セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第13章 戦闘

第3話(2)

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「おやめくださいっ、ムチャですっ! シリル様っ!!」

 ブラッドリーの声は、悲鳴に変わっていた。
 非常事態宣言の発令により飛行規制が解除されているとはいえ、狭いコロニー内での飛行が許されているのは小型機までである。戦闘機では、スピード、パワー、そのいずれも、さまざまな建物が乱立する狭いコロニー内で制御すること自体に無理があった。だが、シリルは意に介さなかった。

 王室管理局の庁舎を攻撃する寸前のところでミサイルを撃ちこまれた小型機は、中空で大きくバランスを崩し、煙を噴き上げながら一気に地面めがけて落下していった。このまま地面に激突すれば、周辺の建物を巻きこんで大惨事になることは目に見えている。一般職員らの避難も完了していない。だれもが絶望的な思いで直後に起こる大事故を想像して凍りついた。その眼前で、信じがたい光景が展開された。

 墜落する小型機に追い縋った戦闘機モードのイーグルワンが、小型機の腹にみずからの腹を添わせるかたちで向かい合わせにピタリとついた。そのまま並走飛行して急下降し、地面に激突する直前で、まるで小型機を掬い上げるように背面飛行でその機首を上げた。機体同士が接触した瞬間、金属が擦れる音が周囲に響き、火花が飛び散る。だが、小型機を抱きこんだ状態でうまくバランスを整えなおしたイーグルワンは、一気に加速して上昇した。
 通信司令部内はもちろんのこと、映像を目にしたすべての人間の口から大きなどよめきが湧き起こった。

 煙を噴く小型機を腹に載せたまま、イーグルワンは天地が逆転した体勢で王都エリュシオンの上空を一度大きく旋回した。ほどなく、ある一点に機首の向きを定める。そのまま、速度を落とすことなく高度を下げていった。

「A1ゲート、開門っ! 他車両の入出場は規制継続!」

 突如下ったイーグルワンからの鋭い命令に、通信司令部のオペレーターはあわてふためきながらもゲート管理の担当者に即座に伝達した。非常事態宣言の関係で閉鎖されていたゲートが、そのひと言で開かれる。シリルが指定したのは、周辺に高い建物がない、付近が比較的開けた場所であった。

 まさか――

 見守る者たち全員の背筋が凍った。
 ゲートは通常、地上車仕様で通過する。コロニーの構造上、ひとつひとつのゲートの造り自体がさほど大きく設けられていないためである。エアカーであっても、乗り入れかた次第ではバランスを崩して大事故に繋がりかねない。そのため、コロニーへの入出場は原則、スピードを落として地上走行で行うことが義務づけられていた。

 ゲートを全開にしたところで、あの速度で戦闘機がつっこむのは命取りである。1機でもあり得ないというのに、イーグルワンは燃料タンクにミサイルを撃ちこまれ、煙を噴き上げている小型機まで載せて背面飛行をしている。いずれも機体の大きさはさほどではないとはいえ、2機ぶんともなれば、ゲートの高さギリギリとなる。いまにも炎上、爆破寸前の機体を載せてつっこんだ挙げ句、わずかでも進入のしかたが狂えば激突は免れない。いつ大爆発を起こしてもおかしくない状態の機体に衝撃が加われば、確実に威力抜群の爆弾へと早変わりすることは間違いなかった。
 通常飛行でもかぎりなくゼロに近い成功率であることは疑いない。それを、無茶な体勢の極みともいえる背面飛行で、平衡感覚すら危うい状態の中、到底まともに進入できるとは思えなかった。

 無理だ。通過などできるわけがない。
 だれもが不吉な確信を持つ中で、シリルは小型機を載せたまま、愛機の操縦桿を握りしめた。その両眼が、出口と定めたゲートをしっかりと見据えた。

 速度は落とさない。それどころかさらに加速していく。腹に載せたものの爆発までのリミットを考えれば、一刻の猶予も許されなかった。コロニー内でこの小型機を爆発させるわけにはいかない。通れるか通れないかギリギリの高さ。だが、長年の勘が、行けると判断した。
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