セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第12章 洗脳

第3話(7)

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「さっきから俺に対する呼称がおかしいな。口調も態度も完全に錯誤してる。ローレンシア陸軍中将ともあろう者が、階級もない傭兵相手にへりくだりすぎてやしないか?」
「それは……」

 気まずそうに押し黙ったオクデラに、シリルは苦笑を閃かせた。

「まあ、そういう意味では、非礼の極みともいえる俺の態度も人のこと言えた筋合いじゃねえな」

 シリルの言葉に、王室第1師団の長はなにか言いたげな様子を見せたが、結局言葉にはせず、控えめに恭順の意を表した。

「ともあれ、いまは最短で決着をつけることが優先だ。俺が前線に出るのは、べつに下っ端の役目だからというだけじゃない。適材適所。殺人鬼どもを相手に充分やり合える戦闘力を有している。それだけの話だ」
「でも兄ィ、怪我の具合は……」

 横からおずおずと口を挟んだのはマティアスである。余計な口出しをしてはと思うものの、やはりもっともシリルの身体の具合について詳細を把握している関係上、部外者の立場であっても言わずにいられなかったようである。案の定、マティアスの発言に不快――シリルへの『兄ィ』という呼びかけも気に入らなかったようである――を示しつつも、オクデラもまた、懸念の色を濃くして思いとどまらせようと口を開きかけた。だが、シリルは取り合わなかった。

「それも織りこみ済みのうえでの判断だ。俺の体調が万全じゃない点を差し引いても、オクデラには悪いが、王室師団より俺のほうが遙かに動ける」
 断言するや、時間がないと身を翻した。

「シリル様っ」
「援護を頼む。頼りにしてる」

 肩越しに振り返って、シリルは不敵な笑みを投げかけた。

「兄ィ! オレもご一緒しますっ!」

 シリルから受け取った武器を手に、マティアスがあわてて追いかける。素人が同行したのでは足手まといになるとオクデラは止めようとしたが、シリルはあっさりそれを認めた。

「自分の身は自分で守れよ」
「もちろんでさぁっ!」

 勢いよく応えたマティアスに、戸口の壁ぎわに身を寄せたシリルは手の動きのみで静かにするよう合図した。注意深く外の気配を探り、そっと移動してキャスター付きの椅子を引いてくる。そのうえでさらに、室内の者たちにも動かぬよう指示した。流れる沈黙。刹那、シリルは構えた椅子を、廊下に向かって投げつけるように押し出した。
 おなじタイミングで制御室内に飛びこもうとしていたヒューマノイドが、足を取られて廊下の床に叩きつけられる。その心臓を、シリルは流れる動作で素早く撃ち抜いた。同様に、戸口から廊下に向けても数発発砲する。重い物が立てつづけに床に沈む気配がして、あたりにふたたび静寂が訪れた。しなやかな長身は、廊下の向こうへと滑り出ていった。
 様子を見守っていたマティアスが、すかさずあとにつづく。その巨躯が廊下側に出たタイミングで扉が閉められた。先に出たシリルによる、敵の侵入を防ぐための配慮だった。

 意を酌んだオクデラは、ただちに操作卓に向きなおると、まずはじめに中央制御室の出入り口をロックした。つづいて、庁舎内に散る配下の者たちの位置確認をする。全体の状況を素早く把捉はそくした王室師団長は、シリルの計画を実行に移すべく、通信機に向かって指令を発した。
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