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第13章 戦闘
第1話(1)
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階下に降りると、イヴェールの言葉どおり、正面玄関前にはシリルの愛機イーグルワンが待機していた。そしてさらにそのまえには、思いがけない人物が立っていた。
「ハーイ、シリル! また会ったわね」
「リズッ!?」
場にそぐわぬ軽い調子で手を挙げ、満面の笑みを浮かべたのは、キュプロスの飲食店で出会った赤毛のウェイトレスだった。
「嬉しいわ。たった1回言葉を交わしただけなのに、ちゃんと憶えててくれてるなんて」
軽やかに笑った女は、状況が呑みこめていない様子の相手に訳知り顔で言葉を継いだ。
「ハン長官が王室府の偉い方と連携して軍を出動させたわ。だから少しの時間なら、あなたの疑問に答えてあげられる」
「――ひょっとして、人工知能のエキスパートってのは……」
「当たり。わたしのことよ。エキスパートシステムが専門――そう説明したわよね。ついでに、メタヒューリスティクスなんかも研究してるって」
むろん憶えてはいるが、まさかこのタイミングで再会することになるとは思いもしなかった。
シリルの当惑を目にしたリズはクスリと笑った。そして、悪戯がバレた子供のような顔で種明かしをした。
「ごめんなさい。あのときはちゃんと名乗らなかったけど、あたしの本名、エリザベス・グライナーっていうの」
聞いた途端、シリルの黒瞳が見開かれた。
「それじゃ、ユリウスの……」
「そうなの。ユリウス・グライナー博士は父方の遠縁にあたる人なの」
「……苦学生じゃなかったのか?」
シリルの問いかけに、赤毛の元ウェイトレスは「あらやだ! やっぱりすごい記憶力!」と楽しげな口調でおどけてみせた。
「苦学生だったのはホントよ。ついでに、いまだって生活に余裕があるわけじゃないわ」
軽く肩を竦めてから、リズは口調をあらためた。
「ユリウスの存在はもちろん一族にとって誇りではあるんだけど、その生涯は残念ながら、幸せとは縁遠いものだった。だから父は、わたしがユリウスとおなじ道に進むことに難色を示したの。いえ、難色どころか、猛反対に近かったかしらね」
「それでも押し切ったってわけか」
「そうよ。だってわたしは、幼いころから彼の研究に、ずっと強い関心と興味を抱きつづけてきたんだもの。父の反対くらいでは、とても諦める気になれなかった。彼ほどの人がその生涯をかけたものに、どれほどの価値があったのか。その人生のすべてを捧げるほどのものとはいったいなんだったのか。それをね、どうしてもこの目で確かめたかった」
ダークグレーの瞳が思いを馳せるように遠くを見やり、それからシリルに戻された。
「ハーイ、シリル! また会ったわね」
「リズッ!?」
場にそぐわぬ軽い調子で手を挙げ、満面の笑みを浮かべたのは、キュプロスの飲食店で出会った赤毛のウェイトレスだった。
「嬉しいわ。たった1回言葉を交わしただけなのに、ちゃんと憶えててくれてるなんて」
軽やかに笑った女は、状況が呑みこめていない様子の相手に訳知り顔で言葉を継いだ。
「ハン長官が王室府の偉い方と連携して軍を出動させたわ。だから少しの時間なら、あなたの疑問に答えてあげられる」
「――ひょっとして、人工知能のエキスパートってのは……」
「当たり。わたしのことよ。エキスパートシステムが専門――そう説明したわよね。ついでに、メタヒューリスティクスなんかも研究してるって」
むろん憶えてはいるが、まさかこのタイミングで再会することになるとは思いもしなかった。
シリルの当惑を目にしたリズはクスリと笑った。そして、悪戯がバレた子供のような顔で種明かしをした。
「ごめんなさい。あのときはちゃんと名乗らなかったけど、あたしの本名、エリザベス・グライナーっていうの」
聞いた途端、シリルの黒瞳が見開かれた。
「それじゃ、ユリウスの……」
「そうなの。ユリウス・グライナー博士は父方の遠縁にあたる人なの」
「……苦学生じゃなかったのか?」
シリルの問いかけに、赤毛の元ウェイトレスは「あらやだ! やっぱりすごい記憶力!」と楽しげな口調でおどけてみせた。
「苦学生だったのはホントよ。ついでに、いまだって生活に余裕があるわけじゃないわ」
軽く肩を竦めてから、リズは口調をあらためた。
「ユリウスの存在はもちろん一族にとって誇りではあるんだけど、その生涯は残念ながら、幸せとは縁遠いものだった。だから父は、わたしがユリウスとおなじ道に進むことに難色を示したの。いえ、難色どころか、猛反対に近かったかしらね」
「それでも押し切ったってわけか」
「そうよ。だってわたしは、幼いころから彼の研究に、ずっと強い関心と興味を抱きつづけてきたんだもの。父の反対くらいでは、とても諦める気になれなかった。彼ほどの人がその生涯をかけたものに、どれほどの価値があったのか。その人生のすべてを捧げるほどのものとはいったいなんだったのか。それをね、どうしてもこの目で確かめたかった」
ダークグレーの瞳が思いを馳せるように遠くを見やり、それからシリルに戻された。
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