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第12章 洗脳
第4話(1)
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大怪我のぶんを差し引いたとしても、王室師団の正規兵より動ける。シリルの言葉に偽りはなかった。
中央制御室を出て以降、軍人としての本領を発揮したその動きは目覚ましかった。シリルに対し、あまり好意的ではない軍の連中にかわって援護するつもりで同行を申し出たマティアスだったが、必要がないどころか、逆にフォローしてもらうようなありさまだった。
自分の身は自分で守れ。あらかじめ突き放すように言われていたものの、実際にいざ危険が迫ると、シリルはマティアスに的確な指示を出して巧みに危険を回避させた。
いったいいつのまに庁舎内の地図を頭に叩きこんでいたというのか。制御室のオクデラとの回線を開いて、つねにインカム越しに各班の布陣、避難者や敵の位置などを確認したうえで移動場所を定め、王室師団と連係してヒューマノイドを1箇所に追いこんでいく。その手並みはじつにあざやかで、無駄がなかった。
敵は、もともとが警備用に造られているうえに、殺人マシーンとしてさらに改良されている。人型兵器の戦闘力と殺傷能力は、日々専門の訓練を受け、鍛え上げられている戦闘のエキスパートらですら後込みさせ、戦意を損なわせるほどに常軌を逸していた。だが、シリルは怯まなかった。
冷静さを失わず、つねに最前線に出て確実に敵を仕留めていく。正確な状況判断と抜群の戦闘能力。隙のない見事なその動きは、つい昨日まで数日間、生死の境を彷徨っていた人間のものとも思えなかった。それどころか、目覚めた直後に敵襲を受け、追い打ちをかけるように痛めつけられてさえいるのである。軍の中でも殊に精鋭ぞろいとして勇名を馳せる王室師団すら霞む戦いぶりには、素人ながらもそれなりに腕におぼえのあるマティアスにとって、ただただ目を瞠るばかりだった。
安全装置をはずしたブラック・バードの驚異的な操縦技術に度肝を抜かれ、舌を巻いたのはつい数刻まえのことである。しかし、一軍人としての戦闘力までこれほどのものであったとは。
「マティアス、さがれっ」
叫んだ瞬間、真横の壁を強く蹴ったシリルは、天井スレスレの位置まで跳躍すると、身を捻って数メートル先の通路に着地した。マティアスの目の前に、通路わきから現れた敵の姿が小山のように立ちふさがる。その左胸を、背後から撃ったシリルの銃弾が食い破った。死の概念が欠如しているヒューマノイドは、完全に己の機能が停止するまでプログラムされた内容に忠実に従おうとする。心臓を撃ち抜かれ、さらにもう1発、つづけて頭部に被弾してからも、人型兵器はマティアスに襲いかかろうとした。シリルのおかげで態勢を整える余裕ができたマティアスは、すかさずその懐に飛びこみ、最強レベルにしたスタンガンを心臓部分にお見舞いした。
中央制御室を出て以降、軍人としての本領を発揮したその動きは目覚ましかった。シリルに対し、あまり好意的ではない軍の連中にかわって援護するつもりで同行を申し出たマティアスだったが、必要がないどころか、逆にフォローしてもらうようなありさまだった。
自分の身は自分で守れ。あらかじめ突き放すように言われていたものの、実際にいざ危険が迫ると、シリルはマティアスに的確な指示を出して巧みに危険を回避させた。
いったいいつのまに庁舎内の地図を頭に叩きこんでいたというのか。制御室のオクデラとの回線を開いて、つねにインカム越しに各班の布陣、避難者や敵の位置などを確認したうえで移動場所を定め、王室師団と連係してヒューマノイドを1箇所に追いこんでいく。その手並みはじつにあざやかで、無駄がなかった。
敵は、もともとが警備用に造られているうえに、殺人マシーンとしてさらに改良されている。人型兵器の戦闘力と殺傷能力は、日々専門の訓練を受け、鍛え上げられている戦闘のエキスパートらですら後込みさせ、戦意を損なわせるほどに常軌を逸していた。だが、シリルは怯まなかった。
冷静さを失わず、つねに最前線に出て確実に敵を仕留めていく。正確な状況判断と抜群の戦闘能力。隙のない見事なその動きは、つい昨日まで数日間、生死の境を彷徨っていた人間のものとも思えなかった。それどころか、目覚めた直後に敵襲を受け、追い打ちをかけるように痛めつけられてさえいるのである。軍の中でも殊に精鋭ぞろいとして勇名を馳せる王室師団すら霞む戦いぶりには、素人ながらもそれなりに腕におぼえのあるマティアスにとって、ただただ目を瞠るばかりだった。
安全装置をはずしたブラック・バードの驚異的な操縦技術に度肝を抜かれ、舌を巻いたのはつい数刻まえのことである。しかし、一軍人としての戦闘力までこれほどのものであったとは。
「マティアス、さがれっ」
叫んだ瞬間、真横の壁を強く蹴ったシリルは、天井スレスレの位置まで跳躍すると、身を捻って数メートル先の通路に着地した。マティアスの目の前に、通路わきから現れた敵の姿が小山のように立ちふさがる。その左胸を、背後から撃ったシリルの銃弾が食い破った。死の概念が欠如しているヒューマノイドは、完全に己の機能が停止するまでプログラムされた内容に忠実に従おうとする。心臓を撃ち抜かれ、さらにもう1発、つづけて頭部に被弾してからも、人型兵器はマティアスに襲いかかろうとした。シリルのおかげで態勢を整える余裕ができたマティアスは、すかさずその懐に飛びこみ、最強レベルにしたスタンガンを心臓部分にお見舞いした。
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