた、激しい銃撃音と入り乱れた喚声。ラーザ自身の声はもちろん、マティアスの怒声やリズの悲鳴も漏れ聞こえてきた。ギリッと奥歯を噛んだシリルは、眼前に迫る王室管理局の庁舎を見据えながら通話機に向かって口を開いた。
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